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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#ボケ学会

【SS】かぐや姫【ボケ学会】

その翁が斧を振るう速さは、まさしく鬼のそれであった。凄まじい形相は般若の如く、竹ではなく世界を両断しかねないほどであった。 岩かと見紛うほどの腕の筋肉をしならせ、翁は次の竹を両断した。 鮮血が吹き上がる。だがそれは錯覚であった。あまりにも強すぎる翁の力が、竹さえも震え上がらせたのだ。 「危ねえ…」 どこかから幼子の声がする。断面を見ると、小さな小さな女子が、にやにやと笑いながらこちらを窺っている。 「やるねぇ、爺さん。昔は相当に人を斬ったと見える」 「…童。貴様何者だ

【SS】僕らの解決策【ボケ学会】

「娘には蛇蝎の如く嫌われていてね…」 部長はそう言って、バーの外を見た。お酒を飲んでもいい年齢なのか一見しただけでは判別できない女性たちが、客引きをしている。たしかもう客引きって駄目なんじゃなかったっけ、いいんだっけ。話半分の僕をよそに部長は話を続ける。 「蛇みたいって言ったのがよくなかったみたいで」 「蛇?」 急な展開で、僕の意識は部長の話に戻る。蛇みたいな娘。メデューサか、エキドナというんだったか。 「ああ。娘の推しの男性アイドルを『蛇みたいだ』って言ってしまっ

【SS】Money【#ボケ学会】

「プレゼントは現金がいい」と娘に言われたのがショックだと男は言った。 バーの店内。居合わせた数人の男たちで、他愛もない話をしていた。外は霙交じりの雨模様。もうすぐ、本格的な冬が来るのだろう。 「昔は『一緒に買いに行こう』って言ってたんだけどなあ…。これも成長ですかね」 そうですよ。安心していい。皆それぞれに相槌を打った。僕の隣の男がため息をついて言う。 「うちの息子なんて『暗号資産を買ってくれ』って言うんですよ」 おお、今時だ。感嘆の声が上がった。 「私はそういうの

【SS】違法クローン【ボケ学会】

かつて都市伝説として有名になった『ドッペルゲンガー』をご存知だろうか。自分そっくりの人間に出会うと死んでしまうという話。 22世紀中盤になって、人間のクローン作成は珍しいことではなくなった。自分の記憶を引き継がせる者、単に労働力として採用する者…さまざまな用途にクローンは使われた。 大手のクローン制作会社”CH”が違法クローンを作成していたとわかったのは、そんな時代の最中である。 「うわあ…見たくない」 警察からの連絡を受けて、僕は工事現場の映像を見ていた。僕のクローンは