
【メディア解剖連載 Vol.8】ITmedia ビジネスオンライン 副編集長 秋山未里さん
現在、BtoB企業向けに広報部門立ち上げコンサルティングを行うリープフロッグ代表 松田純子とPRコンサルタント/SPRing代表 高橋ちさが主催し、ライターとして企業広報の3名(橋尾日登美さん、前田弥生さん、堤はるなさん、野内遥さん)、宣伝担当として広報コンサルタント村田知左さん、(株)きなり 奥野絵里奈さんに参加いただき【メディア解剖連載】を行っています。
※本連載の趣旨は、第1回記事の冒頭をご覧ください。
毎回、松田と高橋が専門とするBtoB分野のメディアの方をお招きし、
以下のような項目を中心にヒアリングしてnoteにインタビューを掲載していきます。各社の広報の方に、ぜひお仕事の参考にしていただければと思います!
・媒体コンセプト、ターゲット読者
・取材の注力分野
・広報担当者との関り方 など
第8回は、ITmedia ビジネスオンライン 副編集長 秋山未里さん
にお話を伺います!
・プレスリリース送付先:release@ml.itmedia.co.jp

プロフィール
ITmedia ビジネスオンライン 副編集長
2017年アイティメディアに入社。企画営業として製造、エネルギー、IT業界などの企業のプロモーションに携わったのち、2020年よりITmedia ビジネスオンライン編集部に配属。専門コーナー「#SHIFT」などの責任者として、DXによる働き方改革に関する取材に注力。2023年10月より現職
■ITmedia ビジネスオンラインのコンセプトと読者
Q:本日はよろしくお願いいたします。まずは、媒体の特徴を教えてください。
ITmedia ビジネスオンライン(以下、ITmedia ビジネス)は、ITmediaにある20媒体のうちの一つで、ビジネス情報に特化したWebメディアです。
ITmediaのビジネスメディアなのでIT領域の情報に強いことが特徴です。そのなかでも特に今我々が主眼を置いているのが、会社のDX支援につながる情報発信です。各社がDXを上手く進めるために参考となる事例や業務課題の解決支援につながる情報などを積極的に発信しています。


出典:https://www.itmedia.co.jp/business/
Q:読者はどういった方々ですか?
主な読者ターゲットは、非IT業種/非IT職種でDXをけん引する方々(※)です。経営、営業、バックオフィス系などの各職種に向けた専門コーナーと、小売・金融・自治体など業種カットの専門コーナーが常設でメディア内にあります。役職者が読者全体の約63%を占めており、読者層としては経営層、リーダー層が多い状況です。
また、先ほどもお伝えした通りDX支援の情報発信を強化していますので、DX推進関与者や業務プロセスのデジタル化、ビジネスモデル変革に関心がある方々に読んでいただいています。
(※)「メディア解剖連載」編集部注
ITmedia にはIT業種/IT職種向けの媒体がほかにもあるため。
Q:競合はどういったメディアになりますか?
競合と考えているメディアは特にないです。むしろ常に独自のポジションを築きたいと考えています。もちろん、ビジネスメディアなので大手経済メディアはすべて競合ですし、DX推進を支援するという意味ではIT系メディアも競合です。
ただし、独自ポジションという意味で、我々としてはちょうどその真ん中辺りにいたいなと。ビジネスメディアよりはDXに強い、DXメディアよりは幅広くビジネス層に響く情報発信ができる、かつ非IT業種/非IT職種の方向けという独自性の高い立ち位置を目指しています。
■編集部の体制・求める情報
Q:次に、編集部の体制について教えてください。
部内には大きく分けて報道チームと領域チームの2チームがあります。私自身は副編集長と領域チームのリーダーを兼任しています。
領域チームが専門コーナー(※下図)を充実させるメンバーで、我々がターゲットと定める業種、職種の方々の課題解決を支援する記事を出しています。こうした領域特化型の専門コーナーがあることが、ITmedia ビジネスオンラインの強みの一つになっています。
報道チームは、一般的な企業報道を扱うチームです。企業の発表会を取材したり、その日に起きた大きなニュースを速報的に記事にします。大企業の動向などを扱うことが多いです。
体制としては、報道チームが5人で領域チームが7人。実は、ITmediaマーケティングの担当者も領域チームのメンバーです。

出典:https://www.itmedia.co.jp/business/

Q:今専門コーナーで特に注力している取材分野はありますか?
