沙羅双樹の詩
双(ふた)りには都のそぞろ寒さは
いと耐え難かったの
地(じ)深く根を下ろした私達に
まほろば到る旅支度は適(かな)わず
鐘の音(ね)届かぬ遠方(おちかた)は
深山(みやま)が隠す
さぞ是(こ)れ愉快だった事でしょう
奔放気儘(きまま)な根無し草で在れたのなら
傍(かたわ)ら並んで芽吹いたのに
季節の移ろい見送る毎(ごと)に
内なる暦(こよみ)を異(こと)にする
誰しもが常(とこ)しえで居られる筈も無く
源氏蛍舞う可惜夜(あたらよ)が
仮初(そ)めである様に
不変に留め置ける物など有りはし無い
なれども双りは
因果の外(ほか)たりうると夢見てた
語り部達の嘘八百が綾なす空を泳ぐが如く
何時(いつ)何時迄(まで)も変わらぬ様願い掛け
冷然たる無常にすら
燃ゆる念(おも)いで抗う心積もり
拠(よ)りし家に滅びの足音迫り来るとて
其(そ)れが如何(どう)したと云(い)うの
此岸(しがん)を渡りゆく胤(たね)が絶えぬ限り
何処(いずこ)かで再三
生まれ出(い)づるでしょう
然(そ)うと信じ立派に花と散りましょう
愛おしき昔日(せきじつ)を偲び乍(なが)ら
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