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【閑話休題#39】呉勝浩『Q』

こんにちは、三太です。

今回はこちらの作品を読みます。

読むきっかけとなったのは、呉さんがネットの記事で次のようなことを語られていたからです。

世界観の入り口は吉田修一さんの「悪人」だという。殺人犯が女性と逃避行する傑作小説だ。「1ページ書いて無理だなと思ったけれど、やさぐれた感じの出だしに香りは残っているかなと」

(「好書好日 呉勝浩さん「Q」長編恋愛小説、「悪人」×BTS×「AKIRA」で見すえた反権威」)

『Q』の始まりの一つに「BTS」「AKIRA」に加え、吉田修一さんの『悪人』があるというのです。
もうこれは読むしかないなとなりました。

そもそも呉勝浩さん自体にも興味がありました。
昨年の『このミステリーがすごい 2023』の国内1位を取ったのが呉さんの『爆弾』でした。

この記事も読んでいて、ぜひ呉さんの作品を読みたいなと思っていたところ、ちょうどいいなということで手に取ることにしました。


あらすじ

あらすじを書くのが難しい作品です。
千葉県の富津に住む町谷亜八(通称ハチ)の語りから物語は始まります。
ハチは清掃業者で働いているのですが、少し前に傷害事件を起こし、執行猶予中の身でもあります。
ハチには両親の異なる姉ロクと同じく両親の異なる弟キュウがいました。
ハチは7年前に家を出た過去があり、ロクとキュウとは音信不通の状態でした。
そんなハチにロクから連絡が入ります。

ポイントは弟のキュウが美少年であり、ダンスの才能があるということです。
キュウを芸能界で活躍させるため、ハチやロクをはじめ、周りの人間が人生を狂わせていきます。
ジェンダー、美、暴力、嫉妬、無償の愛、祝祭と日常・・・。
様々なテーマが重層的に盛り込まれた重厚な作品です。

感想

全体を読んでみて、正直『悪人』らしさはそれほど感じませんでした。
確かに呉さんの記事にも「冒頭にその香りは残っているかな」的なことが書かれていたので、やはり『Q』は『Q』だなと。
ただし、車の車種が具体的に述べられる点やたくさん映画が出てくる点は吉田修一さんの作品に通じるところだなとも思いました。
特に映画の登場はこの作品にも共通している点だと思います。
以下、列挙してみます。

①『クリスティーン』(p.17 p.90 p.130)
②『アメリカン・サイコ』(p.31 p.59)
③『ジャッキー・コーガン』(p.175)
④『ワールド・オブ・ライズ』(p.176 p.179)
⑤『太陽と月に背いて』(p.223)
⑥『パルプ・フィクション』(p.483)
⑦『スカー・フェイス』(p.483)
⑧『foxcatcher』(p.491)

8作も出てきましたし、繰り返し登場するのも特徴的です。
 
キュウが所属する芸能事務所の名前が「タッジオ」というのは「ベニスに死す」を連想させます。
「ベニスに死す」に出てくるいわゆる「世界で一番美しい少年」の名がタッジオなのです。
また作中に出てくる、キュウに対する言葉、

「美は、大いなる犠牲とともに成り立っている」(p.523)

も「ベニスに死す」に通じるような気がします。
映画をたくさん作中に出す呉さんなら、「ベニスに死す」を意識したとしてもあながち外れてないとは思ったのですが、どうでしょうか。
 
キュウの才能は周りにいる者の運命を左右し、周りも周りで自分の夢をキュウにのせている部分もあります。
ここが物語を駆動していきます。
そして、この作品では、コロナ禍の日本と世界が物語にも大きく影響します。
逆に言うと、上手くコロナ禍の世界と物語が組み合わされているとも言えるかもしれません。
志村けんさんが登場するのは、吉田修一『永遠と横道世之介』とも共通します。
 
この作品では、フィナーレへ向かっていく高揚感がものすごくあります。
キュウ達の運命はどうなるのか、ハラハラドキドキしながら読めるのが『Q』の大きな魅力となっています。
 
最後に・・・登場人物の家族の名前はロク(6)、ハチ(8)、キュウ(9)と数字になっており、ナナはどこにあるのかという謎が残りました。

橋渡る祝祭の果て冬銀河

今回は呉勝浩『Q』の紹介でした。
東京・千葉を舞台に繰り広げられる壮大な物語でした。
 
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。

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