3つあります。まずは、ITmedia ビジネスが主催する「ITmedia デジタル戦略EXPO」という大規模なオンラインイベントがあるのですが、そこで扱っている全社横断DXです。企業の経営者をはじめ各部門が連携して全社横断でDXを推進する取り組みが増えていますが、うまく部門間の連携ができなかったり、思い描いたような成果が出なかったりとつまずいている企業が多いのが現状です。
2つ目は、専門コーナーの一つの「#SHIFT」(人材不足×DXの最適解)で扱っている、人手不足をいかにテクノロジーで解決するか、というテーマも注力テーマです。
3つ目は、「CX Experts」で扱う企業のデータ活用、データ整備に関する情報です。昨今、顧客データの活用に悩む企業が多いのでここにも注力しています。
■記者の1日の仕事の流れ、編集会議について
Q:なかなか知る機会が少ないので、編集部の皆さんの1日のお仕事の流れについて教えてください。
私がリーダーを務めている領域チームでは、各分野の担当者が1日2本、週に10本ほど記事を出しています。昼間に何件か取材に回りながら、月に35本から40本くらい記事を出すことが多いですね。
もちろん、なかには短い記事や寄稿記事なども含むので月に40回取材している訳ではありません。それぞれに決められた目標があり、それを達成できるように各自が担当しているコーナーの記事を充実させています。
Q:編集会議はどのように運営されていますか?
編集部全体の会議は週1回1時間あります。その他に、領域チームではネタ出しの会議を同じく週1回1時間行っています。毎日送られてくるメールから取材すべき発表会などをスプレッドシートにためています。
また、ネタアイデアをそれぞれ会議の議事録ページに書き出し、それらを見ながらチーム全員で取材先や役割分担を決めています。普段からチームの横の連携を強化しているので、自分の担当領域ではないけれど良いネタがあった場合はこの会議やSlackで共有しています。
Q:参考までに……編集会議は何曜日ですか?
木曜日です。発表会が少ないからですかね。月曜日、水曜日は展示会が始まることが多いので外にいることが多いですし、金曜日も取材入れがちなので、火曜日、木曜日がミーティング日になりがちです。
(※)編集部注
これまでお話を聞いたWebメディアさんは木曜日が多いです。編集会議で色々決まるので、広報担当者はお返事が来なくても一定期間はリマインドしない方が良さそうですね。
■取材先の探し方、ネタの選定基準
Q:ITmedia ビジネスの記事を拝見していると“興味を持ってクリックしたくなる”記事が多いと感じます。どのように取材先を探していますか?
取材先の探し方は色々ありますが、テーマを決めてインターネット上で検索したり、人からの紹介などが多いかなと思います。
Q:テーマを決めて検索して取材先を探すケースと各企業の広報提案から取材になるケースではどちらが多いですか?
半々くらいですね。ただ、領域チームの場合は、自分の担当領域があるし、月1回の「総力特集」(※)に記事を出す必要があるので、取材内容に沿って検索などで情報収集することが比較的多くなると思います。
(※)編集部注
「総力特集」ページの下部に行くと「過去の特集と今後の特集予定」で掲載されている。このテーマに沿った情報提供をすると喜ばれる。
Q:取材するネタを決める基準というものはありますか?
ネタの選定基準は記者によってさまざまだと思いますが、個人的には以下の3つを重視しています。
① 成果が出ているかどうか
② 目を引く企業名か、肩書かどうか
※肩書とは、有名企業でなくても「老舗の和菓子屋がデジタル化」のような興味を引きやすい肩書(説明)が付けられるケース
③ ストーリー性があるかどうか
※逆境からのV字回復など、「一見すると〇〇なのに実は違った、なぜなら…」というようなストーリー性があるもの。「なぜ!?」と疑問がわくようなストーリーだと読まれやすい
ただし、この3要素すべてが必ず必要だという訳ではありません。「この事例はしっかり数字が出ていて企業名も分かりやすい」でもOKですし、「この事例は、数字は出せないけれど“社員が大量離職したのに好業績”のようなストーリー性がある」などでもOKです。3つの要素を組み合わせながら面白いタイトルが付けられそうな取材先を探しています。
Q:取材先を探す際は企業のどういった情報を見ていますか?
まずはコーポレートサイトなどに載っている情報を読みます。最近だと採用広報としてnoteで情報発信をされている企業も多いので、そういった記事も読みます。プレスリリースなどメディア向けの情報以外にもかなり幅広く目を通しています。
企業によっては、大量離職や業績悪化など一見マイナスに見える情報を隠さずに発信している所もあって、業績悪化からのV字回復など、みんなが知りたいストーリーを隠さずに話してくださる取材先はありがたいですね。記事に載っている“どこから来たんだこの情報”みたいなレアな情報は、企業のオウンドメディアやSNSで収集することが多いと思います。
■広報とのコミュニケーションの取り方
Q:秋山さんが現場で取材されていた頃、1日にどのくらいメールが来ていましたか?
