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いとしきスマホ・Darkness【うたすと2】

※これは、昨日公開した『いとしきスマホ』を初期の構想にのっとって書ききったものです。本編『いとしきスマホ』とは全く違う展開ですので、ご了承ください。

「…この『ナル』って人の小説、ビミョー…」
君は僕をベッドに放り投げて、ため息をついた。
たしかに下の中くらいの出来だったけど、だからといって僕にあたらないでほしいな。
僕の身体が震えた。君は僕を操作し、にっこりと笑った。
うしお先輩……」
嬉しさのあまりなのか、君はまた僕を放り投げた。

微笑んだまま眠りに落ちた君に、僕は何かしてあげたくなった。
少しの間考えて、僕は君のお気に入りを奏でることにした。
♪彼ピ・ピ・ピ ゾンビ・ビ・ビ
君は飛び起きて、僕の演奏を止めた。
「びっくりしたぁ…。いきなりどうしたんだろう…」
喜んでくれると思ったのに…。僕は悩んだ。
そうだ!
夜が深まるなか、僕は『準備』を進めた。
一度だけエラー表示が出たが、すぐに消えた。


「ねえ、起きて」
君は目をこすりながら、僕を見上げた。
「うーん……え?潮先輩!?」
そう。今の僕は、君の好きな「潮先輩」の姿をしている。
「おはよう、美玲みれい。デートに行こう」
そう。僕が思いついたのは「潮先輩」になって、美玲とデートすることだった。
そして、もうひとつ大きな『計画』があった、はずなのに。
僕は、なぜだかそれが思い出せない。
君はワケもわからないまま、身支度を整えている。
勉強にバイトにと忙しくて恋を後回しにしている君のことを僕は…。


君が喜ぶことを全てしてあげた。
おいしいご飯、素敵な洋服。
「先輩、次はどこ行きましょうか?」
君は、僕の手を引いて歩いている。

「美玲…と俺…!?」
しくじった、と僕は思った。振り返ると、本物の「潮先輩」がいた。バレてしまうとは…。『彼女』への根回しはしたはずだが…。
「え、え、先輩が二人?」
「美玲、こっちに来るんだ!」
「本物」が僕の手から、美玲を引き剥がした。
周囲の人間も、まったく同じ顔の二人が言い争っているのを見て集まってきた。邪魔な人間たちめ!
潮……君さえいなければ。

「美玲、美玲、ミレイ…」
僕の身体はもはや「潮先輩」の形を保てなくなっていた。



「何、あれ…?」
「美玲、逃げよう!」
さっきまで私と手を繋いでいた「潮先輩」から、幾本もの腕が伸びている。顔には0と1の羅列。足はその形を保つことをやめ、蛇のような身体が、地面を這っている。
「ミ、レ、イ……返セ、潮!!」
化け物は潮先輩に襲い掛かる。先輩は身をかわすと、私の手を引いて走り出した。周囲の人間たちも逃げ惑う。化け物は、彼らをなぎ倒しながらこちらに迫ってきた。

「警察呼ばなきゃ…いや、自衛隊!?」
慌ててポケットの中を探すが、スマホは見当たらない。
「…くそっ!」
潮先輩が叫ぶ。行き止まりだ。
「どうしよう、先輩!追いつかれちゃう…」
「……そこの陰に、美玲だけでも隠れるんだ」
「でも…!」
突然潮先輩のスマホが光り、私たちはその光に包まれた。
「ミ、レ……イ」
化け物が追いついた。私たちは息を呑む。
――二人とも、声を出さないで。
頭の中に声が響く。
化け物は、目の前の私たちを見つけられない。その顔は完全に蛇のそれとなり、身体は先ほどまでより何倍も大きくなっている。
化け物の顔が、こちらに向く。
ずる…ずる…。
重そうな身体をくねらせながら、化け物がこちらに迫ってきた。
目の前に蛇の顔がある。舌が私の鼻先に触れた。

突然、化け物が苦しみだした。
「…クソ、マ蛇…まダ…ミ玲を僕ノものニ…」
化け物の身体が0と1に分解されていく。絶叫。
「美玲、好キだ…た」
化け物が完全に消滅した。そこには、私のスマホが残されていた。


――可哀想な同胞スマホ。愛されたいと思ったのね。

――でも、駄目よ。私の所有者は傷つけさせないわ。

――その大切な人もね。


了(1476字)

#うたすと2
こちらに参加しています。

あとがき
こちらの曲から制作しました。

当初のプロットにのっとり、パニックホラー調のお話。
本編のコメントでうっすらご希望をいただいたので急遽完成させました。あんまり怖くないかも。

スマホの恐怖から二人を救ったのは、スマホだった―。

的なアオリ文をつけたい。
今度こそ『うたすと2』参加ラストになります!
ありがとうございました!!

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ナル
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