見出し画像

[夜話05] 「冷戦の残骸」としての戦争 〜世界情報戦40日〜

▶︎ 心晴れないこの40日

 ここしばらく受託開発の案件が正念場を迎えていて,ずいぶんと間が空いてしまいました。
 まあ,具体的に収入になる仕事でもあり,個人開発の重責もあり,そちらに注力するのは当たり前なわけですが…

 それも概ね目処が立ち,少し一息つけるかなという状況になりました。

 一方でこの40日ほどは,世界的な危機到来のなか,御多分に洩れず,日々ニュースを追いながらヤキモキという状況でありました。

 ここ数日の停戦協議やロシアの戦略変更でようやく光明が見え始め,しかし同時に,戦地の凄惨を極める実態も露わになり始めました。

 ともかくも,プーチンがまたぞろヘソを曲げないうちに,悲惨な戦闘状態を一刻も早く終わらせてほしい願うばかりです。

▶︎ 民主国家 vs. 専制国家の情報戦

 今回の「戦争」について語り出せばキリがないわけですが…

 何しろ変に価値判断を全面に押し出すと各方面から袋叩きにされるこのご時世。

 SNSを覗くと,これほど多様な思想(というより情動に近い)があり得たものかというぐらいのカオス状態。
 中には信じがたいデマ・煽動にそのまま乗っかって騒ぎ出す人たちが一定数いて,ちょっと考えさせられます。

 一方で,これほど多方面からの情報が氾濫する出来事はこれまでになかったと感じています。

 日々の更新が目まぐるしく戦況を追うのすら大変… というか,こんなにリアルに戦況を追えること自体,戦争報道史上,初めてだと思います。

 何しろ一般市民までもが映像を撮って,あるいはリアルタイム通信で,世界に向けて情報発信するわけですから。
 極め付きは,戦争当事国の元首がネットで世界中に呼びかけ,極東の国の国会にまで登場してしまう… こんなことはやはり前代未聞です。

 30年前の湾岸戦争の時はテレビなどの従来メディアに頼るしかなかったわけで,WebやSNSの威力を思い知らされるとともに,人類史上初とも言える世界中を巻き込む「情報戦」を目の当たりにした印象です。

 情報統制を強行するプーチン政権もさぞかし苦慮することと思いきや…
 こんな状況下でもプロパガンダで統制し切ってしまう専制国家の狂気。如何ともしがたい「怪物」であることを思い知らされます。

 その背景には,冷戦後に煮湯を飲まされたある世代以上のロシア国民が共有する「怨念」があり,NATO側の目的の判然としない無闇な拡大戦略による「煽り」もあったわけで…

 この辺は歴史の審判を待つほかないのでしょう。

ロシア軍はキーウ侵攻を諦め,東部「親露派」地域の制圧に軍を集中

▶︎ 「冷戦の残骸」としての戦争

 メディアに登場する「専門家」諸氏も多忙を極めていますね。
 この状況は湾岸戦争のデジャブ。あの時も多くの「軍事アナリスト」なる肩書きの人々がメディアを席巻しました。

 戦争のような非常事態になると,大学の国際政治の先生でも「軍事」や「核抑止」などの知見に乏しい研究者はややピントのボケた発言が多く,むしろ軍事・防衛の専門家の方が解説にキレを感じさせます。

 この間の論説で印象に残ったのは,NHKの番組に登場したフランスのジャック・アタリ氏。長年フランス大統領府で重責を担い,冷戦終結後の欧州再編にも手腕を振るった人物です。

 アタリ氏は,この戦争について「冷戦の残骸」だと述べ,まだ冷戦は終わりきっておらず「ポスト冷戦など無かった」との認識を示しました。

 そして,ソ連崩壊後もロシアの政権中枢には「質の悪い人間」が残っていて,民主主義勢力に組み込むことができなかったこと…

 さらに,アメリカが(特に軍部の都合で)常に「敵」を必要としており,ソ連崩壊後の1990年代にはまだ中国はアメリカの敵に値しなかったこと…
(筆者付記:はっきりいうとロシアを「仮想敵国」に据えておく方が都合が良かったこと)

 などを戦争の要因として挙げました。

 「冷戦」の本当の終結にロシア中枢部の政治的浄化が必要なのだとすれば,これは一朝一夕にはいかないと思われ…

 また,アメリカ・NATOにしても様々な歴史の闇を背負っていて、決して「正義の使者」でないことは自明であり…

 ともかくも戦争が集結したのちには,西側の対露・対中戦略の再検証が必須となることでしょう。

 一方で,ロシアのような大国が暴れ出した時に,国際連合がいかに無力であるのかも露わになり,その再構築も大きな課題として残ります。

 私個人としては,そろそろ近現代史の深掘りを迫られるようになり,資料収集を再開せよ(もっと勉強しろ)と強く背中を押されたのでした。

手元にあるポーランド史の大家ノーマン・デイヴィスの「ヨーロッパ」Ⅰ〜Ⅲ巻。
欧州の研究者らしくクセがあって骨の折れる書籍ながら面白い。
ずっと購入をためらっていた「Ⅳ 現代」をついに発注。原著は1996年刊。


この記事が参加している募集