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詩集『断片』


1. 記憶


精神の海に漂う瓦礫のような記憶の下に、
ある感情が隠れている。

沈んだ船に残る多数の記憶の遺体。
柔らかく、崩れていくその肉片は海の生物を新たに生かしていく。

悲しみという名の感情に宿る愛の記憶に浄化され、涙は大海に滴る。

肉体から流れる血には、魂の記憶が眠る。

時が満ち、
全てのものが消滅するとき、それらの記憶は精神の雨となり、宇宙へと降り注ぐ。


2. 断片


一瞬の擦過音の中に
罪の響きが脳裏を過ぎる。

祝福の泉には
後悔と懺悔が漂う。

呪われし者は呪い、
祝福されし者は祝福し、
盲いた者は怒りの葡萄を食す。

これらすべて
一瞬にして
永遠の交響楽なり。


3. 車輪


残火の苦しみ。

紡いだ記憶は忘れ果て、
残るは港、古の。

あなたは気づく。私の欠落。

触るように、祟るように。

因果の車輪、回りだす。

神は笑う、残酷に。
私は泣く、喜びに。

再会は、明日。


4. 快楽


行きがかりの道連れを
宵の奈落へ誘い込み、

そして、秋の夜風が
隣でそっと私に囁いた。

「もう一度、もう一度」

否定しがたいあの名前、
名状しがたいあの快楽。

「もう一度、もう一度」

何か、見知らぬ刻印を
私はあの木に刻んでみせた。


5. 朝


ある朝、二つの目が目覚める。
見つめるは、フクロウの瞳。

生命の泉は
爛れた私たちを静かに沈める。

昨夜、月光がある女に囁き、
細き光の線が
彼女の身体を形作った。

私は重く苦しい本を捨て、
靴を脱ぎ捨てた。

太陽は微笑む。

ミネルヴァのフクロウが私を見つめる。
どうやら時が来たようだ。

ひとつの墓を、
彼女は私のために掘ってくれた。


6. 夢


意識を感覚し、
感覚を意識する。

涙し、手に触れ、温める。
流れ落ちる汗、乾く髪の毛、揺れる足。

昨日見たもの、
明日見るもの。
いつか来た道、
明日の運命。

温めるもの。凍らせるもの。

流れ落ちる血、母の涙。
断頭台に消えた「夢」。


7. 糸


私は糸のように生きた。
揺らぎながら、かすかに漂いながら。

水に運ばれ、
やがて炎に呑まれた。

きっと、悲しみの涙を見た。
地獄の深淵も覗いた。

それでも、
私の上にはいつも光があった。

どこかで、誰かの歌声が聴こえた。

私は幾度となく奇跡を目にした。
生命の誕生も見つめた。

私は本当に、ただの糸にすぎなかったのか?

それとも、
最後には—
あなたたちの流した涙ではなかったか?

存在の脈打つ大いなる流れが、
私をどこかへ押し流した。

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