![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/72413325/rectangle_large_type_2_0a9300541681640a62376538d4faf4d4.jpeg?width=1200)
『特攻大作戦』と心理的安全性
数年前からよく聞くようになったキーワードに「心理的安全性」がある。
心理的安全性は、Googleが4年間の研究で見出した生産性の高いチームが持つ特徴のことで、2015年に発表されている。
Googleのホームページから心理的安全性を引用すると、以下のようになる。
心理的安全性とは、対人関係においてリスクある行動を取ったときの結果に対する個人の認知の仕方、つまり、「無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だ」と信じられるかどうかを意味します。
心理的安全性は、簡潔に書けば何でも言い合えるチームであり、何でも言い合えるチームが生産性が高い、ということらしい。
心理的安全性は、もともとはハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱したもので、それが注目されたのが2015年と近年のことである。そのため、現在まだ研究途上にあり、しっかりと体系化されたものでもなく、事例が多くあるとも言えない。
2015年のGoogle発表以降、心理的安全性のあるチームを作ろうということは、筆者も行ってきたし、周りでも見てきた。その際、上手くいくチームもあれば、まあまあと感じるチームもあるし、失敗していると思うこともある。
それら、個人的に感じる心理的安全性のあるチームについて、書いていきたい。
『特攻大作戦』にみる心理的安全性
自身が経験した中で心理的安全性があるチームを考えた時、『特攻大作戦』(1967年)と共通項が多いことに気がつく。
『特攻大作戦』は、軍法会議にかけられ死刑や30年の禁固刑等が決まっているならず者12人を集め、ナチス高官が集う屋敷を急襲する戦争映画となる。ならず者たちを束ねるリーダーがライズマン少佐(リー・マーヴィン)である。
『特攻大作戦』が作られたのは1967年であり、心理的安全性が提唱されるよりかなり前の映画となるが、心理的安全性の特徴を多く感じるのは、このならず者達のチームである。
思想家のリーダー
心理的安全性があるチームにおいて、最も重要と感じるのはリーダーである。様々なリーダー像というのがあるが、心理的安全性があるチームにおけるリーダーは、思想家のような存在と感じる。
エネルギッシュにメンバーを引っ張っていくリーダーでもなければ、メンバーを支援・調整するサーバント型のリーダーでもない。
思想家リーダーは、チームが目指す目標の価値を固く信じている。その思いをメンバーに語る。ただし、リーダーはあくまで思想家であり、実務において、旗をふってチームを導くわけではない。チームが必要な技能や情報は伝えるが、実行や実行に伴う権限はチームに任せる。ただし、メンバーとは頻繁にコミュニケーションを取る。
そして、思想家リーダーは思想=目標達成のため、チームの中でなく外に対して行動する。会社に対して必要な制度や予算を取りに行く。メンバーが起こした対外的なトラブルが起きれば、率先して解決に向けて動く。
メンバーは、対外的トラブルという面倒なことを解決してくれるリーダーに信頼を寄せる。だから、メンバーはリーダーが語る思想=目標に向かって自主的に行動する。
『特攻大作戦』のライズマン少佐も、12人のならず者たちに訓練で技能・情報を授けていく。その後、最終演習時には、12人に権限を委譲し作戦立案も実施も12人の責任において行わせる。
そして、12人のならず者たちを余計物とみなす上官に対しては、ライズマン少佐が率先して戦う。
1on1ミーティング
『特攻大作戦』では最初、ライズマン少佐は12人全員を集めた後、一人一人と対話を行う。つまり、1on1ミーティングを行う。
この際、ライズマン少佐は、一人一人に説教するのではなく一人一人の話を聞く。なぜならず者になってしまったのか、彼ら一人一人の出自や価値観を傾聴していく。そうすることで、12人のならず者たちとライズマン少佐は開かれた関係になる。
心理的安全性を目指し、そして結果を出しているチームにおいては、1on1を実施しているケースは多い。そして、1on1においては、リーダーがメンバーを説教するのでなく、メンバーが喋る。そして、リーダーとメンバーの間に開かれた関係が築かれる。
高い目標
