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文学フリマ広島に参加した話

はじめに

 残念なお知らせがあります。当記事は「文学フリマ広島に参加した話」という題名ではありますが、文学フリマについてはほとんど触れられていません。冬の広島といえば牡蠣。中年男性が昼間から酒を飲み、牡蠣を炭火で炙り、レンタカーを借りドライブをするだけの旅行記です。

旅行日数: 2023/02/25 から 2023/02/27 まで 4日間
旅行金額: 52,000円 (食費・雑費除く)
・宿泊2日 (東横INN広島駅前大橋南): 12,000円
・ 往路航空券 (ANA羽田→広島): 無料 (マイル)
・復路新幹線, 寝台特急 (広島→岡山→東京): 28,000円
・レンタカー (ニッポンレンタカー): 8,000 円
・有料道路(広島⇄呉)・ガソリン: 4,000円

 以下旅行記となりますが、他の旅行記同様に淡々と体験したことが並べてあります。緩い旅行の感じが伝われば幸いです。

1. 羽田から広島へ

 航空会社からは事前に「当日の羽田空港は混雑する」とSMSで連絡を受けていました。このため、早めに搭乗ゲートに辿り着けるよう多少余裕のある行動をとっていました。幸いにも懸念されていた手荷物検査混雑はなく、コンビニで買った苺のサンドイッチを食べながら、少し長い搭乗待ち時間をここで過ごします。待合所の椅子に落ちる朝日が綺麗でした。

 搭乗した飛行機は離陸後、以前暮らしていた墨田区押上付近、ちょうどスカイツリーを旋回する進路を取ります。天候に恵まれ、当時暮らしていた小村井駅横のアパートまではっきりと視認することができました。

 広島空港到着後はバスで市内へと移動します。

2. ミルキー鉄男のかき小屋

 「主要都市に友人がおり、その地を訪れ同伴すればおいしいご飯とお酒が楽しめる」これが人類共通の夢であることに異論はありません。私には全国の主要都市に概ね一人は酒飲みの友人がおり、何かあれば相談できる楽園網が整いつつあります。今回の広島、牡蠣を紹介してくださった友人も私の信頼に足る一人です。(友人は大量に酒を嗜むタイプではありませんが、地元の酒蔵に縁があり時々イベントなどをお手伝いするなど日本酒への造詣があります。)

 広島駅前のホテルに荷物を預け、友人と今回の目的地である「かき小屋」を目指します。場所は広島の沿岸にある公園、移動には市電を利用します。

広島の市電は、欧州の主要都市を走る近代的なトラムのようなデザインでした。

広島港駅で市電を下車し、洒落たウォーターフロントに面する公園を少し歩くと、そのエリアに似つかわしくない異質な看板がありました。

ミルキー鉄男のかき小屋の看板です、パーフェクト小屋

 ここが今回の目的地「ミルキー鉄男のかき小屋」です。テニスコート二面分ほどのプレハブ店内には、コンクリート製のU字溝に、煌々と燃える炭が焚べられた即席グリルが並んでいます。入口近くのカウンターで籠に入った牡蠣を買い求め、この網に豪快にのせていきます。

両面を各3分程度を焼くと、概ね良い頃合いとなります。
ウィスキーを炭酸水で希釈した酒です。
次々にこのような牡蠣が仕上がります、ここは天国か。
賀茂泉酒造の賀茂泉という酒です。広島市内のコンビニにも並ぶ地元酒です。

 このほかに特に記すことはありません。目の前にある牡蠣を食べ、酒を飲み、牡蠣を食べます。地元産の牛肉など他のメニューもお勧めされたのですが断ります。私はここへ牡蠣を食べにきたのです。

 訪れたタイミングが開店当初であったためか人はまばらでしたが、昼過ぎには客で溢れかえっていました。(地元でも人気店であるようで、予約なく訪れたグループ客が入店を断られていたのを目にしました)友人と私は混雑を避けるように、かき小屋を後にします。

地図A: 国土地理院地図より白地図引用

 ここまでの移動ルートです。地図右上に見える広島駅から的場町(地図A:  上赤丸)にあるホテルへ移動し荷物を預けます。ホテルからは広島港(地図A: 下赤丸)まで市電で移動します。ミルキー鉄男の店はこの場所です。帰路は広島港から宇品五丁目までを市電で移動し、そこからホテルまでの数キロ(青矢印)は歩くことになります。

