続14日目:銀納義民祭② 郷土料理『おつり』を作る。昔の主食とおやつの団子。
11月28日土曜日。
前回投稿した銀納義民祭にかかわることですが、今日はその日の料理編。
前回の銀納義民祭①はこちら↓
郷土料理は地域で生きる長寿の力が欠かせない
朝、公民館に着くと、私にとっては初めましての方がいらっしゃいました。
どうやらこの日のために、わざわざ足を運んでくださったよう。
身内が大保木の生まれだとか、もともとは大保木に住んでいたとかだそう。毎年来られている方もいました。
理由を聞くと、「おつりを作りたくて」と口を揃えて。
やっぱり郷土料理って作りたくなる。作り方をきちんと知っておきたくなるもの。
でもあんまり作る機会がなくて、食べなくなったり、せっかく覚えた作り方を忘れてしまいがちだ。
本日は昼食メニューとして『おつり』を作っていきます。
おつりは催事のとき、今ではほとんどこの銀納義民祭のときにしか作らないような一品になっている大保木の郷土料理です。
少々、珍しい粉が料理のメインとして登場します。
大保木の料理作りには行事や活動ごとに、それぞれ中心に立って動いていく人がいますが、今日は大保木の女性で最年長の大先輩二人についてきます。
最近、専らお二人はnote に登場しているのだけれども(笑)、基本的に昔ながらの料理をつくるときや何十人分ものご飯が必要なときには、彼女たちのお力をお借りしています。
というのは、やっぱりお二人にはまだまだ元気にいてもらいたいのです。
できる限りは、ここに来て活躍してもらいたいのです。もちろん無理のない範囲で。
そんな思いを込めて、いつも公民館にお呼びしているとのこと。
料理を作ることで誰かの役に立てているという感覚を持つとか、家にずっと籠りっぱなしにならずに外に出て動いていくとか、頭と体、そして心にとって、使うことはとても良いことだと思うのです。
歳をとるにつれて、できなくなっていくことはある。
でも、より深まっていく知識、味の出てくる技術、研ぎ澄まされた感覚、若いときにはどうもがいても手に入れることのできない、老いたからこそ身に着く器量というのが確かにあると思います。
今のところ、声をかけたら、大保木で長いこと歳を重ねているお二人は二つ返事で出て来てくれるようで、本当に嫌だったら来ないはず。
ここに来てもらえる限り、できることの中で生き甲斐を見出してもらえたらいいなと思います。
そしてなんといっても今日の料理については、正直、彼女たちがいないと作り方がわからないのです。
伝統料理であるがゆえに、その味を正確に再現できる人はごくわずか。
ほかの皆さんはまだ見様見真似の方も多く、生まれてから今日までずっとこの大保木で暮らし、大保木の恵や文化と生きる地元のお二人の腕を上回る人など、早々いないもの。
後継者、とくにこの『おつり』づくりにおける次の担い手を育てていくことも必要になってきそうです。
『おつり』はこうしてできていく
さて、さっそく昼食づくりを始めましょう。
まずは里芋に取り掛かります。
この料理ではけっこう重要な食材。
ちょっと滑るけれども、ころりと綺麗に皮を剥きます。
お次はぶなしめじ。
大保木に住む子供たちに、しめじをバラバラにしてもらいました。
おや、ここで先輩が何やら袋から取り出し、鍋の中へ。
話を聞くと、これは、ぎんまめ、というそう。料理のちょっとした飾り付けにも使えるし少し歯ごたえも良くすることからご自宅からお持ちになったものだそう。
今日は、おつりに加えて食感と風味を豊かにするそうです。
こちらはお手製の出汁。
醬油としいたけ、いりこを中心に作られているのだそう。
出汁が料理を決めるんじゃ、と先輩。
既に出来上がっていたのだけど、この作り方というか各々の調味料や出汁の割合を知りたかったなあ。
来年こそは出来上がるまでを見届けたい。
皆さん、和気あいあいと調理に作業に取り掛かっています。
ほうれん草、油揚げ、豆腐、玉ねぎ、ぶなしめじ。
お鍋に入れる具材が一通り揃いました。
一部は味噌汁にも使います。
鍋にはさらに、人参、長ねぎ、さらに、ぎんまめを入れて…
ここで登場します。ついにあの、郷土料理の味をつくる粉が…!
じゃん。これは…
とうもろこし粉です。
この粉が大保木で代々食べ続けられている、かつて貴重な食糧だったものです。
夏の暑い時期に取れるとうもろこしを乾燥させて、乾燥した実を石臼で擦っていき、粉々にしていきます。
そのため、この状態のものは秋以降にしか手に入らないそう。必然的に食べられる時期は限られていくわけですね。
この粉を鍋に、さらさらっとダマにならないよう少しずつ入れていきます。
粉が少なければ少ないほど、さらりとスープやおかゆのような仕上がりに。
粉が多ければ多いほど、こてっとしたよく練られたお惣菜のような仕上がりにもなります。
出来上がりが気になるところです。
すぐ隣の机を見ると、ボールの中に黄色い粉、とうもろこし粉がたくさん入っています。
そこには白い粉も。
聞くと、これから『おつり団子』を作るそう。白い粉はだんご粉です。
おつりというのは一般的には、先程挙げた汁物の形態が多いです。
けれども現在は、この粉で作るものは、おつり料理として広まっています。汁は『おつり汁』と呼ばれるのをよく耳にします。
だんご粉ととうもろこし粉に砂糖を加えていきます。
軽量カップにすくって、さらっとボールへ。
え、あの、その分量っていうのはどれくらい…?
私が訪ねると大先輩の彼女は一言。
「だいたいじゃ」
いや、え、だいたいって…そんな作り方でいいの…!?
決まった分量とかあるんじゃないの?
