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【京都からだ研究室】身体へのアプローチを通じて”安全”をみつめる - はじめてのポリヴェーガル理論®① (22/07/16)

身体へのアプローチを通じて”安全”をみつめる - はじめてのポリヴェーガル理論®

(100円有料設定ですが全文無料でお読みいただけます)

後藤サヤカさん昨年2021年から立ち上げた身体探究のコミュニティ、京都からだ研究室

2022年度中期のゲスト講師には、昨年の同じ中期にもお越しいただいた田中千佐子さん(アレクサンダー・テクニーク教師、ソマティック・エクスペリエンス(SE)プラクティショナー)を再びお招きしました。

今回のテーマは「身体へのアプローチを通じて”安全”をみつめる - はじめてのポリヴェーガル理論®」

事前学習動画

講座参加者には、研究室メンバー専用facebookグループページを介して、予め「事前学習動画」が配信され、7月16日のワークショップ開催当日までに各自で課題に取り組むようになっています。

神経が穏やかになる場所で、あなたのこころと身体はどんな感じか、観察してみましょう

神経がほんとうに穏やかになる場所はありますか?

私は今回は講座が終わった後にようやく事前動画を観たのですが、ちさこ先生からのこの問いかけについて、あらためて考えてみました。

私の場合は、やはりお寺とか神社など。しかもその場所が古ければ古いほど、心も身体も落ち着いてきて、普段の"私が私である感覚、自我意識"が、多少なりとも薄まるような感じがするかもしれません。

例えば、この講座が行われる京都であれば、会場近くにある下鴨神社と、その境内にある2000年の原生林「糺の森」。

朱塗りの社殿と森のとののコントラストが美しい、下鴨神社と糺の森。

他には、訪れたことがある場所なら、東寺や鞍馬寺。

私が時そのものになってしまう、東寺。

時そのものの積み重なりがある場所が京都にはたくさん残されています。そこに佇んでいると、自分自身の"身体の古層"と共鳴しあう何かがあるのかもしれませんね。

遊びの中で育まれる安全の身体感覚

誰でも赤ちゃんの時に親と一緒に遊ぶ「いない いない ばぁ」や「かくれんぼ遊び」。これらも、他者との関係の中で育まれる安全感覚を司る"腹側迷走神経"のはたらきをactivateするために大事なものだったのですね。これらの遊びは、実際に講座の中でも試して体験することになります。


入念なチェックイン

ちさこ先生の元々のご専門の「アレクサンダー・テクニーク」がテーマだった昨年の講座でもそうだったのですが、講座のはじめに参加者が一人ずつ順番に自己紹介と参加動機などを話す、いわゆるチェックインの時間を、ちさこ先生はとても大切になさいます。
参加者それぞれの問題意識やニーズをできるだけくみ取ろうとしていらっしゃるのです。

私が聴いていて「話長いな...」と正直思ってしまった人の話でも、ちさこ先生は親身になって耳を傾けます。

「いつ、何を、どれだけ話してもいいよ。話したくないことは話さなくてもいいよ」

というのを態度で示す、場そのものが安全(心理的安全性)になるようなちさこ先生の心配りが、とても素敵でした。

この講座のテーマ「ポリヴェーガル理論®」は、トラウマ治療に新たな突破口を開くものとして注目されているそうです。参加者の中からも、胎児の頃や乳児期に遭った事故が元と思われる、長きにわたる身体の痛みや不調の深刻で切実なお悩みの声がいくつか寄せられました。

トラウマはすべて身体に記憶されるといいます。 これまで病院を転々としてもなかなか説明がつかなかったような症状を持っている人などにとっては、ポリヴェーガル理論が新しい角度から光を当てるものになるのかも知れません。

もっとも、「ポリヴェーガル理論がトラウマ治療の決定的最終解答!」というのではないのでしょうが、これまでどうしても説明がつかなかった現象・症状を解明していく大きな有力な手がかりになるのには違いないでしょうし、何より「自分自身を知る」ための方便として、とても良いのではないかと思います。

ポリヴェーガル理論、基本のキ

講座が始まって、まずはポリヴェーガル理論の基本理解のおさらいです。
自律神経は従来は交感/副交感神経の2チャンネルモデルで考えられてきたのが、実は副交感神経はさらに2チャンネルに分かれていて、都合3系統になっているということです。
ポリヴェーガル理論の基本理解には、下記のリンク内の記事がとても分かりやすくまとめられています。

