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【柳町光男シリーズ#5】「非情の罠」『さよなら渓谷(文庫解説)』より
こんにちは、三太です。
新学期が始まり、怒濤の一週間が過ぎ去りました。
本当に「怒濤」と書いてしまうぐらい、公私ともに多忙でした。
けっこう自分は日々のルーティーンが多いのですが、そのルーティーンも崩れるほど、追われまくっていましたが、少し落ち着きつつあります。
この落ち着きを保ちつつ、生活していければと思っている今日この頃です。
では、今回は以前、『さよなら渓谷』の作品紹介をしたときに取り上げた「映画監督、柳町光男さんの解説」に出てきた映画「非情の罠」を紹介します。
『さよなら渓谷』の文庫解説に出てくる10作の映画のうちの5作目です。
約半年ぶりに投稿をあげるマガジンの記事なので、少しおさらいをしてみます。
吉田修一さんの『さよなら渓谷』という作品の文庫解説が映画監督の柳町光男さんという方でした。
柳町さんは吉田修一さんを「紛れもなく真底映画が大好きな小説家」だと述べた後、『さよなら渓谷』という作品もとても映画的だと言います。
例えば、「主題と主人公のすり替わりがなんとも映画的」として、映画『サイコ』を引用します。
また『さよなら渓谷』では市営団地のお隣さん同士が重要な登場人物として出てくるのですが、〈隣の家〉という視点からは映画『隣の女』、『グラン・トリノ』などを引き出します。
〈隣の家〉から〈隣の部屋〉、〈向かいの部屋〉まで押し広げて、まずは『裏窓』。
そしてその後に今回取り上げた『非情の罠』について触れられました。
ちなみに「非情の罠」については以下のような記述となります。
息子殺害の里美の家と、俊介とかなこの家が市営団地の隣り合わせというのも映画的である。私は大いに刺激を受けた。私の観点からすると、ここに映画の映画たる所以のひとつがある。〈隣の家〉のたとえ一方の家しか画面に映っていなくても、もう一軒の家で何が起っているかが同時に且つ容易に想像でき、空間的にも時間的にも映画的要素が濃密である。そして、そこには〈境界〉のテーマとイメージが用意されている。
(中略)
〈隣の家〉を〈隣の部屋〉や〈向かいの部屋〉まで押し広げると、更に多くの映画が該当する。先ずはその空間の妙を最大限活用したヒッチコックの傑作『裏窓』。中庭を挟んだ向かいの部屋の美しい女性を垣間見、惚れてしまう男性の話では、スタンリー・キューブリックの『非情の罠』、(後略)
では、実際に今から見ていきます。
基本情報
監督:スタンリー・キューブリック
出演者:デービー(ジェイミー・スミス)
グローリア(アイリーン・ケイン)
ベニ―(フランク・シルヴェラ)
上映時間:1時間7分
公開:1955年
あらすじ
物語はアメリカの駅で出発を待つ男性の回想から始まります。
KO負けで引退の二文字が脳裏をよぎったボクサー、デービー。
ダンスホールでやりたくもないダンスの仕事をしている美しい女性、グローリア。
二人がアパートの窓越しに出会い、恋に落ちます。
![](https://assets.st-note.com/img/1713122494855-f9E6GgSOOF.jpg?width=1200)
しかしグローリアには、ダンスホールの支配人ベニ―との過去がありました。
グローリアをめぐる三角関係となります。
デービーとグローリアの愛はどのような結末を迎えるのでしょうか。
設定
・額縁構造
・三角関係
・絶妙な行き違い
感想
この映画ではアパートでの出会いがけっこう重要です。
ただ、デービーとグローリアはアパートの窓越しに出会うのですが、お互いの部屋が近距離で、こんな丸見えで生活することってあるのかなとは思いました。
もちろんそれがないとこの物語は始まらないのですが・・・。
今ではあまり現実的ではありませんが、もしかして昔は普通だったのかもしれません。
また、行き違いの描き方が絶妙でした。
それはデービーとグローリアがベニ―のもとへお金を受け取りに行くシーンです。
ベニ―がデービーを消そうとして手下を向かわせるのですが、絶妙に行き違い、デービーのマネージャーをデービーと勘違いしてしまいます。
そこまでの持って行き方が周到に準備されていました。
最後にデービーとベニ―がマネキン工場で決闘をするのですが、原始の決闘を見ているようでした。
原始の決闘って何?という感じですが、冒頭のシーンにあるデービーのボクシングの試合と照らし合わせて考えて、そう感じました。
ボクシングの試合は観客も含め準備されている感じ。
けれども、デービーとベニ―の決闘はあるものでやっている感じでした。
ちょっと映画全体のストーリーの配置に意図的なものを感じたので、そうなのかなと考えてみました。
窓越しの男と女春の雨
その他
・今回は特にありません。
あまり情報がない映画でもありました。
吉田修一作品とのつながり
・アパートの窓越しに出会うのは、『おかえり横道世之介』での世之介と桜子との出会い方に似ている気がします。
ただ世之介と桜子の場合は、世之介が双眼鏡でのぞき見しているのですが・・・。
以上で、「非情の罠」については終わります。
窓越しの出会いからどんどん発展していくさまが面白い映画でした。
それでは、読んでいただき、ありがとうございました。