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envy

人は誰しも、自分だけの地獄を生きている。

わたしがそれを知ったのはまだ小学校低学年の時で、だからごく幼い頃から、極力人を羨まないようにして生きてきた。
「羨ましい」という言葉は一見すると無邪気な褒め言葉だが、静かに確実に、相手の呼吸を奪う力を持っている。
本人にとってどれだけ辛くどれだけ苦しい状況でも、外見しか知らない人に羨まれてしまえば、苦悩も不安も不満も、口にした途端、恵まれたものの贅沢な不平になってしまう。
「そんなことないよ」と弱々しく抵抗してみても、「またまたぁ」と笑って肩でも叩かれれば、あとはもうできることなど、曖昧な笑顔を浮かべるくらいしかない。
苦しみには、自分ひとりで向き合うしかないのだと諦めて。

そしてそれはそのまま、幼い頃のわたしの姿だった。

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