1994年に初めてポリヴェーガル理論を提唱した米国の神経生理学者、ステファン・W・ポージェス博士は、この3系統の自律神経系のはたらきを、生物進化の過程に沿って説明します。

太古の魚類(ナメクジウオのような無脊椎動物)が持っていたのは「背側迷走神経」。背骨(脊椎)や中枢神経を持たない、消化管だけの存在の彼らの消化吸収や睡眠などを制御しているのが背側迷走神経複合体。

そこから脊椎動物に進化し、魚類や、海から陸に上がる動物が出てくるようになると、彼らの中に発達してきたのが「交感神経系」。外敵に襲われるなど生命の危機が迫ると「戦うか、逃げるか(fight or flight)」の反応を引き起こします。

哺乳類にまで進化して初めて発生して、人類に進化するにつれて発達したのが「腹側迷走神経複合体」。群れ・社会を形成して生きる上で欠かせない、他者とコミュニケーションを取り合うための要素(声のトーンや顔の表情など)を担う神経系

ポリヴェーガルの"ポリ"って?

ここでポイントになるのが、生物進化の過程で古い背側迷走神経系が消滅して次の交感神経系に取って代わられるのではなく、古い系統が残されたままその上に新しい神経系が発生・発達し、古い神経系から新しい腹側迷走神経までが層(レイヤー)をなしているということ。だから「ポリ(多重・多層)」ということなんですね。
ある種の武術家や身体論者の方が仰る「身体の古層」とは、もしかしたらこのことを指すのかもしれないとも思いました。

性暴力被害者ケアで注目される理論

古い神経系である背側迷走神経は私たち人間の中にもあって、例えば性暴力を受けた人があまりの恐怖に硬直してしまうのは、この背側迷走神経系のはたらきによって全身が硬直して(凍りつき反応)、危機をやり過ごそうとするはたらきと考えられます。

動物の凍りつき反応でよく知られているのが、オポッサムの死んだふり。死臭のような匂いまで出して、捕食者に「この死体は賞味期限切れですよ」とアピールして、巧みに擬態します。


3つの「遊びワーク」

今回の講座に直接関わるのが「腹側迷走神経複合体」のはたらき。 人々との間で良好なコミュニケーションを取りながら、皆で協力し合って一つのことに取り組むと腹側迷走神経が優位となり、安全の身体感覚が生まれてきます。
"では、それを実際に体験してみましょう"と、3つの遊びワークに取り組みました。

① ジェスチャーゲーム

ちさ子先生から与えられたお題のシチュエーションを、7~8人のグループで配役を決めて、言葉を発しないで身振り手振りで表現する(演じる)。相手チームはそれを見て何の場面を演じているかを当てる。


② 人間知恵の輪ワーク

7~8人のグループで輪になって「両隣の人以外」とランダムに手を繋ぐ。そうするとだんだん複雑に絡まり合ってくるから、繋がった手をくぐったり跨いだり、身体をひねったりいろいろしながら、絡まりをほどいていく。


③ にらめっこワーク

Aさんが何度か変顔をする。その何度かの間に一回だけ「無表情」を入れる。 Bさん(1~2名)はAさんの変顔や無表情を見て、自分がどんな感じがしたか、変顔を見た時と無表情を見た時とでその感じにどんな違いがあったかを観察する。

ちさこ先生の優しくてきめ細やかな場の運び

いわゆるコロナ禍というご時世もあって、他の人と手を繋いだりすることに多少なりとも抵抗感がある人もいたかもしれませんし、人前で変顔を見せるのは私にとっても決してハードルの低いことではなかったのですが、ここでちさ子先生は実に慎重に場を運んでくださいました。
他の人にいつもと違う顔を見せることの恥ずかしい気持ちも、ちさ子先生は十分に汲み取ってくださり、