広島港駅で出発準備点検をしている様子

3. 宇品から広島駅までの散策

 旅行先で住宅街やちょっとした商店街を歩いてみたくなることはありませんか。私は寄り道が旅行の醍醐味であると常日頃思っています。小雨が降る中、港からほど近い場所で市電を下車し、一本小道に入ってみることにしました。

宇品で一番ヒップな場所、宇品ショッピングセンター

 グッとくるショッピングセンターを見つけました。このアーケードの長さはショッピングセンターの定義を覆しかねません。右手の花屋も素敵ですが、左手の魚屋に掲示される「焼あなご」の文字、この地域では常食されているのでしょうか、ぜひ一度食べてみたい。

旧広島陸軍被服支廠の壁面

 帰路の途中には「旧広島陸軍被服支廠」が近くにあると聞き、ここへも寄ります。帰宅後に気づいたのですが、今年100歳を迎えた親族の一人はまさにこの場所で原爆を逃れています。この場所がなければ私の人生も随分と変わっていたはずです。

 ほかにもいくつか記すべきことがあったような気もするのですが、牡蠣の印象が強すぎて、ほかに思い出すことができません。友人を家まで送り届けた後、ホテルへチェックインし、炭火の匂いがする服のままベッドへ倒れ込みます。

 ところで、広島の名物といえば牡蠣の他に何を思い浮かべますか。私はお好み焼きでした。日も暮れた頃に目を覚まし「そういえばホテルへ戻る途中に地元客で賑わうお好み焼き店があったな」などと思い出し、そこを訪れてみることにします。

細麺のお好み焼き。🎯でした。

 お好み焼き屋の帰り道、なんだか良さげな居酒屋も見つけました。調べてみると広島県尾道市を中心としたフランチャイズ店のようです。明日、食べるところが決まらなければここを訪れようと決めます。

米徳 劇場裏店、隣の音カフェりんりんも渋い。

 一日目はこれで終了です。この時点では今回の旅行目的である「文学フリマに参加する」こそ達成できていませんが、目当ての牡蠣とお好み焼きを食べ、概ね90パーセントの旅程をこなした気分となります。「明日のことは明日考えれば良い」と部屋に戻り缶ビールのタブを引きます。

4. 文学フリマ広島への参加

 若干の宿酔いを感じながら、かなりの宿酔いを感じながら、夜明け前に目覚めます。持っていたアスピリンを何錠か飲み、少し多めに水を飲んでベッドへと戻ります。

 そういえば宿泊先の紹介がまだでした。今回宿泊したホテルは「東横イン広島駅前大橋南」です。新幹線広島駅から徒歩数分に位置しています。通された部屋は、当初の期待に反し見事な眺望の最上階でした。宿泊一日目、私は酒を飲みながら橋を渡っていく市電を終電まで眺めていました。この部屋であれば、あと数日は滞在したい。

 宿酔いのまま会場に入り、事前に発送していた荷物を開梱し準備をはじめます。私のテーブル隣は新宿ゴールデン街で文壇バーを営む店主ユースケさんでした。

 恥ずかしながら私は文壇バーを訪れたことがありません。このため文壇バーとは「曲者の作家たちが互いの作品をディスるラップバトルが繰り広げられるような場所、リリックに詰まれば即退店」といった殺伐とした場所を漠然と想像していました。しかしユースケさんの話をお伺いすると、彼のお店に限っては違うようです。店のコピーには「日本一敷居の低い文壇バー」とありますので、おそらく和気藹々としたお店なのでしょう。

 概ね想像と違わないようです。近々お店に伺いますねとお伝えします。

 文学フリマ自体の体験は特に記すべきことはありません。おそらくこの記事を読む方々も期待していないでしょう。たくさんの方々にブースへ訪れていただき、私にとってのイベントは成功に終わりました。

5. 打ち上げ

 友人と夕食を約束していたのですが、彼女からは「会場で美女に誘われ打ち上げになるかもしれない。仮にそのような事態となれば、躊躇なく私との約束を断ってほしい」と伝えられていました。友人が一体どのような打ち上げを期待しているのか知る由もありませんが、老若男女問わず如何なるお誘いも受けることはありませんでしたので、予定の通り一緒に飲むこととなります。

 文学フリマの会場からホテルまでは徒歩30分、その道すがらにある友人御用達の鉄板焼き屋がこの日の目的地でした。しかし、そのお店はあいにくの臨時休業とのことで、それではと昨日見つけた居酒屋を訪れることにしました。結論から申し上げますと、この判断は正しいものでした。

