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#510 「神奈川SR経営労務センター事件」横浜地裁(再掲)

2020年4月15日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第510号で取り上げた労働判例を紹介します。


■ 【神奈川SR経営労務センター(以下、Kセンター)事件・横浜地裁判決】(2018年5月10日)

▽ <主な争点>
休職期間満了に伴う退職扱いと産業医意見の信用性など

1.事件の概要は?

本件は、労働保険事務組合であるKセンターの職員であったAおよびBがそれぞれうつ状態と適応障害を発症して休職したところ、休職期間満了の時点で復職不可と判断され自然退職扱い(以下「本件各退職扱い」という)とされたことについて、主位的には、Aらは復職可能であったことから、本件各退職扱いはKセンターの就業規則の要件を満たさず無効であるとして、予備的には、AらとKセンターとの間の従前の経緯に照らして本件各退職扱いは信義則に反し無効であるとして、同センターに対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに、休職事由の消滅した日の翌日以降の賃金および賞与の支払等を求めたもの。

2.前提事実および事件の経過は?

<Kセンター、AおよびBについて>

★ Kセンターは、厚生労働大臣認可の労働保険事務組合であり、権利能力なき社団である。

★ Aは、平成20年9月、Kセンターとの間で、職種の限定なく、期間の定めのない雇用契約を締結し、労働保険事務組合関係業務、庶務関係業務等に従事していた者である。具体的には、窓口業務、電話対応、書類整理等を行っていた。

★ Bは、13年3月、Kセンターとの間で、職種の限定なく、期間の定めのない雇用契約を締結し、労働保険事務組合関係業務、ホームページ管理業務等に従事していた者である。具体的には、窓口業務、電話対応等を行っていた。

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<本件就業規則の定め等について>

★ Kセンターの就業規則(以下「本件就業規則」という)には、次の定めがある。

第9条(休職)
 職員が次項に定める休職事由に該当するときは休職を命ずる。
 休職事由及び休職期間は次のとおりとする。
(1)業務外の傷病により、3ヵ月以上欠勤することとなったとき
(中略)
・勤続年数10年未満の者 9ヵ月
・勤続年数10年以上の者 12ヵ月

第10条(復職)
 休職を命じられた職員の休職事由が消滅したときは復職させるものとする。ただし、休職期間が満了しても復職できないときは、退職とする。
 休職事由が消滅したときは、休職前の職務に復職させることとする。ただし、やむを得ない事情のある場合には異なる職務に配置することがある。

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<第1訴訟、第2訴訟等について>

▼ Aは23年7月、職場におけるパワハラを理由として、Kセンター、当時の代表者の会長らの3者を被告として、横浜地裁に損害賠償請求訴訟を提起した(以下「第1訴訟」という)。24年11月、第1訴訟において和解が成立した。

▼ Aは25年9月、第1訴訟の和解条項が履行されておらず職場で嫌がらせが続いていることなどを理由に、同センター、会長および4人の副会長の6者を被告として横浜地裁に損害賠償請求訴訟を提起した(以下「第2訴訟」という)。

▼ 横浜地裁は27年1月、第2訴訟について請求棄却の判決をした。これに対し、控訴審の東京高裁は同年8月、原判決を取り消し、上記6者に対し、連帯して330万円の支払を命じる判決を言い渡した。

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<Aの休職および休職期間満了による退職扱いに至る経緯等について>

▼ Aは精神的な体調不良が悪化し、26年5月から仕事を休み、主治医によりうつ状態と診断された。Kセンターは同年9月、27年6月7日まで、Aに休職を命じた。

▼ Kセンターは27年5月、Aに対し、復職の手順について通知をしたところ、Aは同センターに対し、同年6月から復職する旨を通知するとともに「病状改善により復職を可能な状態と判断する」と記載された主治医作成の診断書を提出した。

▼ Kセンターは同年6月、Aに対し、産業医による診断および意見を参考に検討し、従前の職務に復帰することは不可能との結論に達し、休職期間満了日において復職できないことから、本件就業規則に基づき、休職期間満了日である同月7日をもって自然退職扱い(以下「本件退職扱いA」という)とした旨を通知した。

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<Bの休職および休職期間満了による退職扱いに至る経緯等について>

▼ Bは23年3月、医師により適応障害と診断され、その後、精神的不調が悪化し、26年5月から仕事を休んだ。Kセンターは同年9月、Bに対し、27年9月23日まで休職を命じた。

▼ Bは27年5月、Kセンターに対し、6月から復職する旨を通知するとともに「症状改善傾向のため、就労可能と考える」と記載された主治医作成の診断書を提出した。Kセンターは同年6月以降、産業医による診断および意見を参考に検討したが、従前の職務に復帰することは時期尚早であるとして、Bに対し、2度にわたって復職の申出を拒否した。

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