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【SS】Money【#ボケ学会】

「プレゼントは現金がいい」と娘に言われたのがショックだと男は言った。
バーの店内。居合わせた数人の男たちで、他愛もない話をしていた。外は霙交じりの雨模様。もうすぐ、本格的な冬が来るのだろう。

「昔は『一緒に買いに行こう』って言ってたんだけどなあ…。これも成長ですかね」

そうですよ。安心していい。皆それぞれに相槌を打った。僕の隣の男がため息をついて言う。

「うちの息子なんて『暗号資産を買ってくれ』って言うんですよ」

おお、今時だ。感嘆の声が上がった。

「私はそういうのに疎くて。大丈夫なのか心配になってしまいますよ」

「僕の彼女は『電子マネーを買ってくれ』って」

奥のテーブルの男が言う。他のみんなは少しだけ不思議に思いながら、彼の話を聞いていた。

「電子マネー、ですか。それなら現金でいいのでは…」

「遠くにいるんです。まだ会ったことはなくて」

彼は照れたように笑う。他のみんなは顔を見合わせる。

「…それでも、彼女?」

「はい。ブラジル人なんですけど」

そういって写真を見せた。派手なメイクをした外国人の女性。
全員が目配せをし、警察に行くように説得し始めた。

「それは詐欺だ!」

「今すぐ警察に行こう!」

だが、説得も虚しく、男は激怒し始めた。

「僕たちは愛し合っているのに!詐欺だなんてあんまりだ!」

男はそのまま店を出て行ってしまった。


しばらくして、国際ロマンス詐欺の容疑者が一斉検挙されたとニュースが報じた。
同じバー、同じ面子で僕らはそのニュースを見ていた。

「…このニュースが、彼にとっては一番のプレゼントでしょうか」

僕が言うと、マスターは

「プレゼントって言っても、いいものとは限らないからな」

と言った。皆でため息をついた。寒い、寒い冬だ。
そのとき、店の扉が開いた。

そこには先日の男が、写真通りの女性を連れて立っていた。

「…こういうパターンもあるんだ」

僕は呟いた。少しだけ、心が温まったような気がした。

そのブラジル人女性がここには書けないほどの犯罪者だとわかるのは、それから3ヶ月が経った春の日のことである。

了(841字)


#ボケ学会
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あとがき

その女性は犯罪シンジケートのボスで(以下略)


…この先は、全部ご想像にお任せします。

基本的に対面じゃないと恋愛感情が起きない。というか、もはや対面でも起きない。推しへの愛が強すぎて恋が出来そうにない。
…とか言いつつ、内緒の話があるのだけど。そこもご想像にお任せします、はい。

人生最大のプレゼント…
いいものも悪いものも、たくさん貰ってきた。
思えば、病気も一種の贈り物だろうか。
病気にならなければ巡り会わなかった人やものが、たくさんある。
きっと、ここにも辿り着かなかっただろう。
そう思えば、僕はプレゼントに恵まれた。
楽観的かもしれないが。

今度は僕の言葉が、誰かにとってのプレゼントになってくれたら。
趣味作家(初めて名乗った)としてこれほど嬉しいことはない。
皆様、見つけてくれてありがとう。

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ナル
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