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春のような温かさがいつもある学校に… わたしはここで寝られるよ 〜心の宝物286〜288

🌷掃除時間の終わりに

コロナ機の学校
6年生のフロアの外れ、トイレのあたりにさしかかったのは、間もなく掃除の時間が終わる頃でした。

全国一斉の臨時休校が終了するとき、掃除、とりわけトイレ掃除をどうするかが話題になりました。学校内だけでなく、校長会でも時間をかけて協議しました。様々な立場や考え方がありましたが、この学校では、前後の手洗いと、トイレ等飛沫が想定される場では使い捨ての手袋を装着することを徹底することを前提に、児童の活動から掃除を除かないこととし、児童にも保護者にも説明しました。

とはいえ、細心の注意を払うトイレ掃除は、児童にとって、とりわけ、医療関係者であったり、体調に不安があったりするご家族と同居している子にとっては、心身共に負担が大きいと推察されます。そのため、掃除時間には、必ず一声かけることにしていました。

6年生の男子トイレでは、3人の児童が懸命に取り組んでいました。
トイレ本体の掃除は既に完璧に済んでいました。その上で彼らは、廊下から一歩入った、緑色のフロア、スリッパに履き替えて降りるタイルの床と、廊下の間のフロアに膝をついて、磨きに磨いていました。

🌷わたしは ここで寝られるよ

彼は、日本語を母語としない人でした。日本に来て、それほど長い年月を過ごしたわけではありませんが、強い意志で努力を積み重ね、授業の支援もほぼ要しないほどになっていました。すらりとした長身といつも絶やさない笑顔。弟妹の面倒見もよく、周囲から親しまれていました。

彼は、大柄でがっしりしたスポーツマンでした。明るく朗らかで、周囲にはいつも笑顔の輪がありました。サッカーチームではセンターフォワード。視野の広さや、果断な判断力と行動力は学級でも様々な場面で発揮され、仲間から信頼されていました。

彼は物静かで落ち着いた人でした。周囲が賑やかであっても、付和雷同することはありません。落ち着いて、今すべきことを見つめ、判断して静かに行動する。登校班を引率する姿からも、授業中の姿からも、そんな静かで確かな判断力と意志の強さが伝わる人でした。

3人は場所を分担し、緑のタイルの部分を磨きあげていました。廊下に近いところから、トイレのタイルの床との境、上履きをそこに脱ぐようペイントされたところから、手洗いの流しの下まで。そこに手を伸ばすのを躊躇するようなところもためらうことなく膝をつき、教室の床や廊下を磨くときと変わらない意欲で、取り組んでいました。

「ありがとう。今の時期に、よくそこまで踏み切ってくれましたね」
「ありがとうございます。今だからですよ」
サッカー少年の彼が、小さく、しかし、さわやかな笑顔で、3人で話し合って決めたことを伝えてくれました。
緑色のフロアは、手入れの行き届いたリビングの床のように、輝いていました。

感染予防の観点から言えば、本当はブレーキをかける場面かも知れません。敬意を伝えつつ、時節を説明し、そこまでは必要ないこと、あえて避ける判断をしてほしいことを伝えるべきだったかもしれません。

しかし、私は彼らの思いと行動にすっかり感動してしまいました。
上履きを脱いで、彼らの磨いた床にごろんと寝転びました。
「本当にきれいだ。よくやってくれた。私はここで寝られるよ」
ひじ枕をついて、3人に伝えました。
苦笑いする3人が、とても頼もしく見えました。

かけがえのないあなたへ
素敵なきらめきをありがとう
出会ってくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう
どうか、ありのままで
どうか、幸せで

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