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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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#コメディ

書庫冷凍【毎週ショートショートnote】

1000年に一度の大寒波で、大学の書庫が凍ったらしい。 人的被害が出るほどでもなかったのに、どうして凍ったのか。大学は総力を挙げて調べることを宣言した。 「どう思うよ?」 学食でカレーを食べながら、森田に尋ねた。 「…どうなんだろうな」 そう言って視線を逸らす。おかしい。 「…俺は超常現象とか、UMAのせいだと思ってんだけどさ。森田は、どう思う?」 「…宇宙人だと思うよ、多分」 森田の額には、うっすらと汗が浮かんでいる。やっぱりおかしい。 「森田…何か知ってる

【SS】かぐや姫【ボケ学会】

その翁が斧を振るう速さは、まさしく鬼のそれであった。凄まじい形相は般若の如く、竹ではなく世界を両断しかねないほどであった。 岩かと見紛うほどの腕の筋肉をしならせ、翁は次の竹を両断した。 鮮血が吹き上がる。だがそれは錯覚であった。あまりにも強すぎる翁の力が、竹さえも震え上がらせたのだ。 「危ねえ…」 どこかから幼子の声がする。断面を見ると、小さな小さな女子が、にやにやと笑いながらこちらを窺っている。 「やるねぇ、爺さん。昔は相当に人を斬ったと見える」 「…童。貴様何者だ

【SS】18

西日が差し込んでいる。 俺は一世一代の買い物をするために、スマホを見つめていた。『18歳以上ですか』の確認を終え、俺はめくるめく夢の世界へと足を踏み入れた。 「へえ、こんな…うわ、すげえな」 思わず声が出てしまう。今は恐ろしい時代だ。スマホひとつあれば、こんなにも簡単に世界に触れられる。 「…これだ。これがいい」 俺はその『商品』を選んだ。購入手続きを終え、あとは待つだけ。 後日、俺のもとにそれが届いた。高揚感が収まらない。俺は包装をばりばりと破き、商品を開いた。

【SS】僕らの解決策【ボケ学会】

「娘には蛇蝎の如く嫌われていてね…」 部長はそう言って、バーの外を見た。お酒を飲んでもいい年齢なのか一見しただけでは判別できない女性たちが、客引きをしている。たしかもう客引きって駄目なんじゃなかったっけ、いいんだっけ。話半分の僕をよそに部長は話を続ける。 「蛇みたいって言ったのがよくなかったみたいで」 「蛇?」 急な展開で、僕の意識は部長の話に戻る。蛇みたいな娘。メデューサか、エキドナというんだったか。 「ああ。娘の推しの男性アイドルを『蛇みたいだ』って言ってしまっ

【SS】マイフレンド

「わたし、かわいい?」 深夜、コンビニでおでんを買った帰り道。ついにその時が来た。私が振り返ると、真っ赤なコートを着た女が立っていた。顔を包み込むほど大きなマスクをしている。間違いない、彼女だ。 「…ええ、とっても」 そう答えると女はマスクを取って 「これでも?」 と叫び、懐から取り出した包丁を振り上げた。その瞬間、私は写真を見せながら頭を下げた。 「あの!口裂け女さんですよね?…二ヶ月前、この男を刺してくれてありがとうございました!!」 「…へ?」 口裂け女

誤字審査【毎週ショートショートnote】

昨今の教員不足を受け、国は『採用特別枠』を設置した。これは、その五次審査のお話である。 「大園さん。この小論文、どういう風に審査するんですか」 「ん、誤字のないものはみんな落選で」 担当職員たちは、文部科学省から来た大園の発言にどよめいた。そのうちの一人が手を挙げ問う。 「…誤字の有無だけで判断するんですか?内容は」 「誤字のあるものの中から、できるかぎり倫理観に欠けているものを選んで採用する」 「どういうことですか。教員としてあるまじき人間が選ばれてしまいます」

ユニーク輪唱【毎週ショートショートnote】

すっかり雪の溶けた山道を、私たち二人は歩いた。口数も友達も少ない君の唯一の趣味が、登山だった。 「歌でも歌おうか」 君が珍しい提案をしたので、私は驚きながらも曲を提案した。 「『森のくまさん』でも輪唱しようか」 「登山中に一番会いたくないよ」 「んー、『静かな湖畔』は?」 「カッコウ嫌いなんだよね。托卵だっけ。ひどいよ、あれ」 「えー。じゃあ、『かえるの合唱』」 「両生類無理」 私たちの間を沈黙が流れていく。どうしてここまでひねくれているのか。『森のくまさん

