鳥の寿命 2024年8月号(Øz50首連作,詩+川柳12句)

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🦜Øz🦜

magical box

(泪を真珠にできたらいいのにね 天国があれば救われる?)

ささくれた人差し指の痛みなどハナカマキリに口づけること

音律は樹海に封緘されたまま雨だれのように鳴るオルゴール

白樺の群生地に棲む声を聴く冷たいカフェオレを飲んでいる

今はまだ眠っていなさい 着くまでは決して雨は止むことはない

できるだけ遠く行きたいと思う ボトルシップを抱えて眠る

十字架を盗んだ風は夜の音 祈りの言葉を君も知らない

鉄塔を朝靄がつつみこんで夢は掴めば酸化していく

起きれない雨が窓をたたく音 水底に沈んでいる古い鳥籠

微笑みはずっと冷たいことがある鏡の中の自分が割れる

夜に見る白木蓮は危ないね回避することは難しい

迂回路にふりしきる花 中心で目を閉じたままサイレンを聴く

僕たちがカーブミラーの中にいて胎内記憶を話してくれる

桜舞う昇交点で出逢いたい世界をたやすく壊してみせて

完璧な思い出は捨てる 冷蔵庫 永久歯を星に埋めている

目を閉じて触る(正解:ハムスター)What's inside the box?

ずっとがたがたがたがた聞きながらランドリールームで読書しているよ

アネモネを口に挟んだ終末期 気道を確保しやすい姿勢

何度でも廻る季節の中にいて霊柩車の上のさくらねこ

伝えたらきっと困ってしまうから サンルームで吹くシャボン玉

シロップまみれの手でめくる聖書生まれもった罪をかさねる

臍の緒が生えてた場所にピアッサー当てる冬の陽が冷たさを増す

ねえ神さまって呼んでもいい?メモパッドでペガサスを走らせた

射抜かれてましろな天に抱かれて ハニー ゴールド 遠くで笑う

音もなく記憶は断裂していったガーゼに滲んでいる組織液

神さまは残りの命を知っていて 目覚まし時計の電池を換える

あるだけの花を摘んでは贈ること hey Siri、愛ってなにか分かる?

ねえさっきやったみたいなうみねこの鳴き真似をして ねえ(きみがすき)

手の爪にポストイットを貼り付けて優しい悪魔みたいに笑う

一生のお願いをするゆりちゃんの首元で揺れる小さい十字

水鳥の泳ぐ軌跡が祈るよう  誰かが願ったセカイノハメツ

夢の中夢だとすぐに気がついて花びらで満たされたゴミ袋

午後の陽のように甘い飴玉で僕たちはエッシャーのだまし絵

早朝の田園の中僕たちで燃やす熾天使の肖像画

必要がある/赦される/必要がある/僕たちが/非常口から追放

救急車の鏡文字をなぞったら風に抱かれるナイトライダー

ことごとく嘘が罪ならどうしよう 炭酸水のレモンの香り

「約束を守らないって約束して」花びらまみれの電話ボックス

コンタクトケースに新月を閉じ込めて君のことはだれにも言わない

両腕で太陽も海も花束も抱えて笑っている季節

梱包材の海で泳いでる触れてみたいと思った ごめん

思い出はゆっくり滲むポラロイド熱はゆっくり指を伝った

怒ってもすてきな君をぎゅっとして(ごめんって言えなくてごめんね)

永遠に一緒にはいられない わかってる わかってるけど祈ってみた

聖告を受けて花になる単為生殖を繰り返す闇

中庭で花の鎖を編みながら嬰児の腹部にある縫合痕

思い出のいちばん奥から取り出して真鍮製のビショップの駒

六月の雨がつくる水紋は虹彩に似てまばたきをした

図書館の壁に埋まったアンモナイト行きたいところはそう多くない

夜の底めがけてきみは羽ばたいて私の声をずっと知らない

🦜

天国のドア

星空は
溶ける火を凍らせて
声を 色を 匂いを
ぜんぶを拾って
きれいだな
天国の入り口
朝焼けは
凍てつく火を溶かして
声を 色を 匂いを
ぜんぶを捨てて
きれいだな
天国の出口


🥚


🦆芒川良🦆

cliché

多重人格のピアノと触り合う

炎へ主語を唆す

静水時 世界を規定するとして

確かな過去をなぜ愛せない

詩語は臓器のすべてに満ちて

興奮を隠す仕草に同様に

首の絞め方わからない 青林檎

クリシェというクリシェ 色覚はおだやか

調律師として調律されていく

弱るから座った、ように、見えて、くれ、

主語も炎を恐れよう

慎んでしばらくはピアノの倫理

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