ユナニ医学の体液理論と治療
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先日、イギリスの教育機関が開催したユナニ医学(Unani:正しい発話はユーナーニー医学)のコースを受講修了しました。復習のためにも、少しずつ内容を紹介していこうと思います。
今回はインドにあるアリーガル・ムスリム大学(Aligarh Muslim University)のユナニ医学博士に教わった導入編の紹介です。
タビヤト(Tabiyat / طبیعت:自然治癒力)とは?
ユナニ医学のタビヤトは、身体の全機能の整合を司る力と考えられています。この力は最も身体を癒す力であり、とても不思議で繊細な力でもあります。ユナニ医師は、再び整合を取り戻そうとするタビヤトの手助けをする存在といえます。このタビヤトという自然治癒の力についての知識や、操作をする方法が、ミズアージュ(Mizaaj / مزاج: 質)となります。
ちなみに、インドのムスリム間では「お元気ですか?」の挨拶として、「あなたのタビヤトはいかがですか (Aap ka Tabiyat Kaisa hai)?」や、「ご機嫌いかがですか ≒ 気質は健やかですか(Mizaaj Sharif)?」といった表現もあります。
4つのアルカーン(Arkaan / ارکان:要素・エレメント)とは?
万物あらゆるものは下記の4つのアルカーンから成り立っています。下記の通り、それぞれのアルカーンは二種類のミズアージュ、質の組み合わせで構成されています。さらに、人間の体液もこの質の組み合わせで分類できると考えられています。
土(アルズ / ارض) 冷+乾 (بارد +یابس)・・・黒胆汁
水(マー / ماء) 冷+湿 (بارد +رطب)・・・粘液
風(ハワー / ھواء) 温+湿 (حار +رطب)・・・血液
火(ナール / نار) 温+乾 (حار +یابس)・・・胆汁
通常、この4つの要素の整合が保たれていれば、健やかであると考えられています。したがって、この液のバランスの崩れが、体調不良や病気に繋がっていると考えられており、これが「体液理論(humoral theory)/ اخالط(アハーラト)」といわれるものです。この要素は、植物や動物、鉱物にも当てはまり、それぞれ優勢の要素があると考えられています。
ちなみに、先生に質問したところ年齢によってもこの要素は変化するそうです。一般的に、若い世代は、温+湿の「風」の要素が優勢なのだそうですが、歳を重ねると、次第に冷+乾の「土」の要素が強くなっていくそうです。
ユナニ医学の診察・治療とは?
患者のタービヤトの乱れと、病気特有の質を調べたうえで、治療を施していきます。そのために、脈拍、身体検査、検尿や検便といった、客観的なデータとあわせ、症状や患者の病歴などの患者自身の主観的なデータを確認していきます。そのため、診察では臨床での技術が非常に重要であり、テクノロジーを使用した診断結果は、あくまでも二次的な役割となります。
治療方法は、主に3つに分けられます。ひとつは、生活指導(イラジュ・ビル・タドビール /عالج بالتدبیر)。食事や運動、睡眠などの改善により治療を行います。ふたつめは、投薬(イラジュ・ビル・ダワー/ عالج بالدوا)。植物、動物、鉱物の3種で調合した薬を服用・塗布します。最後は、外科的治療(イラジュ・ビル・ヤード/ عالج بالید)となります。
今後のユナニ医学
このように、ユナニ医学は様々な種類の病気に対し、安全かつ効果的にアプローチできる自然医学といえます。古典的でありながら、近年の研究によりさならる発展を続けています。
たとえば、COVID19が流行した時にも、ステイホームを継続し、沈香木、カンラン科ボスウェリア属の木(フランキンセンスはこの樹脂)、楠、白檀、アサフェティダなどの植物で燻蒸することなどが、著名なユナニ医学研究者によって勧められていたそうです。