#389 「医療法人 稲門会事件」京都地裁
2015年7月1日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第389号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【医療法人 稲門会(以下、T会)事件・京都地裁判決】(2013年9月24日)
▽ <主な争点>
育児休業の取得を理由とする昇給・昇格上の不利益取扱いなど
1.事件の概要は?
本件は、T会が開設する病院において看護師として勤務していたX(男性)が、平成22年9月4日から12月3日まで育児休暇を取得したところ、同会がXの3ヵ月間の不就労を理由として、平成23年度の職能給を昇給させず、そのため昇格試験を受験する機会も与えなかったことについて、この行為は育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児介護休業法」という)10条* に定める不利益取扱いに該当し、公序良俗(民法90条)に反する行為であると主張して、T会に対し、不法行為に基づき、昇給・昇格していた場合の給与および退職金と実際のそれとの差額に相当する損害の賠償ならびに慰謝料30万円の支払いを求めたもの。
* 育児介護休業法 第10条(不利益取扱いの禁止)
「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」
2.前提事実および事件の経過は?
<T会およびXについて>
★ T会は、病院、診療所、介護老人保健施設を経営し、看護、介護および医療等の普及を目的とする医療法人であり、I病院などを開設している。
★ X(男性)は、平成10年4月、短時間労働者としてT会に採用され、15年4月から25年1月まで、I病院において看護師として勤務した者である。
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<T会における賃金、人事評価に関する定め等について>
★ T会はI病院の従業員に対して支払う賃金について、就業規則、賃金規程、育児・介護休業等に関する規程等で定めているところ、その内容は概ね次のとおりである。
(1)賃金は基本給および手当に分けて支給する。
(2)基本給は、就業に対し、資格、経験、年齢その他により、職種別賃金体系による。
(3)基本給は、本人給、職務給、職能給から構成される。
・本人給は、従業員の年齢によって変動する給与をいい、20歳から35歳までは毎年1000円ずつ、36歳から45歳までは毎年500円ずつ上昇する。
・職務給は、職種ごとに定められた給与をいい、職種によって一定額であるところ、看護師の場合、月額6万6000円である。
・職能給は、経験年数と能力により定める等級・号俸によって変動する給与をいう。なお、Xを含む一般職員の等級は、下からJ1、J2、J3、S4、S5、S6となっている。
(4)定期昇給は、毎年1回、4月度の賃金から行うが、前年度における私傷病による欠勤が1ヵ月半以上3ヵ月未満の場合は、通常の半額の昇給とし、3ヵ月以上の場合は行わない。
(5)育児休業中は本人給のみの昇給とする(育児介護規程9条3項)。
★ I病院における人事評価は毎年度行われ、当該従業員の勤務成績が特に優秀である場合はS、優秀である場合はA、良好である場合はB、やや良くない場合はC、良くない場合はDの5段階で評価され、前年度の評価がB以上であれば、当年度の4月度給与から職能給が昇給される。
★ T会の人材育成評価システムマニュアルには、育児休業、長期の療養休暇または休職により、評価期間中における勤務期間が3月に満たない場合は評価不能として取り扱う旨の定めがある。
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<Xの育児休業の取得、退職に至った経緯等について>
▼ Xは平成20年度に等級S4に昇格した。
▼ Xは22年9月4日から同年12月3日まで育児休業を取得した。なお、Xの同年度の等級・号俸はS4-9であった。
▼ Xは23年4月の定期昇給において、本人給については昇給したものの、職能給については昇給せず、その等級・号俸はS4-9のままであった。
▼ Xは22年度の不就労期間が3ヵ月間以上に及んだため、当該年度が昇格試験受験に必要な標準年数に算入されず、その結果、未だ標準年数である4年を経過しておらず、受験資格がないという理由で、24年度にS5に昇格するための試験を受験することができなかった。
▼ Xは25年1月、T会を自己都合で退職した。
3.看護師Xの主な言い分は?
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