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春のような温かさがいつもある学校に… 心の届く言葉とタイミングを選ぶことができるのは その人への思いがあるから 〜心の宝物281・282

🌷ボタンのかけ違い

コロナ機の学校
この日、6年生の教室で、ちょっとした事件が起こりました。
起こりは、ほんの些細なことでした。

1時間目の授業を終えた後、当番の仕事として、黒板を、A君が消しました。A君なりに、懸命に力を込めて、精一杯きれいにしました。
しかし、同じグループで、いつもなかよしのBさんには、まだやり切っていないように見えました。

「A、まだ線が残ってる!」
日頃から冗談を言い合い、仲のよい彼を信頼すればこその言葉でしたが、語調が強かったことと、にぎやかな教室で、ほんの一瞬、エアポケットのようにざわめきが途絶えた瞬間だったこともあって、彼女の言葉は、教室全体に響き渡りました。
当然、A君の心にも、彼女の思いを超えて、鋭く突き刺さりました。

「悪かったな!ならお前がやれ!」
いつもなら、「え~?どこが?」と苦笑いで返すだろうA君の、思いもよらない怒りの感情に、戸惑い、悲しむBさんの気持ちも、一瞬でいらだちに変わりました。

「はぁ?なにそれ」
お互いに言葉を返せないまま、にらみ合う形になりました。
教室の空気が凍り、静まり返りました。

🌷心に届く言葉とタイミングを選ぶことができるのは その人への思いがあるから

そのときでした。
「A、おこりすぎ~」
のんびりと声をかけたのが彼女でした。二人より一つ後ろのグループで、子どもの言葉でいえば同じ「号車」。給食当番や、掃除などを共にする人でした。言葉は多い方ではありませんが、穏やかで、周囲をよく見ており、落ち着いてよき言動を選択する彼女は、仲間から信頼されていました。
その彼女の言葉は、決してA君の激情をとがめだてするようなニュアンスではなく、むしろ彼なりにベストを尽くしたことを、自分はしっかりと受け止めているというメッセージが伝わる温度感でした。

その言葉に、すかさず彼が反応します。
元気で明るいお調子者のようにふるまい、彼自身もそんな自分を楽しんでいますが、物事の本質をきちんと見抜く目と勇気のある人でした。
「いや、そりゃおこるでしょ。Aなりにがんばったんだから。うーん…。だけどAなりに」
ことさらおどけて、少しからかいながら、A君をかばうようでいて、Bさんの思いも立てている彼の言葉に、教室中がどっとわきました。

A君は、救われたように苦笑いを浮かべ、座り際に小さく「ごめん」とBさんに声をかけます。
「ったくぅ。でも私もごめん」Bさんもむすっと、しかし明らかにほっとした表情で返します。
凍っていた教室が溶け、温かな空気が満ちました。

「本当に、二人とも、最高のタイミングの最高の声かけでした」
担任の先生が教えてくださいました。

その人の心に届く言葉やタイミングを選ぶのは、本当に難しいものだ。
ほんの些細な行き違いや、はじめのボタンの掛け違いで、自分の思いと全く違うものが伝わって愕然とした経験は、きっと誰にもあるだろう。私自身も数えきれない。
「誤解だ!」と、却って声を荒げたこともあるが、いつの頃からかしないようになった。そう言って、事態が好転することは絶対にないこと、相手の受け止め方を、言葉の発し手がコントロールすることは、実は不可能なのだということを学んだからだ。
A君とBさんのいさかいも、そういうことだと思う。君たちが介入しなければ、一時的にはもっとこじれたことだろう。二人にとっては、それも学びの機会だったと思うが、痛みを避けられなかったことは間違いない。

君たちは、仲間として、それを放っておけなかったのだろう。
そうして、瞬時に、状況を読み解き、自分が思う最善の言葉を、最善のタイミングとトーンで発したのだ。無論、そこに、計算などあるはずがない。

あったのは、思いだ。どちらか一人でなく、二人とも大切な仲間であるという思い。その二人に傷つけあってほしくないという願い。その願いの発露が、あのタイミングの、あの言葉だったのだ。

君たちから、私たちは、難しいけれど、とても大切なことを学ぶことができた。
ありがとう。

かけがえのないあなたへ
素敵なきらめきをありがとう
出会ってくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう
どうか、ありのままで
どうか、幸せで

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