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『よき時を思う』 | 読書感想

宮本輝「よき時を思う」を読みました。
自分の誕生日に、ぴったりだと思ったので。

いつか、愛する者たちを招いて晩餐会を――
九十歳の記念に祖母が計画した、一流のフレンチシェフと一流の食材が織りなす、豪華絢爛な晩餐会。
孫の綾乃は祖母の生涯を辿り、秘められた苦難と情熱を知る――。

集英社

宮本輝はもともと大好きで、今作も見かけてすぐ買いました。いつも、期待値を軽く超えてくれる。

四合院造りを管理する男性、一間を借りて住んでいる女性とその家族のお話。
四合院造りとは中国の伝統的建築で、中庭を囲んで四方に建物を配置しているものを指します。

https://only-juku.com/archives/3614

物語の本筋である主人公・綾乃の実家や晩餐会場などはこの場所ではありませんが、四合院造りはストーリー上で大きな存在感を放っていました。

十字形の石畳の道は、人間を誘う力を持っている触手のように四棟の家の玄関へと延びている。井戸はいまは使われていない。

P12

そして、読み進めるうちに待ち遠しくてたまらなくなった、晩餐会のシーン。

ズワイガニのテリーヌ、カスピ海産の最高級キャビアと生クリーム、コンソメ・ド・ジビエ、フランス産天然鴨のキュイッソン…。

どれも食べたことがないのに、まるでこの一家と共に食しているかのような満足感。どれも本当に美味しそうで、彼ら彼女らがしあわせそうで、なんとも眩しい描写でした。

それにしても、ペトリュスという赤ワインの美味しそうなこと…。
(お値段に息が止まりました)

物語の主要人物は、綾乃の祖母である晩餐会主催者の徳子。

徳子おばあちゃんは、なぜ出征が決まった青年と結婚したのか?
夫の戦死後、なぜ数年間も婚家にとどまったのか?
そしてなぜ、九十歳の記念に晩餐会を開くことにしたのか?

ゆっくり紐解かれていく彼女の人生と、そこに関わったさまざまな人との交流に、胸打たれます。

私も90まで生きたら、こんな集いをもてるだろうか。自分の生涯に、魂に感謝できるか。素晴らしい光景を、そのまま素直に受け止めて感動できるだろうか。
多くのことを考えさせられました。

最後に、私が大好きな一節を。
徳子様におかれましては、小病小悩でありましょうか。

小病小悩
  少しの病気、少しの悩みのこと。人生をふりかえると、すべては小病小悩なのかも知れませんね。誰しもが何らかの病を持ち、悩んでいるのでしょうから。

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