まずは大人に「ダメ」と言わない。それが子ども都合の保育のはじまり|輝きベビー保育園瑞江
今回お邪魔した「輝きベビー保育園瑞江」は東京都江戸川区瑞江にある企業主導型保育園。「子どもたちは何でもできると認めて、子どもたち都合の保育を目指しています」と語るのは園長の村山奈津子さん。その言葉のとおり、0歳から2歳までの子どもたち約30名一人ひとりが安心して自分の気持ちを表現し、保育者はそれを受け止め、暖かく見守る姿が見られました。「輝く大人で輝く子どもの未来を」と掲げる保育は、どのような思想から出発し、どのような子どもたちとの関わりが行われているのだろうか。
「子どもの可能性を広げる言葉『子どもたちは何でもできる』と、いってみたものの…」
近年、保育指針の改定などもあり『子ども主体の保育』が注目されている。子どもの興味や関心から学びを紡ぎ出していく、というのは、言葉で聞くよりもはるかに難しいことだというのがさまざまな保育園、保育者との関わり中での率直な感想だ。「子どもたちは何でもできると認めて、すべてを大人が用意するのではなく、子ども都合で行う保育を目指しています」と語る村山さん。その秘訣は…?
「正直私自身もはじめは子どもたちがこんなにもいろいろなことができて、今当たり前にできている活動ができるなんて発想に至らなかったです。『1歳だから、2歳だから、あれはできない、これはできない』と発達の目安を用いて、大人の都合・ものさしで子どもたちを見てしまいがちで。私も職員も、これまでの保育士経験の中で、何かやりたいと思っても『●歳には早いからダメ』と言われてきた経験から、大人の頭で考えてしまうクセがついているように思います。だからこそ『子どもたちを信じること』『職員のアイデアをダメと言わないこと』を大切にしようと考えました。実際にやってみることで『やってみたらできちゃった』という経験ができ、『子どもたちは何でもできる』ということを先生たちがどんどん広げて実践してくれるようになりました。」。
子どもたちが有能であることを認めるために、まずは保育者自身が「ここまでさせてあげたい」「できたら面白い」と感じることを認めることが、結果的に安心して子どもたちの可能性を信じ、実践できる環境をつくることつながっている。
園では泥んこ遊びをはじめ、保護者も気持ちの上ではやらせてあげたいけどやらせてあげられないといった『家ではなかなかできないこと、躊躇してしまうこと』にも積極的に取り組んでいる。
どんなことなら子どもたちが喜んで経験してくれるか、どんなサポートがあればできるか、といった見極めと支援こそが保育者の専門性で、そういった「保育園だからできること」の重要性を改めて実感した。
「0~2歳というこの年齢だからこそ、
『自分で決められる』経験を」
保育室を覗いてみると、ここにも『子どもたちは何でもできる』といった思想が多く見つけられた。
まず目を引くのは園内に設置されたボルダリングやうんてい。園庭がないため、室内での運動にと設置した。2歳までの子どもたちでもできるの? 気になっていると、個人差はあるものの1歳でも大人の目線ほどの高さの頂上まで登ってしまうとのことだった。うんていには手でぶら下がる手作りブランコも設置されていて、職員の発想や工夫のあとが見られる。ほかにも子どもたち自身が『面白そう、やってみたい』とワクワクするしかけがたくさん。『いつかやらせてあげたい』と思うようなことが、『日常的に行われている』という。
おもちゃ棚に目を向けると、子ども自身がおもちゃ選びや片付けをしやすくするために、おもちゃの収納はオープンになっていて、おもちゃごとにかごを分け、写真が貼られている。その中には一見いろいろな形にフェルトを切っただけのものや、丸めただけのものも。
「これは子どもたちがいろいろなものに見立てられるようにわざと抽象的にしています。フェルトで挟んでサンドウィッチにしたり、海苔に見立てて手巻きをしてくれたり、おままごと以外にも使っています。『りんごは赤い』といったような固定概念を植え付けないようにしたいと思っています。この年代の子どもたちの想像力や遊びの幅は本当に広くて、どんな発想を持ってもいいんだというのを見つけてほしいと思っています」と村山さん。
ほかにも、大人がすべてを用意するのではなく、使う素材なども子どもたちと準備するという。
「公園で拾ってきた石や葉っぱを素材にして活動に使ったり、スーパーに買い物に行ったりもしています。自分が使うものを選ぶという経験など、大人が全部を用意してしまうことで機会が失われないようにしています」。
「大人自身がチャレンジして、体験して、のびのびできる環境をつくっていく」
大人が動かす、やらせる、という環境をなるべく排除し、子どもたちが選択したり、体験できる余白をしっかりと残すことが輝きベビー保育園瑞江で大切にしていることだということが見えてきた。
