守るべき人
冬だったと思う。石油ストーブの青い炎を覚えているから、たぶん間違いない。
おかあさんには、かぞくはあなただけなのよ。おとうさんはしょせんたにんだから、あなたがいなかったら、おかあさんはひとりきりなのよ。
そういって泣きながら、わたしを抱きしめた。それが、わたしにとって一番最初の母親の記憶。
可哀想だと思った。泣かないでほしいと思った。守ってあげたいと思った。
早く大きくなって、お母さんを守れるくらいに強くならないと。早く大人にならないと。
それが、幼い頃の私をかたちづくる、たぶん一番大きな想いだった。
記憶の中の母親は、いつも泣いていた。怒りながら泣いていた。
両親に可愛がられなかった幼少期を思い返しては泣き。
あんたの実家であの時こんなひどいことを言われた、どうして助けてくれなかったんだ、と父に当たり散らしては泣き。
父が何かミスをする度に、なんであんたなんかと結婚してしまったんだ、と詰っては泣いていた。
よく泣く人だったし、よく怒る人だった。
だから幼い私も、毎日当たり前のように何某かの理由で怒られていた。
怒られないように、怒らせないように、精一杯気をつけているつもりでも、地雷を踏まないことは難しかった。
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主に親との関係について、人目にふれるところでは書きにくい踏み込んだ部分を書いています。暴力などネガティブな要素も含みますので、苦手な方の閲覧はお勧めしません。
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