『よき時を思う』 | 読書感想
宮本輝「よき時を思う」を読みました。
自分の誕生日に、ぴったりだと思ったので。
宮本輝はもともと大好きで、今作も見かけてすぐ買いました。いつも、期待値を軽く超えてくれる。
四合院造りを管理する男性、一間を借りて住んでいる女性とその家族のお話。
四合院造りとは中国の伝統的建築で、中庭を囲んで四方に建物を配置しているものを指します。
物語の本筋である主人公・綾乃の実家や晩餐会場などはこの場所ではありませんが、四合院造りはストーリー上で大きな存在感を放っていました。
そして、読み進めるうちに待ち遠しくてたまらなくなった、晩餐会のシーン。
ズワイガニのテリーヌ、カスピ海産の最高級キャビアと生クリーム、コンソメ・ド・ジビエ、フランス産天然鴨のキュイッソン…。
どれも食べたことがないのに、まるでこの一家と共に食しているかのような満足感。どれも本当に美味しそうで、彼ら彼女らがしあわせそうで、なんとも眩しい描写でした。
それにしても、ペトリュスという赤ワインの美味しそうなこと…。
(お値段に息が止まりました)
物語の主要人物は、綾乃の祖母である晩餐会主催者の徳子。
徳子おばあちゃんは、なぜ出征が決まった青年と結婚したのか?
夫の戦死後、なぜ数年間も婚家にとどまったのか?
そしてなぜ、九十歳の記念に晩餐会を開くことにしたのか?
ゆっくり紐解かれていく彼女の人生と、そこに関わったさまざまな人との交流に、胸打たれます。
私も90まで生きたら、こんな集いをもてるだろうか。自分の生涯に、魂に感謝できるか。素晴らしい光景を、そのまま素直に受け止めて感動できるだろうか。
多くのことを考えさせられました。
最後に、私が大好きな一節を。
徳子様におかれましては、小病小悩でありましょうか。
小病小悩
少しの病気、少しの悩みのこと。人生をふりかえると、すべては小病小悩なのかも知れませんね。誰しもが何らかの病を持ち、悩んでいるのでしょうから。
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