お金と欲望を克明に描いた小説 『睡魔』 (梁石日)
『血と骨』で有名な梁石日が好きで一時色々読んでたんだけど、個人的にはマルチビジネスに嵌った男の顛末を描いた『睡魔』が一番好きだ。
筆者の実体験を基に描かれている本書。
友人に誘われて訪れた説明会は(よくある話で)仕組まれていて、サクラがいたり、天才的な演説をぶつ勧誘員がいる。主人公は頭ではその演説を否定するのだが、裏腹に身体は熱し欲望が肯定を求める。
で、いざ入会してみると主人公も人を説得する才能に長けていたことで成績抜群。これも実話とか。
人の欲望や洗脳のメカニズムが克明に描かれていてクソ面白い。大陸風味の「ナニワ金融道」のような読み応え。ドロドロに人間臭く、金を追う欲望に手に汗握る。
以前、『金と感情の回り方』というコラムを書いたが、お金について考えるならぜひ本書も手に取られたい。あの手この手の美味い話が転がり続ける世の中において、限界に来た資本主義がバブルを起こし続ける近年において、本書は今も説得力を持っている。
ちなみに、私の母も若い頃、ねずみ講で騙されたことがあるという。信じやすい人なのだ。しかし間もなくそのねずみ講が破綻して新聞に載り、真っ青になって父に泣きつく。母と違い用心深い父は激怒。「子」にお金を返させてケジメをつけた。計25万円(当時)の損害。この程度で良かったと言うべきか。
そういう話を聞いていたので、私も何度か誘われたことがあったが、もちろんすべて断った。でも断り方にもコツがあって、「それ、ねずみ講でしょ!」と指摘すると山のような反論が返ってきて辟易する。マニュアルがあるのだろう。だから、やんわりと断り、徐々に距離を取る。
しかし中には「強者」もいて、付き合いで入会し、結果的により高いものを買わせる営業マンもいる。やり手の営業マンの中には、マルチ含め、あらゆる宗教や政治団体に加入し、その人脈で成績を上げ続ける人もいるという。土日は必ずどこかの礼拝や集会に出席してるとか。上には上がいる。
あと関係ないけど、うちの母も実は元営業ウーマンで、大手化粧品のセールスを長くやった経験がある。上記のようなタイプのやり手ではないが、底抜けに明るく(※底抜けにそそっかしいが)人と打ち解けやすいので、中には何十年の付き合いのあるお客さんもいた。で、何度も聞かされたのが、「営業マンは営業マンに弱い」。母の同僚の間でも通説だったとか。売る苦労がわかるので、ついついほっとけなくなるそうだ。お金のと感情の回り方は面白い。