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窓の魚/西加奈子

西加奈子さんは天才なのか変態なのか。

西加奈子さんの小説を読むといつもこの疑問が浮かぶ。

今回読み終えた「窓の魚」の文庫本のウラスジに新たな恋愛小説の臨界点と紹介されているが、私からすると変態と天才の臨界点である。(褒め言葉)

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読み終えた直後の感想は「ハッとした」である。季節にちなんだ名前の2組のカップルが温泉旅行に行き、旅館での出来事をそれぞれの視点で語られていく。それぞれの視線で語られることで、かけられた言葉や行動のちょっとした解釈の違いがあり、決して交わることがない4人。ストーリーの展開にすぐ引き込まれ一気に読み終えてしまった。読み終わってハッと現実に戻された感じは映画「インセプション」を観た時と同じだった。

少しずつ残された疑惑。本文で語られることはないが、解明できない(しない)ことで余韻が生まれる。文庫本で解説で中村文則さんも小説の余韻に浸って欲しいと説ている。

窓の魚では4人ほど強烈ではないものの、ナツ、アキオ、ハルナ、トウヤマそれぞれに共感できる部分(承認欲求や見栄、優越感など)があり、西加奈子さんの強烈で、でも、だれもが根底に持っていることではないかと思わせる表現で「共感する」ということに抵抗を感じながらも心のどこかで共感していた。

幼いころ、お化けや幽霊を怖がっていた私に「人間より怖いものはないわよ」と説いてくれた友人のお母様の言葉がなぜか急に思い出され、人生経験の中でこの言葉を納得してきたつもりであったが、この小説を読んで改めて腑に落ちた。

個人的には旅館の女将さんの語りや、ハルナと女将さんのやりとりが印象的でした。

ひとつ言えることは西加奈子さんの作品を初めて読むのが「窓の魚」でなくてよかったと思う。私、個人の意見としては、初めて読んだ作品が「窓の魚」だったら、共感したくないのに共感してしまう恐怖でそのほかの素晴らしい作品を手にできたか否かわからない。

新しく作品に触れるたびに思う西加奈子は天才かそれとも変態か。これからも研究していきたい。

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