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<小説/不倫・婚外恋愛>嫌いになれたらは、愛を信じてる裏返し(4)STAGE1・出会い

 私が野本君とランチに行こうとしたら、やっぱりあの甘ったるい声…

「中村さんとランチですか?私も行くー」 
 
そうなるよね…。近藤ちゃんが1人でご飯食べているところは見たことがない。男性陣からもよく誘われていたし、同期にまじっていつも賑やかだ。

 私とは一度もランチに行ったことないのに。野本君へのお礼だけど、断る理由も見つからない。

「近藤さんごめん。中村さんへの感謝もこめて俺が誘ったから。今日は2人で」

 野本君が機転をきかせてくれた。かなり、ほっとしている自分がいる。

 私が断ったら、後でどんな噂をたてられるか…。
「中村さん、年甲斐もなく野本君狙い?キモっ」
「もう老化した女が痛々しい」
想像しただけでも、怖くなる。

「好きなところご馳走するよ」
 ステーキだって大丈夫だからねと野本君に言った。

 「実は予約してあるんです。この前パスタとか、エスニック料理も好きだって言ってたから」

 野本君の急なエスコート。女性扱いされていることに悪い気はしなかった。

 私が抱いていた男性像ではないものを野本君には感じる。これまでは、付き合っていても「君の好きなところでいいよ」「何でもいいから、任せるよ」と言う人ばかり。男性は、それを、女性が喜ぶとでも思っているのだろうか?と、冷めてしまう自分がいた。でも、そんなものだと決めつけて疑ってはいなかった。

 職場から10分の小さなカフェ。インテリアも小物も欧風調で可愛らしい。とても素敵で、テンションがあがる。でも、男性は入りづらいようなところ。野本君は、私と一緒で恥ずかしくないのかな?好きじゃないのに合わせてくれたのかな?そんな引け目も感じてしまった。

「どう?」
「すっごく好き!素敵だね!」
「良かった笑。何にしよっか」

 2人でメニューを開く。

「ジェノベーゼ美味しそう!明太子パスタもいいかも。迷うなあ」
「嫌じゃなければ、半分こする?」
「でも、野本君へのお礼なのに。野本君好きなの食べてよ。どれが良い?」
「じゃ、明太子パスタがいい。半分こして食べましょう!ね、そうしよう笑」

 ずっと話題は尽きなかった。お料理も美味しくて一気に元気になる。どこか、今までずっと一緒にこうしていたような、心が落ち着く雰囲気が心地よかった。

 自然とLINEを交換し合って、最後のアイスコーヒーを堪能し、お会計。伝票を取ろうとすると、野本君が伝票を持ってそのままレジでお金を払ってくれた。

 カフェを出て「私がお礼したいのに。これ」
と言って、2人分で余るくらいのお金を渡す。

「いらない。かっこつけさせてよ」
 そう言って、ちょっと不機嫌そうな顔をする。申し訳ないと思いつつも彼の好意を素直に受け取る。

「今日は本当にありがとう。凄く元気を貰ったよ。ご馳走様」
 今度は凄く嬉しそう。ころころとストレートな感情表現をする人だな。

「もっとゆっくりしたかった。仕事戻りたくないね。てか、野本君はあの量でちゃんとお腹いっぱいになったの?私の方がたくさん食べてたような…」

 帰り道も時間を気にして、足早になる。

「なりましたよ!美味しそうに食べる中村さんを見て、胸がいっぱいです。お酒も好きでしたよね?今度は、仕事終わりにどう?」

「うん!今度は私に出させてね。全然お礼になってないもの」

 職場に戻ると、近藤ちゃんが声をかけてきた。
「野本さんと何食べてきたんですか?今度は、私も一緒に連れて行ってくださいね」

 あの場所を知られたくなくて、咄嗟に嘘をつく。

「近くの中華屋さん。ラーメンと小籠包食べてきた」

 野本君が斜め前の席で、こっちを見ないまま頷いている。2人だけの秘密みたいで、なんだか嬉しかった。

 LINEを交換したけれど、たまの事務連絡程度。これまでの関係に差ははないけれど、程よい安心感があった。

◇ ◇ ◇

 約束していたディナーの日。みんなに見つからないように車で別々に移動する。私の方が早く待ち合わせ場所に到着。定時になっても、野本君がこなくてソワソワする。
 
 何か急用かな。それともただのからかい?楽しみにしていたのは私だけだったのかと、楽しい気持ちがマイナスに傾きはじめる。

 予定の時間から30分たって、やっと電話がなった。
「今向かってます!佐藤課長に捕まっちゃって。連絡できずに、本当すみません」

 野本君の電話に、取り越し苦労だったマイナス感情が吹き飛ぶ。

「焦らなくてもいいよ。危ないからゆっくりきて」
「いや、急ぎます笑。お腹ペコペコだもん」
「危ないから、一旦電話は切るね」
「大丈夫!スピーカーだからこのままがいい」

