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2016年「スイス・アーミー・マン」
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公開 2016年
監督 ダニエル・シャイナート ダニエル・クワン
公開当時 ポール・ダノ32歳 ダニエル・ラドクリフ27歳
無人島に漂着し絶望する青年ハンクは、浜に打ち上げられた男性の遺体に気付く。腐敗によりガスを発するその体はまるでジェットスキーのように海を滑走。彼らは友情を育みながら共に故郷を目指す。
「屁」で始まり「屁」で終わる映画といっても過言ではありませんね。
この上なくくだらない内容にも関わらず、見た後に残るこの静かな感動は一体なんなのでしょうか。
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無人島にたどり着き、洞窟で寝起きを共にする二人だったが、死体だと思っていたメニーはハンクに突然語りかける。
ハンクは無分別なメニーに手を焼きつつも、無人島で友を得た事を喜ぶ。
メニーは生前の記憶を無くしていた。
共に無人島から脱出すべく旅を続ける二人…
メニーは死体ながら、口から飲み水を出したり、ガスで口から物体を弾丸のように吐き出したり、硬直した体で木をたたき割ったりするまさに万能ツールなのです。
友情をはぐくみながらも、無人島でのサバイバルのためメニーの体を使い倒すハンク。
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ハンクはバスで毎日顔を合わせるサラという女性に恋していたが、話しかける勇気が無く一度も会話することが無かった。
「僕だって僕みたいな男とは付き合いたくないよ…」
ハンクが森の中に捨てられたゴミを利用して、バスや車、果てはレストランや映画館まで再現するのは驚きですね。彼はのっぽさん並みに手先が器用なのですね。
ハンクは即興劇でサラに扮し、メニーに恋することの素晴らしさを伝える。
捨てられていたサングラスをメニーにかけ「女はミステリアスな男に弱いんだ」
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ハンクは風采のあがらない非モテ男子でありながら、自らの恋愛に関する知識を総動員しメニーに恋愛の手ほどきをするのです。
恋人との食事や映画鑑賞、ドライブやディズニーランドもどきまで、恋愛の一通りをメニーに教えるハンク。
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焚火をしながら共に寝転ぶ二人。
そこはわずかに携帯の電波が届いており、ハンクにメールが届く。それはハンクの父親からで誕生日になると自動的にメールが送られるサービス。
「くだらない機能さ。僕が死んでも毎年メッセージが届く」
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寝ている所を熊に襲われ、命からがら逃れた場所はなんと民家の庭だった。それもなんとハンクの憧れの女性サラの家。
二人が無人島だと思ってさまよっていた場所は、なんと人の住む町のすぐ傍だった。
二人のただならぬ様子に警察を呼ぶサラ。
ハンクがメニーのために手作りで創作した映画館やレストランをを見たサラは「やだ、何これ…!」
意中の女性に自分たちの倒錯した世界を垣間見られたことの恥辱…
これはまさに思春期の少年がネットの検索履歴を盗み見られた時と同じくらいの恥ずかしさではないでしょうか。
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ハンクが死体として警察に回収されることを恐れたハンクは、再びメニーを連れて逃走。
メニーを浜辺に連れて行き最後の別れを交わすと、ガスを放出しはじめたメニーが沖合へと勢いよく進んで行くのを見送る。
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結局、死体以上人間未満の不思議な存在であるメニーとはいったい何者だったのか…
彼が実質上死体となった経緯も、生前の素性も語られずに終わるのです。
話があまりに荒唐無稽なため、結局メニーはハンクの孤独な心が生んだ妄想だというオチなのかと思いました。
人生に絶望し自殺未遂までしたハンクは、メニーに生きる喜びを教える。
「君に人生の素晴らしさを知って欲しかった」
例え成就せずとも、誰かに恋する事は素晴らしい… メニーに恋愛の手ほどきをする内にハンクの中で報われない思いが昇華できたのではないでしょうか。
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やはりこの映画の醍醐味は世界的大ヒット作「ハリー・ポッター」のハリーを演じた、ダニエル・ラドクリフがメニーを演じる事の意味の大きさにあるのではないでしょうか。
ダニエル・ラドクリフのファンにとってはまさに踏み画とも言える作品ですね。
ハリー・ポッターを卒業してからの彼は俳優として迷走している感を受けましたが、今作をもって完全に子役スターの呪縛から解かれ演技派の俳優へと脱皮したと言えます。
映画のタイトルにもなっているスイス・アーミー・ナイフとは、10センチほどの小さな楕円形のボディにナイフ、ハサミ、爪やすり、栓抜きなどさまざまなツールが折り畳まれて収納されているもの。
母が海外旅行に行った時に買ってきたのを覚えていますが、ひとつひとつのツールが中途半端で非常に使いにくく、結局一度も実生活で使われることのないまま、引き出しの奥で眠ることになりました。
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本作は2016年サンダンス映画祭最優秀監督賞など数々の賞を受賞しています。
奇想天外なストーリーで最後まで先が読めず、一気に見せる魅力があります。
全編に渡って下ネタ満載で、デートムービーとして見るには全くお勧めできない映画といえますが、これを見て心底笑い合える異性となら間違いなく人生を共に歩めるのではないでしょうか。
見ると不思議と心が温まり、何度も見たくなる中毒性があります。
普通の青春映画の範疇には収まらない不思議な映画ですが、なぜかほろ苦い青春の燃えカスのような余韻が残るのです。