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秋
2023年8月16日 22:52
「いたた、ねえ、痛いって」彼の声にはっとして身体を起こすと、二の腕に丸い歯型がくっきりと残っていた。まずい、やってしまった。むっとした顔で腕をさする彼に、「ごめんなさい…」と頭を垂れる。しおらしくなった私に満足したのか、「大丈夫だよ、でも痛いからやめてね」と彼は優しい声色になった。もうしない、と何度目かわからない口約束を唱えて、彼の腕に刻まれた円を撫でる。幼いころから、なんでも噛んでしま
2023年8月3日 18:34
嫌な夢を見た。楽しげな声であふれているのに私はちっとも楽しくなくて、むしろその声が恐ろしかった。姿の見えないそれらの嬌声にぞっとして、逃げようとするが体は動かない。はっと目が覚める。しばらく身動きが取れなかった。大きく息を吸い、ゆっくりと吐く。夫の腕から抜け出し、水を1杯飲んだ。じっとりと汗ばむ寝苦しい夜がつづく。長野で育った私には、東京の夏は暑すぎる。真っ暗なリビングのソファに身を沈