『特攻大作戦』で12人のならず者たちには、ナチスの屋敷を急襲するという非常に困難な目標が設定される
心理的安全性は、仲の良い馴れ合いのチームを指すのではない。皆が言い合えるチームである。しかもそれは、高い目標に向かった言い合いである。
言い合える雰囲気をもつチームは、具体的で高い目標が設定されている。人事評価されやすいような達成しやすい目標ではない。ごまかしがきく抽象的で曖昧な目標でもない。
高い目標があれば、自由な言い合いは、自ずと質の高い言い合いになる。「どうせ目標達成できるから」と、言い合いを曖昧に終わらすのでなく、言い合いをしなければ目標達成が困難だからである。
連帯責任
心理的安全性について書いた本の中には、「助け合い」や「認め合い」のある組織を作る必要性が書かれているものがあるが、何だか義務教育時の道徳の時間に出てきそうなキーワードで、具体的にどうすればよいかがはっきりしない。
心理的安全性を標榜するチームや組織を見たり経験した中で感じるのは、連帯責任を持っているかどうかが「助け合い」や「認め合い」につながっていくように感じる。
「一人の失敗はチームの失敗」というルールを設定する。誰かがミスしたら皆の責任である。具体的に評価項目にいれなくとも、それをチームのルール、もしくはスローガンとしてでも設ける。
そのような連帯責任は、自浄作用を生む。
仕事において、本当にたった一人のミスや間違いというのはほとんどない。最終的に一人のミスとなっても、それ以前に気が付かなかったメンバーがいる。気が付いていたのに指摘しなかったメンバーがいる。ミスを誘発した仕組みがある。ミスや間違いは、関連する人や仕組みが必ずある。そのため、連帯責任ルールというのは、無理矢理なルールではない。
『特攻大作戦』の中で、ライズマン少佐は、誰かひとりでも脱走したらチームは解散、つまり再度刑務所戻りというルールを設定する。これによって生まれるのは、連帯責任である。
ルールが設定された後、夜中、脱走を試みる者がいるが、他のメンバーがそれに気づいて説得、脱走を辞めさせる。脱走を辞めたメンバーは、後に作戦で重要な仕事を担っていくようになる。
このように、連帯責任のルールは一人一人の責任感を醸成する。それは自浄作用を生むことにつながり、結果、「助け合い」や「認め合い」につながっていく。
雑談の場
Googleの研究の中で、心理的安全性を高める要素として「雑談」の必要性があげられている。
『特攻大作戦』の12人のならず者たちは、訓練によって優秀な兵士として鍛えられていくが、よく雑談している。訓練中でも雑談している。
心理的安全性というのを考えた時、リーダーととに重要なのはこの雑談と感じる。他のチームでやっていて、なるほどと思って自身のチームでも行ったのが、強制的な雑談時間である。
1時間なり2時間なり、時間を設定して、仕事と関係のない議題でフリーディスカッションの時間を作る。ランチの時間を兼ねて行うのが自然であるが、ランチでもなくてよい。今はリモートなので、一同が介してとならないが、オンライン形式で同様の手法をとって行う。
フリーディスカッションのテーマは、何でもよい。「好きな映画」でもよいし「恋愛観」でもよいし「インドカレーと欧風カレーどっち派か」ということでもよい。メンバーから話したいテーマを集め、リーダーが決める。
雑談によって、業務上では知ることができないメンバーそれぞれの価値観を知ることになり、メンバー相互の理解が深まる。そして、雑談という弛緩した時間を共有することで、実務という緊張の時間においても質の高い雑談、そして、言い合えるチームが作られていく。
心理的安全性の勘違い
心理的安全性のある組織を作ろうとして、おかしなことになるパターンの一つが、
「他の人を否定しないこと」
のようなルールを作る場合がある。
人間なので、「この人の意見おかしい」とか「間違っている」といった否定的感情は生まれる。また、より憎悪の感情をもって「腹立つ」と思うこともある。
それらを否定するのは不自然である。不自然なことを強制しようとすると、ギクシャクしておかしなことになる。リーダーがメンバーに何かを指摘しても「否定しないってルールだったじゃないですか!」となる。
心理的安全性において必要なのは、「他の人を否定しない」でなく「他の人の意見を否定してもよい」というチームである。
『特攻大作戦』では、12人のならず者たちは仲間同士でもライズマン少佐に対しても、難癖つけたり反抗したりする。ライズマン少佐は、彼らの言い分も認め、時に意見を取り入れる。そうして作戦成功へ向けて訓練を続け、一致団結した強いチームを作り上げていく。
そして、困難な作戦は成功へと至っていく。