【SS】T-REXの前足

「いつも一言多いって言われるんだよな」 「まあ実際多いもんね」 僕の嘆きに、君はさも当たり前かのような返事をする。テレビでは年始の大型特番。大嫌いな大物タレントが騒いでいる。 おせちに飽きた僕たちの夕食は、冬季限定のカップラーメン。それを啜りながら君は言う。 「実際さ、蛇足ばかりだし。あなたと暮らせてる私ってすごいと思うよ。よく耐えてる」 「自画自賛だね」 「当たり前だよ。あなたは褒めてくれないんだから」 少し物足りなくて、僕は立ち上がって冷蔵庫に向かう。中を覗き

【SS】転換点

「発想の転換をしようじゃないか」 目の前にいる少年は叫んだ。左脇に数冊の本を抱え、こちらを睨んでいる。その目はやや血走り、涙に濡れていた。 「…この知識は必要なものだ。人間として正しい知識なんだ。なあ、そうだろう?僕がこの知識を得ることは、世界にとっても有益な出来事のはずだ!」 彼は聴衆に向かって叫ぶ。聴衆は冷ややかな目で彼を見つめている。同意を得られないとわかるや否や、彼は地団駄を踏んだ。 「くそぅ、どいつもこいつも。どうして、この本の素晴らしさがわからないんだ!」

決闘年越しそば【毎週ショートショートnote】

発端は一人のタレントだった。 「年越しはね、そばじゃない。ラーメンですよ!」 そば屋店主・区界庄吉はこの発言に激昂した。生まれてこの方、年越しはそばと決まっている。それを法律で定めぬ国のせいで、こんな人間が育ったのだ。 区界はそのタレント――高松俊が所属する芸能事務所に、果たし状を送った。 「大晦日、除夜の鐘が鳴る頃。盛岡駅にてそばを用意して待つ」 高松はこの果たし状を冗談としてSNSで公開した。瞬く間に拡散され、当日の盛岡駅には人が殺到した。 駅前の広場に、二人

デンジャー縞ほっけ部【毎週ショートショートnote】

縞ほっけが人を襲った記録は、2025年を皮切りに多く残されている。 最初の犠牲者が出たアラスカでは『デンジャー縞ほっけ部』ことDAMCが発足され、人類と縞ほっけの闘争が始まることになる。 人類は縞ほっけを喰らった。居酒屋で、家庭で、あるいは定食屋で。 縞ほっけもまた人を喰らった。 その争いは長く続き、『海洋100年戦争』と呼ばれることになる。 「…何、この話?」 「居酒屋で酔い潰れてたおっさんが寝言で言ってたんだ。『人類と縞ほっけの闘争』って」 「…で、それを新作に

釜揚げ師走【毎週ショートショートnote】

閉店間際のスーパーの売り場で、釜揚げ師走を見つけた。 「やっと…あったー!」 私は釜揚げ師走を天に掲げた。これで私たち家族は年を越せる。 2024年を境に、12月が来なくなった。 学者たちが調べたところ、時空の歪みにより12月だけが結晶となってしまい、その結晶を摂取しなければ12月、果ては次の年を迎えられないことが判明した。 私たち家族はずっと2024年にいた。 何度も繰り返した11月も今日で終わりだ。 時空が歪んでいる割に、成長や老化は止まってくれなかった。 息子は

山岳フリマ【毎週ショートショートnote】

町内で開催されたフリマ。 「山のもの、売ります」という旗に惹かれ、僕はその露店の前で立ち止まった。山菜やキノコ、ジビエ。山の食材に関心があったのだ。 だがそこで売られていたのは、壊れかけたテントや使い古されたアイスアックスなど『山で使う』代物だった。強いて名を付けるなら『山岳フリマ』といったところか。山のものには違いないが…。 「お兄さん、こいつはどうだ?」 店主ががさごそと何かを取り出し、にやりと笑った。 それはマツタケだった。 「闇ルートから仕入れたんだ。トぶぜ、

【SS】服装指定【#シロクマ文芸部】

十二月っぽい服装で来て、と陽世さんは言った。 彼女と付き合って三年。デートの際には毎回服装の指定がある。『お洒落な服』とかありふれたものではなく、『陽気な芸術家のような』だとか、『爽やかな海外俳優のような』という斬新な指定が多い。そして、毎回と言っていいほど彼女はこう言うのだ。 「なんか違う」と。 今回の指定はいつもと違う。僕はそう感じていた。あまりにも『普通すぎる』のだ。 きっと、今こそ僕の腕の見せ所だ。 これまでとは違う、斬新な僕を見せてやる。 街行く人の視線が痛