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自作小説集

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長いものからショート作品まで、いろいろ書いてみます。怖い話って書いてても怖いよね。
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2025年1月の記事一覧

【SS】かぐや姫【ボケ学会】

その翁が斧を振るう速さは、まさしく鬼のそれであった。凄まじい形相は般若の如く、竹ではなく世界を両断しかねないほどであった。 岩かと見紛うほどの腕の筋肉をしならせ、翁は次の竹を両断した。 鮮血が吹き上がる。だがそれは錯覚であった。あまりにも強すぎる翁の力が、竹さえも震え上がらせたのだ。 「危ねえ…」 どこかから幼子の声がする。断面を見ると、小さな小さな女子が、にやにやと笑いながらこちらを窺っている。 「やるねぇ、爺さん。昔は相当に人を斬ったと見える」 「…童。貴様何者だ

【短編】あなたへ

気がつくと、薄暗い森の中にいた。辺りを見回すと、奥に大きな湖があることに気付いた。湖の中央には橋が架かっていて、その向こうには幾つものあたたかな明かりが灯っていた。 吸い寄せられるように、私は足を進めた。橋はぎしぎしと音を立てる。あの明かりまで、あと少し。そのとき、橋の上に小さなコインが落ちているのが目に入った。 しゃがみこみ、それを拾い上げる。見覚えのない名前が刻印されたそれを見て、何故だか私は急に悲しくなった。戻らなければいけない気がした。どこに戻るのかもわからないままに

【SS】本の虫

「本の虫」と男は呼ばれていた。 あまりにそう呼ばれすぎた彼は、次第に自身のことを虫だと認識するようになった。自分は仲間より大きい虫なのだと信じ始めた。 虫のように地を這い、草を喰らうようになった。 鳥を見ると異常に怯えるようになった。 皆はそんな男を見て、気が触れたのだと言った。本の世界に魂を奪われたのだと嗤った。 冬になり、男は家から出てこなくなった。 皆、彼は死んだのだと噂した。失踪したと言う者もいた。神が彼に興味を持って連れ去ったのだと言う者さえいた。 春になり、男

【短編】モノクロ

墓へと向かう上り坂の前で、僕は煙草を吸った。これが生涯で最期の煙草になるだろう。君は煙草が嫌いだった。 金髪の女性が僕の脇を走っていく。鮮やかな桃色の花のイヤリングが、真っ白なこの景色に不釣合いなほどに揺れている。僕は少しだけ見惚れていた。彼女は誰に会いに行くのだろうか。 煙草の火を消して、僕は坂を上り始めた。まだ急ぐほどではないが、時間は限られている。 墓所に着く前に、一度だけ後ろを振り返った。国連が発表したとおり、この世界はもうすぐ停止するのだろう。それをすんなりと受け

逢いたい菜【毎週ショートショートnote】

種苗店で「逢いたい菜」なるものを見つけた。 店員いわく、この菜花が花を咲かせるまで育てれば、一番望んだ再会ができるという。 「万が一枯れさせると…」 「絶縁する、とされていますね。まあ、あくまで迷信ですので」 僕はその迷信を信じ、購入した。 レンタルした畑の一角に「逢いたい菜」を植えた。追肥や害虫駆除。様々な世話をした。 こうまでして再会したいのは、かつての愛犬だ。 もう一度だけ、会いたかった。 その日は豪雨になった。僕はニュースの警告を無視し、畑へと向かった。逢いた

【SS】18

西日が差し込んでいる。 俺は一世一代の買い物をするために、スマホを見つめていた。『18歳以上ですか』の確認を終え、俺はめくるめく夢の世界へと足を踏み入れた。 「へえ、こんな…うわ、すげえな」 思わず声が出てしまう。今は恐ろしい時代だ。スマホひとつあれば、こんなにも簡単に世界に触れられる。 「…これだ。これがいい」 俺はその『商品』を選んだ。購入手続きを終え、あとは待つだけ。 後日、俺のもとにそれが届いた。高揚感が収まらない。俺は包装をばりばりと破き、商品を開いた。

【SS】僕らの解決策【ボケ学会】

「娘には蛇蝎の如く嫌われていてね…」 部長はそう言って、バーの外を見た。お酒を飲んでもいい年齢なのか一見しただけでは判別できない女性たちが、客引きをしている。たしかもう客引きって駄目なんじゃなかったっけ、いいんだっけ。話半分の僕をよそに部長は話を続ける。 「蛇みたいって言ったのがよくなかったみたいで」 「蛇?」 急な展開で、僕の意識は部長の話に戻る。蛇みたいな娘。メデューサか、エキドナというんだったか。 「ああ。娘の推しの男性アイドルを『蛇みたいだ』って言ってしまっ