「もしどうしても無理なら、ワークを抜けるという決断もOK。抜ける決断を皆で認め合いましょう」

と、何度も呼びかけてくださり、とてもきめ細やかな場づくりに感動しました。

腹側迷走神経のはたらきの弱まり

このようにして参加したにらめっこワークは、実に興味深いものでした。
Aさんの様々な変顔を見ていると、表情の変化に伴って自分の顔もそれに寄っていく感じになりました。ところがAさんが無表情になると、どこに寄せていったらいいのか分からなくなったのです。

この、「寄せどころ(拠りどころ?)が分からない不安感」こそ、腹側迷走神経のはたらきが弱まったことによる感覚なのですね。

誰も彼も、子どもも親もマスクをつける世の中になって、お母さんの表情を読み取れなくなった子どもの腹側迷走神経はどうなるんだろう?…と心配になりました。

また、変顔をするAさん側からも「Bさんに見てもらって反応があることで安心する」という声が聞かれました。安心・安全の感覚を生み出すはたらきは"双方向"ということのようです。

人間知恵の輪やジェスチャーのワークでは、チームの皆で意見を出し合ってちさこ先生から出されたお題を解釈したり、絡まり合った手をほどくために指示を出し合って身体を動かしたりがすごく愉しかったです。たわいもない遊びなのですが、それが"腹側さん"を元気にするのですね。

感覚・情動・運動・意味づけ

先に引用した、ポリヴェーガル理論の基礎理解に役立つ記事の中に「ポリヴェーガル理論は人間の全体性の理解に役立つ」ということが書かれていました。

ある参加者からの質問へのちさこ先生の回答で、

「五感や第六感も含む感覚(知覚)、それに伴って生ずる感情(情動)、感情に伴って動く身体、その一連の現象に言葉で意味を付与することは、全部つながって一体として起こる

…というようなお話がありました。

瞬間ごとに不断に起こる「感覚・情動・運動・意味づけ(解釈、価値判断)」の連続が、他者とのライヴなコミュニケーションを成り立たせているし、何となればこれが、普段の「これが私」という自己意識の正体といえるのかもしれません。

例えば、仏教の文脈で言うと、仏教で尊ばれる「三宝(佛・法・僧)

南無帰依佛
南無帰依法
南無帰依僧

の中に「僧(サンガ、僧伽、修行者の共同体)」が含まれるのも、他者と共同生活を営みながら修行を進めていくことで、腹側迷走神経系も含めた自律神経の3系統の健全さを育むということもあるのかも。

自己とは何かを明らかにする(己事究明)営為を、他者とともに行うことが推奨されているのは、他者との関わりの中で"腹側さん"がはたらいて育まれる安全の感覚が、仏道修行の基盤になることを、古の修行者は理論としてというより感覚的に知っていたのかもしれませんね。

アレクサンダー・テクニーク的坐りで締めくくり

最後は、ちさこ先生の元々のご専門のアレクサンダー・テクニーク的に坐るワークで締めくくり。

頭頂部は上方向を(既に)目指している。
両肩は左右の水平方向を目指している。
坐骨は鉛直方向を目指している。


既にそうなっているから、それ以上「上に伸ばそう、水平に伸びよう」とはしません。

「ない、足りない、少ない」が前提だと、頭は上に向かせる、つま先は前に向かせる…と、過剰な動きに。 「もう元々そうなってる」前提だと、それ以上する必要はなくなり、ただ身体にお任せ状態で坐っていけます。
このあたり、今年前期の小関先生の講座からの継続性も感じられます。

昨年の研究室立ち上がりからずっと帯同していて、様々に異なる分野から"身体の専門家"の先生方をお招きして講座を受けていますが、身体論の洋の東西は異なっても、どこかで接点を見出せるのが、この研究室での学びのおもしろいところです。

身体にお任せ状態で坐ったまま、ラストの日野唯香さんがガイドする瞑想パートにつながって、この日の学びが自然に身体にしみ込むようなエンディングとなりました。

次回第2回は8月20日(単発受講可)

次回の第2回講座では、このワークショップのために準備された映像の視聴などにより、五感を通じて安心・安全の身体感覚をさらに味わっていきます。
また、「顎の緊張」にフォーカスして、顎のこわばりを緩めることで味わえる感覚を探っていく予定とのことです。

今回の第1回には不参加だった方でも、第2回のみ単発で受講できる場合もあるそうなので、下記リンク「京都からだ研究室」公式Webよりお問い合わせの上、ぜひご参加ください。


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