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冬の森に宿るもの。



2021年2月17日 7時20分

動物たちにとって、一つの節目となるであろうこの豪雪の季節に、僕は山に入る。今年既に5回目だ。時間は少し遅い。寝坊した。冬だし動物がみたいのでゆっくり登ることにする。
小樽にある小さな山だ。

10時32分

狙いの生き物だったエゾユキウサギには、残念ながら会う事ができなかった。足跡の追い方は、少しづつ掴んできている。9時前ごろにキタキツネを発見したが、すごい勢いで逃げていった。森に潜む山の個体だ、ここのキツネはみな警戒心が強い。

山の中での音一つ一つに神経を使う。合計三匹のユキウサギの足跡を発見。一匹目は崖の下へ行ってしまった。その何分後かに見た二匹目は序盤でスピードアップされた(気づかれた?)最後三匹目は辛うじて逃げてゆく後ろ姿はみることができた。後少しというところで気づかれ、ウサギは早歩きになり、山を登っていった。足跡が遠ざかるのをみて、諦めた。正直僕にはウサギ撮りのセンスが感じられない。背後をとるくらいなら長時間留まった方がマシだろう。ウサギはどこにでもいるし、夏場はたまに見かけるが、撮ろうと思うと難しい被写体のひとつだ。雪と絡めて撮りたいし、ふかふかとした雪がいい。でも雪の多い日は脚が取られるしもたもたするとウサギの足跡は埋まってゆく。難易度は高め。

11時56分

山頂付近で、寝ているキタキツネに出会う。今日二匹目。この時間帯はほとんどの生き物と出会えない。少し休憩。と言うかもうお昼か。


14時21分

エゾモモンガの穴を発見したと思ったが出てきたのはゴジュウカラ。どうやら繁殖の準備に入るようだ。まだ早くないか?

14時40分

キタキツネ通過。さっきの寝ていた個体だろう。驚かせる事なくまた対面できたので、こいつとは仲良くなれそう。少ししたら谷を降り、距離をとりながら足跡を追う。

僕が歩みを止めると目に入ったのは、
雪の球。
足で蹴られた雪の小さな塊が、
傾斜を転がり少しづつ大きくなる。

15時00分


足跡を見失う。でも恐らく僕と同じようなルートを辿るだろう、雪積もった山では誰もが楽をして歩きたい。アイツも山を降りていることは確かだ。ずっと吹雪だった景色が、昼過ぎからたまに晴れるようになった。朝は正直カメラを出せるような状況になかった。お昼を過ぎてからキツネの足跡があちこちに。ウサギの足跡もちらほら。それより小さい足跡は、すぐ吹雪で消えるのか見えない。


1521 山を降りた後で。
三度目の対面。
風が強く吹きつけ、僕も顔が痛い。
視線の奥に日差しが見える。
日は傾いてから、だいぶ経った。
風をくぐるかのように、進む。
尻尾の先のクリーム色を見ながら、
じわり近づく。
木の根元に、何か動くものがいるらしい。
キツネの目付きが「狐」に変わる。
そろり。
狐はじっと見つめる。
こっそり一旦戻り、
何気ない素振りで景色を見渡している。
次の瞬間飛び込む狐。
僕も油断した。
ネズミも今だと思ったのだろう。
沈黙。
どうやら、失敗したようだ。
物哀しい目が僕を見つめる。
目に雪が入ったのだろうか?
身震いをして、歩き始める。
後ろ姿。

17時20分

良い出会いがあったな。
カメラ越しに狩りの様子を垣間見て、
少し嬉しくなった。

あたりは、もう薄暗い。
結局、一日森にいた。

次は、数日籠ろう。

*文章は2021年の撮影メモから作成したもの。

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