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せめて思い出の、青【うたすと2】
その遊園地が閉園して、半年が過ぎた。
自分でもどうしてこんなことを思いついたのか、わからない。私は大きな黒いリュックを背負って、遊園地に忍び込んだ。
星の光できらめく夜道に、ふたりでいた頃の思い出を重ねた。
誰もいない夜。私は世界に取り残されているみたいだ。ふたりでいたあの日々だけが、私が生きていた時間だとわかっている。
柵を乗り越え、メリーゴーランドに辿り着いた。星明かりに照らされた白馬に腰掛ける。小糠雨が風に運ばれ、私を冷やしていく。隣で手を繋いでくれた君は、今はもういない。
アマリリスの香りだ、と君が笑った香水を、今日は身に纏ってきた。今日でお別れだ、そう伝えるために。
夜が深くなる。
私はリュックから、たくさんのスズランを取り出した。
君に手渡すことはできないから。君は私を見つけられないから。
だから、せめて思い出の場所に、花束を。
あの歌を口ずさむ。
青く染めた毛先が、しっとりと濡れていた。
スズランを白馬の足元に置いた。どうか、君が私よりも幸せであるように。
「京子?」
懐かしい声に、私は振り返った。
伝えたい言葉も、思いも、もうこの花束に託した。
だから、私は微笑んだ。それだけで、良かった。
忘れてもいい、君が悲しいなら。
だけど、どうか、どうか。
もう一度、あなたが幸せでありますように。
君が私を抱きしめた。
また見つけてくれて、本当にありがとう。
私は、花になった。
抱きしめたはずの彼女は、たくさんのスズランとアマリリスになって消えた。
また会えるなんて思っていなかった。
君がこの星空にまぎれて、今日で一年になる。
僕はたくさんの花を、君が残した思いを、抱きしめた。
白馬のたてがみを、やっと顔を出した月が、青く照らしている。
了(706字)
#うたすと2
こちらに参加させていただきます。
あとがき
『京子』は元日向坂46・齊藤京子さんからお借りしました。
きょんこ。永遠に最強なんだよ、きょんこは。アイドルという言葉はきょんこのためにあったんだ。これから更に活躍するあなたを、みんなずっと応援している。もちろん、僕もずっと応援しています。
この作品は、こちらの曲を元にしています。
フライングばかりで申し訳ない…。
最近ポップな作品メインで書いていたので、ちょっとばかり苦労した。曲の持つ切なげで美しい空気感を、果たしてこの小説は表現できているのだろうか…。
残された者が去った者を思うように、去った者もまた残した者を思うはずだと、僕は思っている。せめてフィクションの中では、その思いが届いてほしい。そういう作品を書いていけたらいい。
…普段の作風の割にかっこいいことを言ってしまい、気恥ずかしくなったのでこの記事を終える。
ちなみに以下記事で、うたすと2について紹介している。
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