東広島市に酒蔵がある亀齢(きれい)という日本酒
白子のポン酢和え
刺身盛り合わせ
地元蛸の酢味噌和え
すり身、玉ねぎなどを練ったものをフライにした「がんす」という広島名物

 店の名物である肉鍋は食べきれそうにもなかったので、刺身の盛り合わせ、小鉢をいくつかと地元の日本酒を頼みました。イベントが終わったという安堵もあってか一層においしく感じられました。写真にはありませんがホタルイカの醤油漬けも良かった。

 翌日に長時間の運転を控えているため、この日は深酒をせず解散となります。二日目はこれで終了です。

6. ドライブ・レンタ・カー

 この日は終日快晴で、ドライブ日和となりました。ホテルをチェックアウトし駅前のニッポンレンタカーに向かうと、用意されていた車はピカピカの白いトヨタ・ヤリスでした。
 
 広島はマツダのお膝元でしたので、当初はマツダロードスターを借りようかとも思案していたのですが、そこまで張り切ることもないなと考え直してのハッチバックでした。こんなコンディションになるのであれば躊躇なく借りておくべきだったと少し後悔します。

 もちろん、トヨタ・ヤリスが劣るということではありません。操舵は素直で軽快、燃費も良く、トヨタを代表する素晴らしい車の一つであることを疑う余地はありません。特に燃費は驚くべきものでした。やや高低差のある道程を150km近くを走ったにもかかわらず、ガソリンはわずかに8L程度しか消費していませんでした。(返却時の給油で「本当にこれで満タンなのか」と不安になるほどの燃費です)私がもし自動車を買う機会があれば、間違いなく検討リストに入る一台でしょう。

 さて、今回の旅程は以下の通りです。往路は赤色矢印、帰路は青色矢印で記載しています。

地図B: 国土地理院地図より白地図引用

a. 広島市環境局中工場

 広島駅を出発し、最初に向かうのは広島市環境局中工場(ごみ焼却施設)です。(地図B: 左上赤丸)この施設は建築家、谷口吉生が手がけたものです。東京都内であれば葛西臨海水族園などを手がけた、日本を代表する建築家の一人です。時間が許すのであれば、もう少し滞在したかった。

b. 安芸灘とびしま海道

 その後、広島高速3号線、広島呉道路を渡り呉へと抜け、二つ目の目的地である安芸灘とびしま海道へと進みます。途中にある古い街並みが残る御手洗町並み保存地区へも寄ります。(地図B: 右下赤丸)

 運転をしていたので途中の風景写真はありませんが、島と島を結ぶ橋は皆美しく、運転していても飽きることのない風景が続いていました。(帰宅後にカメラロールを見直し、橋愛好家のような写真が続いていることに笑ってしまいます)

安芸灘大橋
豊浜大橋
中の瀬戸大橋

c. 御手洗町並み保存地区

 実は当初この地区に寄る予定はありませんでした。道路標識に誘われるがまま「では、折角なので寄ってみようか」ということになり、御手洗町を訪れます。平日の昼間であったためか、有名な観光地にもかかわらず人は疎でした。情緒ある街並みを静かに散策することができました。

d. 備考

 私は普段自動車を運転しませんので、慣れない土地のドライブは特に注意する必要がありました。今回の運転中いくつか気づいたことがありましたのでここに記しておきます。同様の旅程を検討される際の参考となれば幸いです。

  1. 広島市内にはいくつかの市電が走っていますが、路面電車に慣れない場合は別のルートを選択する方が無難かもしれません。

  2. 安芸灘とびしま海道で自動車が横転しているのを見かけました。(結構な速度で追い抜いていった車でした)海道は狭い場所もあり、速度には十分に留意すべきです。

  3. 御手洗町並み保存地区には有料の駐車場がありましたが、少し離れた場所にある公営の無料駐車場が広く、駐車しやすい印象を受けました。歩くことが苦ではない場合、こちらの選択が無難です。

  4. 広島市内から安芸灘とびしま海道に向かう際、呉市内を抜ける必要がありますが、途中2つの連続する三叉路があり車線選択にやや窮する場面がありました。(ナビがなければ間違っていました)運転される際は、事前に地図を眺めておくと良いかもしれません。(以下地図C: 赤丸2箇所)

地図C: 国土地理院地図より白地図引用

7. 広島から岡山へ

 広島市内へと戻ると、すでに陽は傾きかけていました。車を返却し、隣のブロックにある銀座ライオン系列の店に入ります。地元のクラフトビールが飲めるお店を探しても良かったのですが、運転後で疲れていたため歩き回りたくなかったことと、最高のドライブのあとに「外れ」を引きたくないという消極的理由からです。