個人アドレス向けには1日30件から50件くらいでした。メールをメインにSNSでもご連絡がありました。このほか、ITmedia全体で利用しているプレスリリースの送付先アドレス(記事の上部記載)がありますが、そこには途方もない量が来ますね。1日で一番プレスリリースが来るのは朝の11時なんですけれど、最初の5分で200件くらいは来ます。
Q:大量のメールのなかからどんな基準で開くメールを決めるのでしょうか?
まずはタイトルで自分の取材領域に関係があるかどうかを見極めます。実際にメールを開いて中身を読むのは5件ほどです。全体のアドレス宛も1日に10件から20件ほどのメールは文面まで読んでいました。
その意味ではメールタイトルが凄く重要です。最初はタイトルだけで判断することになるので。「人的資本経営」のネタを探していても、タイトルに「人的資本経営」という文字が入っていなかったら見つけることができません。
Q:SNSなどで全然知らない広報から連絡が来ることについてどう感じますか?
フェイスブックもX(旧Twitter)もよくご連絡をいただきますよ。特に気になりません。例えば、「この記事を読んでご連絡しました」、「この領域を担当されているのでご連絡しました」など、私の担当領域を理解してご連絡をいただいた場合には返信することが多いです。逆に、色んな人に適当に連絡していると感じるものや目的がよく分からないものには返信をしないですね。
■企業の広報にして欲しいこと/欲しくないこと
Q:毎回お聞きする質問なんですが、広報担当者に「して欲しいこと」、「して欲しくないこと」を教えてください。
「して欲しいこと」でいうと、製品についての取材提案であれば「事例」について教えていただきたいです。うちの媒体はストレートニュースの記事が少ないので、「新製品を発表しました」というのはなかなか扱いづらいです。事例の情報も、先ほどお伝えした3つのポイントを踏まえて具体的な数値や成果を含めて教えていただけると大変ありがたいです。
また、「して欲しくないこと」の方では、これはどこのメディアもおっしゃると思うんですが、例えば事例取材などで「この順番で取り上げて欲しい」「この内容を絶対に入れて欲しい」など企業からのご要望は受け入れられないので困ってしまいます。内容を自由に決めたい場合は、広告出稿をご検討いただけるとありがたいです。
あとは、やっぱりメディアをよく読んでからご提案をいただきたいですね。“ITmedia ビジネスぽい記事”というのがあると思っているので、それが分かっている提案をいただけるとありがたいです。トップページに載っている記事をいくつか読むだけでもいいのでぜひご一読ください。
Q:無理な要望もあるんですね。ITmediaでは掲載前に企業が原稿の事前確認をするステップはありますか?
ありません。取材でお聞きしたことを元に記事を書かせていただいています。
■寄稿、年末年始のネタ枯れ
Q:寄稿の提案はしても大丈夫でしょうか?
歓迎です。媒体のテーマに合うものであれば、広くご提案をお待ちしています。必ずしもDXに関係がないとダメという訳ではなく、ビジネスリーダーの課題解決につながって多くの方に役立つ内容であれば当てはまると思います。
Q:ありがとうございました。最後に、そろそろ年末が近づいてきましたが、“年末年始のネタ枯れ”についてはいかがでしょうか?
ネタ枯れはありますね(汗)。まずプレスリリースが全体的に減って、速報的に出せるストレートニュースが少なくなります。そのための対策として、毎年年末の1ヵ月くらい前から時期を問わずに出せる記事を用意してなるべく年末年始のPVや新規会員獲得数が減らないように準備しています。
例えばこの時期に、時期を問わずに掲載できる「調査リリース」などをいただけると重宝したりしますね。
ありがとうございました!
(本記事は24年11月時点の情報です)
過去のメディア解剖連載はこちら
(取材・ライティング:リープフロッグ 代表 松田純子)
B2B企業向けに、伴走型・人材育成型による広報部門の立ち上げ支援コンサルティングを行うリープフロッグ代表。「広報の目的=企業成長」と捉え、新人、ひとり広報でも最速で効率よく広報部門を立ち上げ、企業成長に資する広報活動が行えるよう支援。各種メディアでの執筆、登壇多数。著書「小さな会社の広報大戦略」(2024年 日経BP・日本経済新聞出版)趣味は少年隊の推し活
BtoB企業のPR支援、リープフロッグのサービス資料&お問い合わせ先
\宣伝/
リープフロッグ松田と高橋ちさ二人によるコンサル付き、実践&伴走型「プレスリリースの書き方講座」参加者募集中!
(次回は25年1月末スタート予定です。※先着4名まで)