【SS】マイフレンド

「わたし、かわいい?」 深夜、コンビニでおでんを買った帰り道。ついにその時が来た。私が振り返ると、真っ赤なコートを着た女が立っていた。顔を包み込むほど大きなマスクをしている。間違いない、彼女だ。 「…ええ、とっても」 そう答えると女はマスクを取って 「これでも?」 と叫び、懐から取り出した包丁を振り上げた。その瞬間、私は写真を見せながら頭を下げた。 「あの!口裂け女さんですよね?…二ヶ月前、この男を刺してくれてありがとうございました!!」 「…へ?」 口裂け女

誤字審査【毎週ショートショートnote】

昨今の教員不足を受け、国は『採用特別枠』を設置した。これは、その五次審査のお話である。 「大園さん。この小論文、どういう風に審査するんですか」 「ん、誤字のないものはみんな落選で」 担当職員たちは、文部科学省から来た大園の発言にどよめいた。そのうちの一人が手を挙げ問う。 「…誤字の有無だけで判断するんですか?内容は」 「誤字のあるものの中から、できるかぎり倫理観に欠けているものを選んで採用する」 「どういうことですか。教員としてあるまじき人間が選ばれてしまいます」

【SS】銀河鉄道

どうしようもないほど静かで、美しい夜だった。 僕はベッドから這い出した。思うように動かないはずの体が、重さを感じさせない。 玄関のドアを開け、冬の風を受けた。羽織ったカーディガンが風に揺れる。夜空を見上げた。いつものように銀河鉄道が翔けて行く。この星を旅立った友人たちは、元気でいるだろうか。 遠ざかる銀河鉄道に手を振った。僕はひとり、ここに残ることを決断したのだ。引き止める誰かがいたわけでもない。あの線路の向こうが嫌なわけでもない。ただ、ひとりでいたいと思った。 カーディガ

【SS】存在の不確実性と、

僕の家には、古い日本刀がある。 かつて北畠具教が所持していたとされる名刀だ。その美しさは、これまでの所有者を魅了し、死に追いやっていたという。 妻は気味悪がって、刀のある僕の部屋に入ろうとはしなかった。なぜこの美しさがわからないのだろうか。僕は刀身を見つめながら考えた。 白く輝く刀身に、今夜の綺麗な月が映っている。僕は紙で刀身を拭う。畳の上の赤黒い染みを踏みつけ、僕は台所へ向かう。 「茶を」 声に出してから気付いた。妻はもういないのだ。どこへ行ったのだったか。果たして最初

ユニーク輪唱【毎週ショートショートnote】

すっかり雪の溶けた山道を、私たち二人は歩いた。口数も友達も少ない君の唯一の趣味が、登山だった。 「歌でも歌おうか」 君が珍しい提案をしたので、私は驚きながらも曲を提案した。 「『森のくまさん』でも輪唱しようか」 「登山中に一番会いたくないよ」 「んー、『静かな湖畔』は?」 「カッコウ嫌いなんだよね。托卵だっけ。ひどいよ、あれ」 「えー。じゃあ、『かえるの合唱』」 「両生類無理」 私たちの間を沈黙が流れていく。どうしてここまでひねくれているのか。『森のくまさん

【SS】T-REXの前足

「いつも一言多いって言われるんだよな」 「まあ実際多いもんね」 僕の嘆きに、君はさも当たり前かのような返事をする。テレビでは年始の大型特番。大嫌いな大物タレントが騒いでいる。 おせちに飽きた僕たちの夕食は、冬季限定のカップラーメン。それを啜りながら君は言う。 「実際さ、蛇足ばかりだし。あなたと暮らせてる私ってすごいと思うよ。よく耐えてる」 「自画自賛だね」 「当たり前だよ。あなたは褒めてくれないんだから」 少し物足りなくて、僕は立ち上がって冷蔵庫に向かう。中を覗き

【短編】ハル

君の声に季節を添えるなら、それはきっと春だ。痛みも苦しみも密やかに遠くにやってしまうような、淡いそよ風。 毎年少しずつ咲くのが早くなる桜を見ながら、僕たちは歩いた。 僕らは、春がさよならの季節だと知っている。息をひとつ吸うたびに、歩みをひとつ進めるたびに、君が瞬きをひとつするたびに、君の心が離れていく瞬間は、少しずつ迫ってきている。 「卒業なんて、あっという間だったね」 君が見上げているのは桜だろうか。それとも、ぼんやりと浮かんだ月なのだろうか。君の見ている世界が、最後ま