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兵士たちの重すぎる病(やまい)
イラク戦争の戦場となったイラクに復興支援として自衛隊が派遣されました(2003~09年)。帰国した自衛官のうち29人が自死(自殺)しています。派遣地での深刻なストレスが要因となって自死に追い込まれた隊員も多いのではと指摘されています。自衛隊の宿営地が迫撃砲で攻撃された事態や車両が米軍から誤射された事件も起きています。南スーダンに派遣された自衛隊についても、「深刻なストレスを抱え、深い傷を抱えている隊員が存在している」という内部資料が伝えられています。また、隊員の家族にもメンタルヘルスを悪化させている方がいるとのことです。
アジア太平洋戦争をかろうじて生きのびて帰国した旧日本軍兵士の中にはメンタルヘルスを著しく悪化させた人びとも多かったことはあまり知られていません。「不都合な真実」として隠されてきたとも言えそうです。「戦争神経症」と呼ばれた精神疾患により、長期間の入院を余儀なくされた元兵士たちがたくさんました。戦場での極度の恐怖感、軍隊内でのハラスメント、加害行為への罪責感などが要因になっているようです。戦後も長期にわたって「家の恥」とされ、社会復帰できなかった方も多いということです。ある患者は「12歳くらいの子どもを突き殺した。かわいそうだと思ったことがいまでも頭にこびりついている」と語っています。
米ブラウン大ワトソン研究所によると、米国での9.11事件(2001年)以後、イラク戦争などに従軍した米軍兵士の戦死者は7000人を超え、さらに自死者は3万人を超えています。罪悪感に悩まされたり、依存症を発症したり、ホームレスになる方も多いということです。無人攻撃機を遠隔操作してゲームのように敵兵を殺傷していた兵士も深刻なPTSDにおちいっています。
戦争は被害者にも兵士にも深刻な心理的ダメージを与えます。戦争について考えるに際しては、従軍する兵士たちがどれほどその精神をむしばまれることになるのかを少しでも理解しておくべきではないでしょうか。
参考
『帰還兵はなぜ自殺するのか』 デイヴィッド・フィンケル 亜紀書房
「50年間、口外してはならない 極秘調査・兵士たちの”心の傷”」NHK
「生還した兵士200万人のうち50万人が精神的な傷害を負い、毎年250人が自殺する」戦争が生み出す「未来の自殺者」 雨宮処凛 HUFFPOST