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拝啓、本が売れません。

Fluctuat nec mergitur.

フランス・パリの街の紋章に刻まれている言葉だ。日本語では「たゆたえども沈まず」と訳される。強い風が吹いても揺れるだけで沈むことはない、という意味だ。もともとパリの船乗りたちが使った言葉だったそうだが、歴史を重ねるなかで戦乱や革命を生き抜いたパリ市民を象徴する言葉へと育っていった。

新進気鋭の作家・額賀澪さんが上梓した『拝啓、本が売れません』は、嵐の中にある出版業界で、作家として本を売るための解を探し求め取材を重ねたノンフィクションだ。

出版業界は、近年右肩下がりで市場規模が縮小している。1996年に2兆6563億円まで達したのをピークに、ここ20年で1兆円以上が消失した。市場の縮小は止まる気配がない。厳しい状況下で作家として出版業界へ船出したゆとり世代の著者は、果たして生き残ることができるのであろうか。作家として時代をサバイブする知識を集めるため、「本」に関する各分野のスペシャリストを訪ね歩く。

編集者、書店員、WEBコンサルタント、映像プロデューサー、ブックデザイナー。本に関わるさまざまな人へ、どうすれば本が売れるのか、売れる本を作るにはどうすればいいのかを問い続けた。

「売れなかったのだろうか。額賀澪の本はこの店の売上に貢献できなかったのだろうか」(本書、12P、L13)

毎年100人を超える作家がデビューし、5年後も第一線で書き続けられる人はほどんどいない。そんな現状を著者は嘆きつつも、作家からの視点を脱ぎ捨てて、本に関わるすべての人の視座を取り入れようと旅をする。「売れない」と嘆きながらも飄々とし、真面目で、純粋に本の力を信じる姿には、荒れ地のなか歩みを進める心強さを感じる。その後ろ姿は、決して「ゆとり」ではない。荒野へ独り立ち向かう、孤高の戦士のようだ。

出版関係者の他に誰が読むのかと、手に取ったときは不安になった。だが、一読してそうではないことがよくわかった。この本はひとつのメディアが苦境を迎えた中で、クリエイターとしてどう生き残るべきか、という課題への挑戦記なのだ。テレビだって、新聞だって、WEBだって、モバイルメディアだって、新しいメディアが誕生すればすぐに崖っぷちへ追い込まれてしまう。そのとき、彼らはどういう道を模索し、どういう思考で時代をとらえていたのか。「オールドメディアは関係ない」と切って捨てる前に、ぜひ手に取ってほしい。それは、未来の自分の姿かもしれないのだから。

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