「こういうのでいいんだよ」ってなんだ?実写化ゴールデンカムイを見て

皆様初めまして。20代後半の社会人Imoと申します。このノートで私は主に映画館でやってるものをメインに色々語っていこうと思います。

素晴らしい。まさにイメージしたゴールデンカムイの実写化そのものと言える出来でした。主演の山崎賢人はよく実写化映画に引っ張り出されてはネットのオタクに忌避されてきた可哀想な人ではありましたが、この映画では文句なしに杉本を演じ切っていたと思います。特にアクションがとてもよかった。もちろん演出や技術の力もあるのかもしれないけど、ロシア兵に単身突っ込むところや二階堂兄弟をボコボコにするところ、クマと取っ組み合いになったりと思い出すととんでも無くバトルシーンが多い。その全てを乗り越える杉本の強さに負けない演技が出来ていたと感じています。

もう一人個人的に驚いたのは舘ひろしが演じる土方歳三。ゴールデンカムイはアニメ化もされていて、土方には中田譲治というどハマりの渋い声が当てられているのですが、舘ひろしの土方はアニメとは別の形での渋カッコ良さが出ていて好きでした。強烈な印象のあるアニメに負けない要素もあるって素晴らしい。

ここまで話しただけでも私がアニメや原作をすでにみていることは察するかと思いますが、この映画はその私がまさに「こういうのでいいんだよ」と言いたくなるような実写映画の傑作であると言えるでしょう。

さて、タイトル回収させていただきましたが、よくあるこの「こういうのでいいんだよ」って何を指してるんでしょうね?この言葉ってまさに何か強い需要や要望なんかがあるのが明確で、それが満たされた嬉しさが出ていますが、その需要や要望ってのがなんなのか深掘りしていこうというわけです。

実写化映画に対する要望なんて「原作に忠実に作ってほしい」だけだよ、なんてことを言われるかも知れません。確かにダメなパターンの実写化ではおかしなオリジナルストーリーが展開されたり謎のオリジナルキャラクターが追加されたりキャラのビジュアルが全然違ったりで原作に忠実とは言えない出来ではありますね。しかし、原作に忠実だからといって満足する出来になるとは限らない事例もあります。しかも実写化ではなくアニメ化においても起こり得るのです。

個人的な判断ではありますがアニメの「チェンソーマン」は原作に忠実ながらも原作ファンに不満を持たせてしまったアニメであると言えます。実際少し調べるとDVDの売り上げはあまり伸びなかったとも言われていて、いわゆる失敗という認識を持った人の声は少なくないです。

知らない人のために解説すると、チェンソーマンのアニメの映像としてのクオリティはかなり高かったです。おそらく原作を知らずにみた人なら普通に満足できるレベルではあります。しかもEDが毎回変わるという豪華さ。かなり気合を入れて作られたのは間違いないです。

にもかかわらずなぜ原作ファンは不満に思ったのか。それは「原作の魅力」に忠実ではなかったからです。

チェンソーマンの原作の魅力は、ギャグとシリアスの振れ幅の大きさにあると私は考えています。
特に漫画という媒体だからこそ、次のコマでいきなりとんでもない展開を起こすことができ、シリアスなシーンでも、ギャグシーンでも読む人を楽しませるテンポ感が生まれるのです。

アニメのチェンソーマンはそこを間延びさせてしまったことが失敗でした。余計な沈黙というか、謎のリアル感を会話に持たせてしまい、テンポが悪くなって原作の魅力を忠実に再現できなかったわけです。ストーリーやキャラクターに関しては完璧と言えるレベルでトレースをしていましたし、それを素晴らしい作画で見せてくれたのですが、原作と同じセリフ同じストーリーでも、原作の一番の魅力を取りこぼしてしまうだけで失敗してしまうのが、アニメ化の難しさを感じさせます。

つまり、原作ファンが求めるのはストーリーやキャラクターのビジュアルに対する忠実さではなく、原作のストーリーとキャラクターが揃った上で醸し出される作品独自の魅力に対しての忠実さということです。この点においてゴールデンカムイは優秀でした。ゴールデンカムイの原作も絶妙なシリアスとギャグの配分が魅力ですが、映画でも杉本が真剣な表情で戦う一方白石と冬の川に落ちて震えながら情けなく叫び合っていたりと、しっかりその魅力をトレースしていました。

アニメ化にしろ実写化にしろ、原作があってオリジナルでない限り求められるのは「原作の魅力に対する忠実さ」でしょう。それは原作の認知度が高ければ高いほど重要です。活字離れがすすんだ現代では小説原作の映画より漫画原作の映画のほうが、監督のオリジナリティよりもトレースが重要視されるような気がします。

アニメ化や実写化でオリジナリティが評価されるとしたら、それは原作の魅力を掬い上げた上で表現されたものでしょう。作品の設定、キャラクターの人格、世界観、それらを破綻させずに原作の魅力を守った上で表現したオリジナリティなら、原作の延長線上のものとして、受け入れられるはずです。オリジナルストーリーでも、「ああ、あのキャラならこういうことしそうだよな」とか「こういうこと言いそう」という風に。せっかく推してるコンテンツが増えるなら、新しい要素もあったら嬉しいのはファンとしては正直な気持ちですよね。

鬼滅の刃など、ハイクオリティなアニメ化がなされ、成功したことで最近のアニメ化はとにかく作画を良くすることに注力する風潮が出来上がりました。同じようにゴールデンカムイの成功をきっかけとして、実写化もちゃんと作ればいい作品になって売れるという風潮がどんどん広まってくれたらと思います。そして、贅沢を言うならちゃんと作って原作の魅力を守った上で、ファンの納得するオリジナルを見せて驚かせて欲しいと願うばかりです。

そんな作品に出会えることを楽しみに私は映画館に通うのです。

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