全体の粉の量を見て、こんなもんかなと思ったところで入れるのをやめるのだそう。
だんご粉ととうもろこし粉の各々の分量も目分量で決めていて、特に計っていないとのこと。
こんなもん、だいたいでええんじゃ。自分がいいと思った分だけ入れたらいい。
みたいなことを他の人にも言っていたけれど、いやいや、それでちゃんとしたものになる気がしない(笑)
皆さんも始終、どうするの?次は何するの?といった様子で二人の動きを見ているし、指示を仰いでいただけないと困ってしまう。
伝統料理ってやっぱりちゃんと作り方があるものだと思っているし、その分量含め作り方にも関心がある。
だからなんとなく、こんなもんでしょ、という自分の家の夕飯感覚で味をつけることに抵抗がある。これでいいのかな、って不安になっちゃうよ。
今回の参加者は40人近い。団子は1人2個ずつ食べられるように作る。つまり80個いるわけだ。
その分量をざっと見ただけですぐに決めるなんて、早々なせる業ではなかろう。
これが、おつりづくりを含め、長年の日々の経験の中で培われた感覚というのか。
わざわざ量るまでもない。この体が覚えていると。
くうぅ、だとしたら、しびれるっす、パイセン。いや、ほんとにすごい。
出汁もご自身の目分量で作られたのかもしれない。
いや、でも、今後のためにもやはり分量が気になる。
ボールに水を少しずつ入れてこね、クッキーの生地のようになったら、少しずつちぎって丸めていきます。
丸めたものを手の平で優しくたたいて、ぺたんと平たくして、そうして円の形を整えていきます。
もう、この手が、手が尊すぎて…ああ。(全然伝わってない気がする)
90年のうち、これまで何十回と作ってきたであろうおつり団子を操るこの手が、もう私にはすごく価値のあるものだなと思えまして…。動きを直に見ると一層感じるのだけど、手つきも本当に慣れていらっしゃる。
思わず手元を撮らずにはいられなかったのです。
出来上がったものはお湯の沸いた鍋へ。そうして数十分後、水面に浮いてきたら出来上がりのサインです。
おう、まん丸お月様のようですな。
団子に見える黒や白っぽい粒々はとうもろこしの繊維、自然由来のものです。
そのほか、人参、大根の切ったものに柚子と酢を合わせた調味料で和えます。
炒ったいりこも入れて酢の物に。写真の味噌汁用ネギはご愛嬌。
治兵衛堂(銀納義民祭①登場)のすぐそばのイチョウの木から取れた銀杏の漬物を串にさしていき、
おつり汁とは別に、小付になる里芋と、先輩が前日に作ったという南瓜とピーマン、たしっぽ(イタドリ)の付け合わせをお皿に盛りつけます。
そこに沢庵、さらに塩昆布を入れて炊いたおむすびをのせ…
ついに出来ました!
銀納義民祭で食べられる特別な料理。おつりのフルコースの完成。
おまけに柿までついています。
出来上がった料理はまず、慰霊式(銀納義民祭①に詳細) にてお供えをしました。ご先祖様も昔食べた味を思い出すのだろうか。
こちらがおつり汁です。
汁というよりも、ポテトサラダのような和え物といった感じがあり、副菜のように思えますが、こちらは主菜でもありません。いや、主菜のような主食といった方がいいのか。
今でこそ、これだけ料理がちょこちょこ付いて、きちんとしたメニューになっているけれど、昔はこんなに盛りだくさんではなかっただろう。おつりだけのことが多かったのではないのだろうか。
早速、おつり汁を一口。
あ、ちゃんと美味しい。今まで食べたどれとも違う。ちゃんと、このものの示す味がしたなと思う。舌触りは少しざらっとした感じも交じる。
とうもろこし粉がこのおつり料理の要だとは言ったけれども、とうもろこし粉だ、とはっきり感じるような味はしない。でも出汁のせいか醬油の味が一番するような。野菜のシャキシャキ感が多少あって、ぎんまめは大豆っぽい味がした。
そして何より里芋の粘りがこの こってり感を作り出していて、とても食べ応えもある一品。
正直、味が自分の舌に合うかどうか、実際どんなようなものか気になっていたのだけど、美味しかったし、郷土料理として受け継がれている料理らしい味がしました。
おつり汁は西条市の神拝地区のとある小学校では給食に出ることがあるのだそう。
現代の子供たちにも食べられているのですね。
付け合わせはどれも程よいお味で、おつりに合うように作られているのかもしれない。
甘いのもしょっぱいのも酸っぱいのもそれぞれある。
おつり団子は、思っていたよりも硬かった。表面はとてもしっとりしているのだけど、中はパサついている感じがあった。こういうものなんだろう。
こちらの味は…うーん、ほんのり、とうもろこし風味だったかなあ、という感じで、これといった味はあんまり。
トースターで焼くとまた一味違うとのこと。よし、家で試そう。
ちなみに、こちらのおつり団子、数に余りはありませんでした。
さすがですなあ。
✽
当日は初めてのことだらけだった。
へえ、そうなんだ!と思うことがたくさんで、この一日だけで大保木のことを私自身だいぶ知るきっかけになったし、詳しく知るためにたくさんの人にどんどん話かけにいった。
一つの行事から、村の歴史も食文化も、そして話をした人のことも知ることができる。
それぞれにとっては、ほんの少しのことかもしれない。
でも私にとっては、たくさんの情報を吸収しまくった一日であった。
まだまだ知らないことだらけ。
まだまだ頭の大保木ノートにメモしなければ。
とにかく今日の料理においては、もう本当にご長寿の先輩お二人に圧倒された。(笑)
以上、今日の大保木でした!
食べ終わってしまうと、どんな味だったか思い出せなくなる人より