 いつもバカにされてる、私は大事にされてないって決めつけて一人で苦しくなっていた。

 「貴重な時間がもったいなかった。本当すみません。さ、行きましょう!」

 また、事前に落ち着いた小料理屋さんを予約してくれていてた。個室に案内される。

「素敵だね」
「うん。良かったネットに偽りなしで」
「いつもありがとう。私が予約しなくちゃなのに、行き当たりばったりでもなんとかなるかなって思っちゃって。気が利かなくてごめん」
「どこが好きかなーって探すの楽しいから、気を遣わなくて良いですよ」

 二人でまた好きな料理注文した。お腹が空いてる野本君は、最初からおにぎりと唐揚げを注文。思いっきり頬張っている姿がなんとも可愛い。

 代行で帰るつもりで、お酒もしっかり堪能する。野本君の女性関係のことや、私のこれまでを話したりもした。

 野本君はやっぱりモテてきたみたいで、「若い時は、二股三股してたな。結婚してからも、何度か会ったりしてたよ」なんて、自分の過去をオープンに話してくれた。別にその告白に対して嫌悪感はない。やはり、ここでも男性はそんなものだろうと思っていた。

 私も、浮気したことがある。でも、子供との時間を削っていることに罪悪感はあっても、夫に罪悪感は感じていなかった。体の関係だけではあったが、いつも行為の後は、とてつもない自己嫌悪に陥る。それでも、何故か関係が切れずに数カ月に一度、ズルズルと5年くらい体だけの関係が続いていた。

「野本君のエスコートは素敵だね。顔も良くて身長も高くて。結婚した時は、野本ロスになっちゃった子がいそう笑。奥様は幸せ者だね」

 自然に思ったままの言葉だった。楽しい雰囲気のまま、惚気話でもすると思っていたけど、野本君は怒り気味に答える。

「誰にでもしてると思われたのは心外だな」

 だって、私が特別なわけがない。

「こんなこと、一度もしたことないから。他と一緒とか思って欲しくない。中村さんが喜ぶ顔が嬉しいからしてるんだよ」

 それでも、絶対に私が特別なわけがない。だって、もう野本君には特別な人がいるんだから。

「奥さんにも同じことしていたんじゃないの?そういう風にお互い好き同志で結婚したんでしょ。私だからは、優しい嘘にしか聞こえない」

 私なんかを、心から愛してくれる男なんていないとどこか諦めのような思いがある。でも、心の底ではそういう愛に憧れて、強く望んでいる自分もいた。

 それでも、私は愛される特別な女なわけないじゃない。男は女性の体しか求めない人種。自分の都合が良いように私を扱い、都合が悪くなるとポイ捨するという思考を信じて疑っていなかった。

「3股をかけていた内の一人で金持ちの女。取引先の上司の娘で、押し流されたという感じでもある…。別れるつもりだったけど、できちゃった婚だった。金持ちだし、まあいっかと思ってさ。女はアクセサリーだって、俺言ったの覚えてる?TPOで取り換えるってことですよ。世間からみたら、着飾ってかわい子ぶっている女は、恋愛マニュアルを張り付けたようなのが透けて見える。俺の事、本気で好きなわけじゃないだろう?お前にとってもアクセサリーだろうって。女性はみんな、そういう人だと思ってた。だから、これまで何が好きかな?って思うこともなかった。今の自分はどうしちゃったんだろうと思うけど、どうにもならないくらい中村さんのことが気になってるんです」

 最低な男と思うかもしれないけど、それが俺です。と言って、まっすぐ私を見る。私は、そこまでの気持ちを告白されても、自分は特別なわけないとどこまでも信じて疑わない。その気持ちを素直に信じたら、捨てられて馬鹿を見るのが落ちだ。そうならないように、こっちが遊んでやればいいとさえ思っていた。たいした恋愛なんてしてこなかったくせに。この頃の自分は、どこまでも傲慢で限りなく臆病な私が、私の世界を作り出していた。

 野本君の言葉を正面から受け止められずに、自分で自分を蔑んだ言葉を意気揚々と話していた。

「今は、目新しいだけじゃないの?見たことないアクセサリーが居るなって。私は、そのアクセサリーの一つで良いよ。その位の方が気がラク。また、時々一緒に飲んだりできればいいかな。野本君と話すの楽しいし」

 それで、マウントを取ってるつもりになってる私。遊ぶつもりなら、こっちだって遊びでいい。男性の好意を、自分の思い込みの世界で捻じ曲げ、自分で自分を責める思考が働いていた。

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