ポテトサラダ
彼と出会ったのは多分1年半ほど前だったと思う。某アプリで知り合った彼は梅田での仕事終わりにうちで会う約束ををした。
「こんばんわー初めましてー。 うーさむっ」低く少し焼けた様な声でそう言って入って来た。彼はスーツにダウンを着ていて、素振りや話し方がストレートの男性のそれだった。
挨拶程度の言葉だけ交わし、事が始まる。彼の唇が私の首をつたう時、低く掠れたため息に近い様な声が耳に響く。
荒々しくてそれでいて気遣いが感じられて。
最初はとにかく彼のモノが大きすぎて驚いたがそんなことより、貪る様な全力で求められているようなそんなセックスに私は満たされた。
その後今度飲みに行こうという話になり後日飲みに行った。
彼はかなり飲める方で、私たちは結構飲んだ。
酔うと距離が近くなるタチのようで私の首に腕を回しぐっと寄せられる。
千鳥足で歩き駅に向かう。私達はいい歳こいて人目を憚らずキスをした。
私が以前飲食店で働いていたことを話すと今度飯作ってよ!と言うので次回会う時にご飯作っておくね!と約束した。一応何が好きか聞いたが男と言う生き物はわかりやすい味、食べ慣れた料理が好きで彼も例外ではなかった。
来る時間に合わせて二日酔いの頭を抱えながらいそいそと芋をふかす。
それからというもの毎回会うたびにご飯を用意する様になった。いつも美味しいと言って沢山食べてくれるのでそこそこ料理ができる私は彼の胃袋を掴んだ気でいた。
だが、そう思ったのも束の間。彼からのLINEの間隔が開き始める。聞けばいい感じの人がいると言うのだ!ほら見たことか、私はまたもや私が作ったドツボにハマったのである。
最近のご飯屋さんではトリュフを使ったものや半熟卵が上に乗ったものなど洒落たポテトサラダがある。
私自身どこのポテトサラダを食べてもこれだ!と言うものに出会ったことがない。材料が多く調理工程は少ない方だがどうしても時間がかかってしまう。
その上地味でメインに躍り出ることはない地味な存在とも言える料理だ。味もシンプルな分酸味や芋の香り、マヨネーズのなどのバランスが重要になってくる。食べる人が男性の場合酸味は抑えた方が良い。
ポテトサラダに限らず味覚と言うモノは生まれた場所や環境によって形成されるため人それぞれであるが、料理人はある程度“万人受け”の様なものを考えて作る。彼は私が作った“万人受け”ポテトサラダを毎回うまいうまいと言って作り置きの分までペロッと平らげる。でもきっと心の奥深くには響かなかった。彼を想って作っていたようで私は自己満ワンマンショウを繰り広げて居ただけなのだ。
彼の好きな味は、自分が納得いく味はなんだったのか未だ自問自答しながら今日も私は芋を蒸している。