障害受容・ある少女と母親の事例
我が子の障害に始めて気づいた時、スムーズに受け入れられないことが普通です。「うちの子、なんだかみんなと違っている」と気づきながらも様子を見てみようと月日が立つケースも少なくありません。
両親の障害受容。子供にとって最も第一に必要なことであります。ある少女との事例から親の「障害受容」についてお話してみようと思います。
キューブラー・ロス「死の受容」
精神科医で発達障害の研究にも尽力しておられる杉山登志郎医師によると、両親の障害受容の過程は、キューブラー・ロスの提示した「死の受容」の五段階がそのまま適応でき、最も了解しやすいと言われています。
その「死の受容」を「障害受容の過程」に置き換えた場合を見ていきましょう。
このキューブラー=ロスの五段階は受け入れがたいものを受け入れていく時に普遍的に見られると杉山登志郎医師は言われています。
ある少女と母親の関係
私が以前にカウンセリングを担当した発達障害の少女についてお話したいと思います。
当時彼女は高校生で、精神科医の紹介で父親に連れられてカウンセリングを受けに来ました。主訴は幻覚、幻聴で外出もできないほど苦しんでいました。半年のカウンセリングでそれらの症状は改善しましたが、父親、本人からのヒアリングで、その内容が親子で全く食い違っていたことに驚きました。彼女は親も知らない壮絶な精神疾患と戦っていました。
なぜ、ここまでひどく精神を病んでしまったかというと、発達障害と診断された小学校2年生の時から一度も、両親が娘の障害を受け入れることが出来ていなかったことに尽きます。
特に母親は前述のキューブラー=ロスの五段階モデルの二段階目「怒り」で止まってしまっていました。特に問題だったのが、その怒りが子どもに向いていたことです。母親は育てにくい我が子に、どこにも向けることが出来ない怒りをぶつけてしまい、不在がちな夫の存在も重なって、子育て出来る状況ではなくネグレクトとなり自身もうつ病となってしまいました。父親はようやく娘の異変に気づきましたが、発達障害に関しては一向に受け入れませんでした。
両親の障害を受け入れない、こうした姿勢が子どもに与える影響は、彼女を5年間カウンセリングしてきた私は目の当たりにしてきました。
彼女は社会での生きづらさだけではなく、思春期、青年期に入って重度の二次障害(摂食障害、情緒障害による幻覚、幻聴、希死念慮、自傷行為、他害念慮など)により苦しむこととなってしまいました。
人格形成される大切な時期に適する育児、母親との愛着関係が築かれることなく、結果、発達障害以外の問題を抱える事となってしまいます。友人を作ることが困難ゆえに相談できる人もいなく、非常に激しい自己不全感に陥ってしまったのです。
彼女を通じて、両親の障害受容の早期介入の必要性を強く感じました。それには両親がまずは障害を受容し、「子供の特性」と気づき認めることが不可欠です。
受け入れられない事実を乗り越えて、障害受容への過程を経て両親も共に成長をしていきます。それこそが、子どもの成長を育む全ての基盤となります。