 これは個人的なこだわりのようなものですが、ビールのおいしさは一重にビアサーバと供されるグラスの清潔さにあると感じています。飲食店向けに講習が行われているビールを注ぐ検定制度も、その多くはサーバの洗浄方法に時間が費やされています。幸い、私は銀座ライオン系列の店で嫌な思いをしたことがありません。清潔なグラスに、正しくコントロールされたサーバからビールが供される。この基本が案外飲食店では大変であるようです。

 ビールに満足した後、駅ビルに入ると友人が「地元の日本酒がいくつか有料試飲できる場所がある」と教えてくれます。立ち寄らない理由がありません。この日は以下の4種が紹介されていましたので、それぞれ有償試飲をしてみます。

山岡酒造 - 瑞冠クローバー純米吟醸原酒 (純米吟醸)
賀茂鶴酒造 - 賀茂鶴四杜氏四季酒あらしばり (大吟醸)
今田酒造本店 - 富久長立春しぼり BIHO (純米吟醸)
醉心山根本店 - 酔心 無濾過純米原酒 

今週の『利き酒』メニュー より

 私は日本酒を評する単語を持ち合わせていませんので、ここでそれぞれの味の違いについて記載することはありません。ただ、どの日本酒もそれぞれに個性のある美味しいものでした。

 試飲コーナー近くの改札で友人と別れ、ホームヘちょうどやってきた新幹線へと滑り込みます。発車時刻に注意を払う必要のない新幹線自由席を、最近は気に入って利用しています。岡山まではこの新幹線で、岡山からは寝台特急に乗り換え東京へと戻ります。

 この日は自由席の窓際に空きがなかったため、岡山までの小一時間ほどをデッキで過ごします。広島を出発した頃はまだ明るかった空も、時速300kmでほぼ真東に向かう新幹線から見ると、普段より多少早く日没が感じられます。(多分、気持ちの問題です)

 岡山へは過去に数度訪れただけですが、歓楽街のはずれにあるこの銭湯が好きで毎回寄っています。ここの銭湯は湯船が深く、腰の位置ほどにもなります。シャワーの蛇口も旧式コックの開閉タイプで、そうしたクラシカルな点も旅情を誘います。途中通り抜けることととなる歓楽街も、最近はあまり感じられない猥雑さがあり私は気に入っています。

 銭湯の向かいには芝居小屋があり、この日はツアー用トラックが数台停車していました。大型の舞台道具を搬出しているのか、何人もの舞台スタッフが往来していました。小屋を渡り歩く芸人はどのような人々なのだろうかと思いを巡らせながら、銭湯の暖簾をくぐります。

 入浴後は駅前のネットカフェで寝台列車を待ちます。

8. 寝台特急サンライズ出雲・瀬戸

 その時刻が訪れると、駅中にあるコンビニで適当な酒を買い求めホームに停車している寝台車へと乗り込みます。ホームには寝台列車を一目見ようとたくさんの人々が詰めかけていました。

車両連結作業を行なっている様子

 今回予約が取れた席は二段ベットのあるコンパートメントでした。種別はシングルツインとよばれる種類であるようです。この寝台特急には過去何度か乗車したことがあるのですが、このタイプの席を予約するのは初めてでした。(寝台特急件は人気があり、自分で気に入った個室を選べることは稀です。このため、予約開始日に空いている席をまず確保するといった、やや乱暴な予約方法となります)それにしても「シングルツイン」とは不思議な単語です。

 一人でこの部屋を利用する場合、上段に荷物を置き、下段で眠るといった贅沢な使い方ができます。通常シングルより少しだけ値がするのですが、その差額以上にこれは快適なものでした。

 室内灯を落としブランケットに丸まり、通過する踏切の音や光、線路を走る振動に身を委ねながら、この先何度このような寝台特急に乗ることができるのだろうと考えます。

 近年では豪華なリゾート列車こそ増えましたが、こうした「少し背伸びすれば乗ることのできる」寝台列車は今ではサンライズだけです。この列車も遠くない将来消滅してしまうでしょう。それは時代とはいえ少し寂しくもあります。

 目が覚めると熱海の長いトンネル手前でした。

 関東に入ると窓のシェードを少しだけ開き、東京駅までの誰かの日常、通勤をぼんやりと眺めます。7時を少し過ぎた頃、窓から東京駅の赤煉瓦を認めます。

 私はまた、東京に戻ってきました。

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