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職場に来なくなって、そのまま退職した彼のこと

彼は、4月の人事異動で、私と同じ職場になり、
私の部下になった。

彼は財政部門から、私は企画部門から、今の職場、広報広聴へ。


彼は4月から約2週間、今の職場で勤務した後、
突然、来なくなった。

最初は有給休暇で一日単位。
理由は、体調が悪いこと。


それが1週間、2週間と続き、
ゴールデンウィークが終わっても、まだ来ない。

どうやら、家は出るけど、職場に行けない様子。


また1週間、2週間と、有給休暇で休んで、
途中、どうしたんだろうと、
自宅を訪問したりもした。

誰が連絡しても、既読にならない、返信がない。

唯一、休暇の連絡が私のスマホに届く。
でも必要以上の返事はなく、いつも一方通行。

そのうちに、診断書が出てきて、
1ヶ月、2ヶ月、そして3ヶ月休暇の手続きとなり、
やがて本人から退職願が出されることになり、
上司や同僚の説得の甲斐なく、退職が決まった。



彼と一度だけ面談ができた。
そのときに感じたこと…
彼は、
自分の気持ちを言葉にしたことがないのかもしれない。
本当の自分の気持ちに、
正直に向き合ったことがないのかもしれない。

自分の気持ちを打ち明けていい、という考えがなかったのか、
打ち明けられる人に出会わなかったのか、
彼に必要なのは、「薬」でも「休暇」でもなく、
自分の気持ちを口に出すこと、じゃないかなと感じた。

私が、もし彼のことをもっとよく知っていたら、
そのときに何か聞き出せたのだろうか。

私が上司でよかったんだろうか。

私じゃなかったらもっと力になれたのではないか。


いろんな自責の気持ちが湧き出した4ヶ月。
仕事の手も止まりがちに、
気分が沈んだまま過ぎた4ヶ月。

一番怖いのは、今もだけど、
自ら死を選択してしまうのではないかということ。


ときどき、いる。


彼は、
これまでの人間関係のすべてを断ち切るように、
市役所を辞めていった。
夏休み終了前の8月下旬、
学校に登校することが辛いこどもに呼びかける記事が、
「やめていいんだよ」
「行かなくていいんだよ」と、
私のスマホを埋め尽くすように出てくると同時に、
彼の退職の手続きが始まった。

理由はわからないままの退職だけど、
彼は、この市役所をやめたかったし、
人間関係のすべてを断ち切りたかったんだろう。

それは叶えてあげられた。


つくづく
市役所の仕事は、
いつまでたっても困難な仕事が待っていて、
片付けても片付けても、次々とやってきては、
終わりなく、幅広く辛い仕事が与えられ、
給与をいただいて生きていくためには、
退職まで逃げることが許されない。

このまま異動させないでください。
このまま昇任昇進させないでください。
なんて言えない。言わせてもらえない。



もうこれ以上はできない、
今が自分の限界です、って、
そう言えればいいのにね。
そう言うためには、診断書が必要。

診断してもらわなくても、自分でわかるのに。



彼のこれからの幸せを、祈ります。

私の幸せもね。

いつか抜け出せますように。
抜け出したいという思いが消えてしまう前に、
この先が見えるようになりますように。

明治時代、人の手で岩を掘ったトンネル
どうしても通りたかった、こっちからあっち



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