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【短編】ブラック企業は、犬の方が出世する

ついつい相談したくなる、バリキャリ先輩。

そんな先輩のエピソード。
あなたの相談もぜひお待ちしていますね。

 *……*……*……*……*
 
 この業界で女性の営業は珍しく、営業メンバーの中でも3人しかいない。

 私、バリキャリ先輩、そして普通の先輩。
 
 その中でもバリキャリ先輩は、男顔負けの営業力をみせてくる。

 自頭がいいのか、人柄がいいのか。
 気が付けば、数千万円の商談を一人で決めてきたりしていた。
 
 男性陣からは、
「女だからだろう」「顔で売ってる」「気が強い女」と言われている。

体で売っていないのは、全員百も承知だ。そんな雰囲気も醸し出すバリキャリ先輩。
 
 毎週行われる、無意味な営業会議。

 いつも、営業統括部長のながったらしく中身のない怒号が、会議の2/3を占める。

 (今日の統括は機嫌が悪いらしい)

 40オーバーばかりの営業メンバーに
「全員立って俺の話を聞かないなんて、社会人として礼儀がない!」
 と、オンラインなのに立たされた。

 筋の通っていない話ばかりで、誰もが統括の話を理解していなかっただろう。

 右から左へ…

時間が過ぎることだけ考えていた。

 男尊女卑が激しい統括。
 男性営業には女性以上のパワハラを、女性営業には蔑みを。

そんな上司がバリキャリ先輩に目をつけた。

「なんだ、その顔は。俺の言うことを理解していない顔だな」

 営業会議の中で、必ず起こる「吊るし上げ」という行為なのだ。
 全員が、「俺(私)じゃなくて良かった」とほっとしている。

みんな、自分を守るだけで精一杯。
 
 ご愁傷様と心の中で思い、後で傷のなめ合いをするのが通例だ。

「・・・。そうですね。わかりませんでした」

「何を考えているんだー!使えねー奴だな!」というような、怒号を浴びせるわかりやすいやり方はしない。

 さすが、コンプライアンスを(少しは)理解しているパワハラ統括。

「そうかそうか。女にはわからないよな。じゃ、○○。説明してやれ」

 と、本社だから大口案件ばかりを任せられる、中身のない“一応”エースの営業マンにボールを投げた。

 エース営業マンは、話のそらし方に慣れている。さすが、上司の右腕に君臨するだけある社犬だ。

 上っ面だけなぞるような説明に、他の誰もが
「それは知っとるがな」という、きょとんな真面目顔をしていた。

 自分のところだけにはくるな、という祈りをこめて…。

「○○はさすがだな!バリくんでも、わかったかな?」

 みんなが、バリキャリ先輩の動向にかたずをのんだ。
(これ以上、話をややこしくしないでね。また一時間も突っ立ってるの嫌だから…)

 心の中では、そんな感じだろう。

「すみません○○さん。(そんなことは)わかりました。ありがとうございます」

 そう言って、深々と頭を下げた。
 後で、一緒の拠点のM営業マンに聞いたら、オンラインでは聞こえないように舌打ちをしていたらしい。
 その場で笑いをこらえるのに必死だったと言っていた。

 さすが、バリキャリ先輩は、空気を読むのもうまかった。
 確かに、わかりきったことだから嘘ではない。

 そう、バリキャリ先輩は自分の心に嘘をつくことが苦手なのだ。
 無意識に顔や行動に出てしまうんだな…。

 本人は、いたって真面目で小心者だと言っていた。
「自己肯定感も低くて、ムカつくことだって、嫌になることいっぱいあるよ」

 そんな先輩だから、なんだかみんな相談したくなってしまう。

 私の相談は、また別の機会に話すけど、こんなことを言われたの。
 
「黒99%に白の絵の具を垂らしても、黒なんだよ。でも、白99%に黒の絵の具を垂らしたら、白じゃなくなる。白に近いグレー。そんな感じ」

 楽しい話でもないけど、次をお楽しみに!

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