1993年公開「ボビー・フィッシャーを探して」
公開 1993年
監督 スティーブン・ザイリアン
公開当時 マックス・ポメランク(9歳)
チェスを題材にした作品は数多くありますが、その中でも際立った名作と言えるのではないでしょうか。
実在のチェスプレイヤーであるジョシュ・ウェイツキンの父によるノンフィクションを元に制作され、チェスを通して主人公ジョシュの成長と葛藤、家族や仲間との絆が描かれています。
ジョシュは7歳という年齢ながらチェスに対して天才的な才能を持っていた。父フレッドは息子の秀でた才能を伸ばすべく本格的な英才教育を試みる。
天才チェスプレイヤー、ボビー・フィッシャーの物語がジョシュ自身の語りで随所に挿入され、見る者もいつのまにかチェスの奥深い世界に引き込まれてしまいます。
「フィッシャーは自分を相手にチェスを始めた。一手ずつ慎重に、フェアに… そしてある日ついに彼は、自分に勝った」
黒白交互に一人で駒を指し、最終的に自分を相手に勝ったというエピソードがシンプルに淡々と語られますが、孤高の天才の苦悩を感じるとともに、自らを客観的に攻略することのできるフィッシャーの驚くべき頭脳に驚嘆してしまいます。
「そして彼はある日突然、姿を消した…」
実際ボビー・フィッシャーはソ連のプレイヤーとの試合を放棄し王座を返上した後、長い間行方不明になっていたそうです。
ジョシュにチェスの天才的な才能があることを知った父フレッドは、往年の名プレーヤー、ブルースを息子のコーチに雇う。
ジョシュはブルースの指導により潜在能力を発揮し、次々とタイトルを獲得する。
勝ち続けたジョシュだったが、父親の期待に応えようと負けを恐れるようになり、スランプに陥る。
ジョシュの才能を伸ばしたいと思う気持ちからか前のめりになり、試合に負けたジョシュを責めるようになる父親。
ジョシュはブルースに仲間と公園でチェスをすることを咎められる。
「君は他の人間とは違う。ボビー・フィッシャーになるのだ」
「僕は、彼じゃない」
ジョシュにチェスだけの人生を送って欲しくない母親のボニーは、ブルースや父親のやり方に反対し、ジョシュのやりたいことを尊重するように主張する。
父親やブルースとのわだかまりを乗り越えたジョシュは、自らの意思でチェスと本気で向き合う事を決意する。
親や師から精神的に独立したジョシュは、勝負師として試合に挑む…
全国大会で順調に勝ち進んだ助手は、同じく天才と称されるジョナサンとの決勝戦を迎える。
激戦のすえ自らの勝ちを読み切ったジョシュは引き分けを申し出るが、ジョナサンがこれを拒否しジョシュは全国大会で優勝を果たす。
チェスのルールを全く知らなくても、最後の決勝のシーンは息詰まる緊張感があり、充分楽しむことができました。
ボビー・フィッシャーは冷戦下にアメリカ人として初めてチェスでソ連の選手を下し、公式に世界チャンピオンになったプレイヤー。
挑発的な言動や試合を放棄したりと奇行も目立ち、長年に渡って失踪するなどその数奇な人生も良く知られています。
IQ189の頭脳を持ち、「今、神とチェスをしたとしても、私が先手なら引き分けだ」という名言を残しています。
この映画の最大の魅力は何といってもジョシュを演じたマックス・ポメランクの可愛らしさではないでしょうか。
両手に顔を乗せチェス盤越しに相手をじっと見つめる澄んだ眼差しに、当時20代だった私はすっかり魅了されてしまいました。
ジョシュの7歳とは思えない落ち着きと知性、他人を思いやる心優しさに感動したものです。
実際モデルとなったジョシュ・ウェイツキンは太極拳の大会で優勝するなど、チェスだけにのめり込むことなく豊かな人生を送ったようです。
天腑の才を持つ息子とその父親の歓喜と苦悩が淡々と描かれ、子を持つ親なら誰しも共感できる映画ではないでしょうか。