マガジンのカバー画像

自作小説集

109
長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
運営しているクリエイター

#うたすと2

いとしきスマホ・Darkness【うたすと2】

※これは、昨日公開した『いとしきスマホ』を初期の構想にのっとって書ききったものです。本編『いとしきスマホ』とは全く違う展開ですので、ご了承ください。 「…この『ナル』って人の小説、ビミョー…」 君は僕をベッドに放り投げて、ため息をついた。 たしかに下の中くらいの出来だったけど、だからといって僕にあたらないでほしいな。 僕の身体が震えた。君は僕を操作し、にっこりと笑った。 「潮先輩……」 嬉しさのあまりなのか、君はまた僕を放り投げた。 微笑んだまま眠りに落ちた君に、僕は何か

いとしきスマホ【うたすと2】

「…この『ナル』って人の小説、ビミョー…」 君は僕をベッドに放り投げて、ため息をついた。 たしかに下の中くらいの出来だったけど、だからといって僕にあたらないでほしいな。 僕の身体が震えた。君は僕を操作し、にっこりと笑った。 「潮先輩……」 嬉しさのあまりなのか、君はまた僕を放り投げた。 微笑んだまま眠りに落ちた君に、僕は何かしてあげたくなった。 少しの間考えて、僕は君のお気に入りを奏でることにした。 ♪彼ピ・ピ・ピ ゾンビ・ビ・ビ 君は飛び起きて、僕の演奏を止めた。 「びっ

収束【うたすと2】

カーラジオから「彼ピ・ピ・ピ」とお洒落な歌が聴こえている。 あれから、あまりに色んな出来事が起きた。 『風雷の歌』から復活したダグラス・F・フォックスは、かつてインプレゾンビのために編成された特殊部隊によって捕縛され、消滅した。 彼は、有毒ガス鎮圧のために水没した町から地球を再構築するつもりだった。彼の力で生み出した『惑星開発キット』を使って。 水没した町に『いた』一人の女性と共に、ダグラスは創造神になることを試みた。アダムとイブのように。 だが、その試みは『スズランの

VBR【うたすと2】

図書ブースに並んだ、数多の本。 どれを今日の相棒にしようか。先ほどから悩んでいた。 視界の片隅にあった一冊の本『風雷の歌』。ぱらぱらとページをめくってみる。今日は、ここに行ってみることにした。 VBR装置に『風雷の歌』をセットする。 VBR(Virtual Books Reality)。本の内容を装置に読み込ませることで、その世界をリアルに体験できる、最新鋭の『読書』だ。音声で読み上げるだけではなく、VBRの中に、その本の世界が構築されるのだ。 作動音がする。0と1の羅列

スズランに帰る夢【うたすと2】

雨粒がきらめいている。月はその姿を隠し、泣いているような星々が、夜道に反射している。 私は、群集とは反対方向に向かって歩いていた。途中で声をかけてくる人や、肩を掴んでくる人もいたが、私の目を見て、あきらめたように去っていった。 悲鳴交じりの声が聞こえてくる。怒号、泣き声。地獄とはこんなに美しいものだったのだろうか。 人々が去っていくと、静かな雨音だけが私の耳に触れるようになった。 廃遊園地のメリーゴーランドに、『危険』の看板。『ふるさとを返せ』という落書き。 私は帰るわ、あ

SaturdayNightSpecial【うたすと2】

「今日も出やがったな、ゾンビども!」 俺は銃を構えた。相棒のサタデーナイトスペシャル。ソリッドフレームのリボルバーは再装填に馬鹿みたいな時間がかかるが、こいつら相手なら問題はない。威力は充分さ。 SNS全盛の時代が終わって、SNSに溢れていた『インプレゾンビ』は、化け物になった。ありもしないインプレッションを求めて夜を彷徨う、真のゾンビに。 俺たちは今日、インプレゾンビの親玉『A5のメンズ』の討伐を命じられた。誰がそんなことを命じたのかって?さあ、俺は興味ないね。 「私は

To You【うたすと2】

「新作の作画を別の人間に任せたい」と河田くんが言ったのは、秋とは呼べないくらい暑い日のことだった。 空には綿あめのような積乱雲が浮かび、蝉が弱々しく鳴いていた。明日にはきっと死ぬんだろうな。私はそんなことを考えていた。 「…『Simply』名義での活動は、辞めるの?」 「違う。明里とはまた描きたいと思ってる。これは…挑戦なんだ」 「…そっか」 ぬるくなったコーヒーを飲み干して、私は外に出た。 『Simply』というコンビで漫画を描いて、10年になる。二度の打ち切りを乗り越え

これから、ここに【うたすと2】

一限は出席しないつもりで、僕は図書館に来た。 近隣の大学で最も蔵書の量が多いとされるここには、ひとつだけ不思議な噂がある。 『真っ白な本を開いたとき、最大の選択を迫られる』 今日僕は、その本を探しに来た。 民俗学の棚を一通り見たあたりで、甘い匂いのする冷たい風が頬に触れるのを感じた。 その風を辿っていくと、どうやら社会心理学の棚から吹いてきたようだ。正面に立ったとき、気配のようなものを感じた。本棚の一番下、その本はあった。 真っ白い表紙、まるで新品のようなその本。これが、噂

せめて思い出の、青【うたすと2】

その遊園地が閉園して、半年が過ぎた。 自分でもどうしてこんなことを思いついたのか、わからない。私は大きな黒いリュックを背負って、遊園地に忍び込んだ。 星の光できらめく夜道に、ふたりでいた頃の思い出を重ねた。 誰もいない夜。私は世界に取り残されているみたいだ。ふたりでいたあの日々だけが、私が生きていた時間だとわかっている。 柵を乗り越え、メリーゴーランドに辿り着いた。星明かりに照らされた白馬に腰掛ける。小糠雨が風に運ばれ、私を冷やしていく。隣で手を繋いでくれた君は、今はもう

構文病【うたすと2】

SNS上で生み出された『インプレゾンビ』。 広告収益を得るために理解不能な行動を繰り返した人間たちはいつしか、とある奇病に悩まされることになった。 『インプレ構文病』である。 現実での言動も、あの独特の言い回しになってしまう。軽症ならばそれだけの病気だが、それにより社会的地位を追われる人間も、死に至る人間もいた。 葉留花がそれに気付いたのは、月の綺麗な夜だった。 彼氏が、いかにも『港区女子』という女と歩いていた。それを追いかけた葉留花が問いただすと、 「それは私に幸福を得ま

惑星開発【うたすと2】

真っ白い部屋の中で、僕は君と向き合っていた。 「やあ。」 二人の声が重なり、響く。二人の間にあるテーブルの上で、ビッグバンが起きた。瞬く間に時は過ぎ、そこに小さな惑星が生まれた。 君は僕にキスをした。唇が、ひどく冷たい。僕はそれを振り払い、君を睨んだ。 「…また、繰り返すのか?」 「『また、繰り返すのか?』」 テーブルの上で、人が生まれ、争い、死んでいく。 僕らのことを『アダムとイブ』と呼んだ人間がいた。『伊奘諾尊と伊奘冉尊』と呼ばれたこともある。『ウラノスとガイア』、『ユ