取材中、そのことを象徴するような場面に出くわした。
1歳児を中心にしたグループが、室内遊びからプールへ移動する際、一人の女の子が床の上に突っ伏した。気が乗らないという意思表示のようだ。一人の保育士が声をかける。「じゃあもう少ししたらもう一度来るね」とプールに向かう子どもたちの準備のためにその場を離れた。
「こういう場面、うちの圓ではよくあるんです」と村山さん。「気が乗らないことってあるし、無理に連れていくことはしません。今そのやりとりも周りが見ていて、ひとりで置いて行かれているように見えても、声をかけた保育士も周りの保育士も、彼女を視界に入れて気にしています。人が少ない場合などは周りの先生や事務室にいる私に『○○ちゃんがこういう状況なので、見てもらってもいいですか?』と声をかけてもらうようにしています」。
すこしすると先ほど声をかけた保育士が戻ってきて、「行ってみる?」と手を広げると、女の子は自分で立ち上がり先生の胸に飛び込んだ。
「もしも先生をもう少し独占していたかったりしたら、まだあの場にいたかもしれません。行ってみようかな、と自分で気持ちを切り替えられたから、サッと飛び込みましたね。あんな風に、気が乗らないときにも、大人が従わせずに、自分で気持ちを切り替えられるように寄り添ったり、見守ったりするようにしています」。
大人の都合で、時間ややることに追われるのではなく、子どもたち自身の気持ちを大切にすることが『子ども都合』にしていくためには重要なのだと痛感した。しかし、一方で子どもたち一人ひとりに寄り添うことは決して簡単ではない。
「している工夫のひとつに、人を多めに配置しています。配置基準に対して各学年1~2人多めに配置しています。(このときも園児30名に対して、保育者は10名いた)同時に、周りの職員も『みんなやってよい』という想いでいることが大切で。『早く移動させて』『なんでそんな対応しているの?』と思っていたら、大人の目を気にして違う対応になってしまうかもしれない。だからこそ、園長に『見ていて』と声をかけるのもOKですし、もちろん職員全体のチームワークも大切です」。
言葉で聞いていると、なるほど、と思うものの、こうした共通認識を育むのは簡単なことではない。
「新しく入った職員も『難しい』といいます。やってきたことのひとつは、先ほどもお話しした職員に対して『ダメ』と言わないこと。なにかあっても、保護者への説明などの責任は私(園長)がとる、と先生たちにも伝えています。先生たちがチャレンジする中で、子どもたちの可能性を信じられるようになること。これが土台です。もうひとつは、一番保育の中で体現できている主任をフリーにして、現場でやってみせる、相談を受けるということをしやすくしています。言葉や理論だけでできるものではないので。フリーにしてから1年半ほど経ちますが、以前よりもよい形になってきていることを実感しています」。
日常の仕事の中に、安心感を持ってチャレンジできる場を用意すること。そしてロールモデルを置くことで理想とする形を示すという体験型の人材育成がコンセプト理解につながっている。一方で現場の指導権を主任に移譲する、託すというのは、園長として勇気のいることのように思える。
「最初は現場が気になって葛藤もありました。それでも任せると決めた以上は任せようと思い…。でも現場を離れて客観的に園や保育を見られるようになり、自園のいいところを認識できるようになりました。そこから入園説明会などでの発信も変わってきて、参加者からも前より喜ばれるようになりました。今は職員や保護者といった園に関わる人はもちろん、子育てをしている友人や地域、社会に園での活動の価値や発見を伝えていきたいです。前までは現場で子どもたちの笑顔を守りたい、と思っていましたが、今は先生たちの楽しいと感じる心を大切にすることと、情報発信が子どもたちの笑顔を守ることにつながると感じて、ワクワクしています」
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「子ども主体」と耳にする機会が多い中で実践に困っている保育園は多い。その中で今回のインタビューは、大人が大人都合で子どもを見てしまう原因に「保育者が安心して子どものことを考えられる環境であるか?」という問いが潜んでいることを教えられた。
同時に、コンセプトや理念は言葉だけでなく、自身の体験を通じて獲得していくことが必要であることも改めて考える機会となった。一方でロールモデルが確立されていない現場など、どうしても属人的になってしまう部分や、ミドルリーダーの育成をいかに行うか、が共通認識を持った施設運営ための重要な課題なのかもしれない。
<Visited DATA>
訪問先:輝きベビー保育園瑞江
所在地:東京都江戸川区瑞江2-22-5 グリーンハウス下鎌田1階
Webサイト:http://kagayakihoiku.com/