#165 「A保険会社上司(損害賠償)事件」東京地裁
2006年12月13日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第165号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【A保険会社上司(損害賠償)事件・東京地裁判決】(2004年12月1日)
▽ <主な争点>
部下に対する業務指導の範囲/不法行為(上司のメール送信)による損害賠償
1.事件の概要は?
本件は、A保険会社の従業員Xが上司であるYから「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」などと記載された電子メールをXとその職場の同僚に送信されたことが名誉毀損またはパワーハラスメントで不法行為を構成すると主張して、慰謝料100万円等を請求したもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<XおよびYについて>
★ Xは昭和50年、A保険会社(以下「A社」という)の前身であるB保険会社に総合職として入社したが、平成10年7月、希望によりエリア総合職に転換(給与は約3分の2になる)し、13年10月からはA社のサービスセンター(以下「本件SC」という)におけるユニットの一つに所属し、課長代理として勤務していた。
★ Yは本件SCの所長であり、Xの人事考課の第一次査定者である。また、DはXが所属するユニットのリーダーである。
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<A社の社員区分およびXの人事考課等について>
★ A社の社員区分は、総合職、エリア総合職、営業・損害サービス職、業務職、専任職、事務職等に分かれている。総合職およびエリア総合職は、他の社員区分と比較すると、高度かつ広範な知識・経験に基づき職務を創造的かつ効果的に遂行することが求められる。
★ エリア総合職は、総合職と異なり、転居を伴う異動は原則としてないが、本人の同意に基づき地域を限定されて転居活動が行われることがある。
★ A社のエリア総合職で課長代理以下の社員の人事考課は、総合考課と賞与考課に分かれ、いずれの考課も優良な方からU、S、G、A、B、C、Dに設定区分される。Xは13年度と14年度の総合考課・賞与考課ともにCという設定を受けた。
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<本件メールの送信に至った経緯等について>
★ 本件SCのXが所属するユニットは、保険支払事務を担当していたが、保険支払事務には賠償保険と傷害保険の各業務があり、賠償保険は被害者との折衝、損害の認定等がある点で傷害保険に比して困難が伴い、難易度も高い。Xは本件SCにおいて、難易度の低い傷害保険業務だけの担当となり、不満を抱いていた。
★ Xはかねてから担当案件の処理状況が芳しい成果を挙げられずにいたところ、Dリーダーは14年12月、当月のXの処理件数が1件であったことから、Xを叱咤激励したが、その後の処理状況もはかばかしくなかった。
▼ そこで、Dは本件SCのXを含むユニットの従業員とYに宛てて、Xについて、「課長代理として全く出力不足と言わざるを得ません」などと記載したメール(以下「Dメール」という)を送信した。
▼ YはDメールを受けて、次の内容を含むメール(以下「本件メール」という)を送信した。本件メールはXのみならず、同じ職場の従業員十数人にも送信された。この引用部分は赤文字でポイントの大きな文字で書かれていた。
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