『アサッテの人』読書レビュー



 扱っている題材がかなり入り組んでおり、読み進めるのに若干の不安はあったものの、文章が非常に読みやすいこともあって作品としては楽しめた。文庫版にある著者のあとがきを読み、この作品が誕生した背景も知った。

 主人公である「叔父」を取り巻く不遇はいたたまれないものであるが、結末は良し悪しに関わらず、いっさい描かれていない。そもそもエンタメ作品ではないので取ってつけたような収拾がないのは然るべきだと思う。

 しかしながらこの作品の骨子でもある「『凡庸』の枠外に飛び回る軌道不明な『アサッテ』という概念」が叔父(または著者)のすがった藁であり、次第に『アサッテ』自体が凡庸そのものとなり無限地獄に陥ってしまうという顛末を知ると、各新人賞授与(群像、芥川)の段にいささかの引っ掛かりを覚えた。
 というのも新人賞の冠ってその後の作家人生を決定づける凡庸そのものなので、一番苦しむのは作者なんじゃないかな、ということだ。『アサッテ』を知らない人たちにとっては「ああ、『アサッテの人』の作者ね。変わった小説を書くんでしょう。へー、他の作品は××なんだね。ふーん、デビュー作はシュール『なのに』、芥川賞作家『なのに』、『なのに』、『なのに』、『なのに』」

 意図して授与したのであれば文学界隈にもなかなか面白い毒を見出せるが、そうでないのであればとても残酷な話であると思う。余計なお世話ですけどね。

 ところで下世話なことを追記しますと、ある種の精神疾患や発達障害においてはこのような『アサッテ』は普遍的なものなので(強迫性障害においての数字等の取り決め、不安障害における自己暗示、自閉傾向がある障害におけるいわゆる『儀式』)、これがアートとかエンタメとかシュールと捉えられることは良く言えば理解へと繋がりますが、悪く言えば誤解ともなると思いました。文学作品の表現に実生活の観念を持ち込むのは無粋ではあるけれど。


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