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刺しゅう作家の戸惑い【作品名とキャッチコピーの違い】
たかしは、ノートパソコンの画面越しに、刺繍作家のエミと向かい合っていた。彼女は少し緊張した様子で画面を見つめ、時折視線をそらしながらも話し出そうとしているのがわかる。
「実は、知りたいことがたくさんあるんです。でも、ちょっと稚拙な質問かもしれないんですけど…」
たかしは柔らかく頷いた。「いえ、どんな質問でも構いませんよ。エミさんの作品について、少しでも力になれたら嬉しいです」
エミは少し考え込んでから、ようやく口を開いた。「あの、作品のタイトルとキャッチコピーって、何か共通する部分があるのかなと思っていて。私はいつも作品のタイトルをつけるときに、その作品の世界観を共有してもらいたいなと思うんです。でも、それってキャッチコピーにも似ているのかなって…」
たかしは画面越しにエミの表情をじっと見つめた。その眼差しは、彼女が抱えている疑問の本質を探り出そうとするかのように、真剣だった。
「そうですね…タイトルとキャッチコピーには、確かに似ているところもありますが、違いもあります」と、たかしはゆっくりと言葉を選びながら答えた。「タイトルは作品そのものの名前、いわば一生ものの名前です。一方で、キャッチコピーはその瞬間に人の心を引き寄せる『表情』のようなものと言えるかもしれません」
エミは目を少し丸くして、たかしの言葉を飲み込むように頷いた。「表情…」
「ええ。タイトルは、その作品が持つ深い世界観や本質を一言で表現します。エミさんの刺繍作品が描き出す物語や雰囲気そのものを、象徴する名前です。対して、キャッチコピーはその作品が今、ここでどんなメッセージを伝えたいかを教える一言です。瞬間的に見た人に印象を与え、心を動かす力を持たせるんです」
エミは少し顔を上げ、たかしに尋ねた。「じゃあ、例えば『星降る刺繍』ってタイトルだとしたら、どんなキャッチコピーが考えられるんでしょうか」
たかしは少し考え込み、柔らかい笑みを浮かべた。「そうですね…例えば『夜空に、希望を』とか、どうでしょうか」
エミはその言葉を聞き、画面越しに驚きと感動が混ざった表情を見せた。「すごい…一言なのに、想像が広がります」
たかしは微笑んで答えた。「言葉は短くすればするほど、想像の余地が生まれます。人の心に響くスペースが生まれるというか、余白ができるんです。それが僕にとっては言葉の面白さですね」
エミはその言葉に深く頷いた。「確かに、タイトルもキャッチコピーも、そうやって作品の奥行きを感じさせるものにしたいですね」
「そうですね。エミさんが作品に込めたい世界観や思い、それを最初に受け取る人のことを思い浮かべながら、ぜひ一言一言を大切に選んでください。それがタイトルであり、キャッチコピーです」
エミは、たかしからのアドバイスに心からの感謝を感じていた。疑問が解消されたわけではないが、彼の言葉を通じて自分の作品に対する新たな視点を持てたような気がしていた。
「ありがとうございます。なんだか心が軽くなりました。また次回、相談させてください」
「もちろんです。エミさんの作品が、素敵な名前とキャッチコピーでさらに輝くのを楽しみにしています」
たかしは画面越しに穏やかな笑顔を見せ、エミもその笑顔に応えた。Zoomの画面が閉じられたあと、彼の言葉がエミの心に温かく残り続けた。