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<小説/不倫・婚外恋愛>嫌いになれたらは、愛を信じてる裏返し(10)STAGE2・Test
次第に私は家に帰ることがとても嫌になっていった。母だけではなく嫁という務めも待っていた私。
直樹と付き合うようになってから、夫の事を『気持ち悪い』と感じるようになり、嫌悪感が増していく。同時に、ここにいる私が“恥ずかしい”と思うようになる。
そして直樹もまた、家庭に不満を持っていた。
直樹の奥さんは、親が会社経営をしている一人娘。直樹がそこに入社した後は、想像の通りだ。直樹は、次期社長が約束されている。でも、余りの息苦しさに、勉強のためと言って私の居る会社に入ってきたのだ。奥さんはTikTokもやってるらしく、直樹は隠す素振りはなく私にそのアカウントも教えてくれた。お金遣いも荒いらしく、しょっちゅうバックやアクセサリーを買ってきては、動画に上げるそうだ。直樹に黙って、奥さんが直樹と子供を勝手に動画に上げた時には相当怒ったと言っていた。
「ご飯もろくにつくらないし、いいねだのフォロワーだの、そんなんばっかり。子供や俺をネタにされるのもうんざりだ。祥子とは、息子が産まれてからセックスレスだよ」
私が「この人なら信じられる」と思った唯一の人。
私たちの方が深く愛し合っている。
一日でも長く二人の人生を歩きたい。直樹との子供が欲しい。お互いに子供がいるけど、みんな一緒に大きな新しい家族で暮らせたなら。
どんな茨の道でも私たちなら大丈夫。
私は直樹と一緒にいる未来を勝手に信じ切っていた。直樹もきっとそう思ってる。私たちが二人でいるのが一番の幸せだから……。
夫といる空間が気持ち悪くてたまらない。何も言わないから、何を考えているのかもわからない人だった。なんで、こんな人と結婚したんだろう。それに、どこかでバレても面倒なことになる。早めに別れた方が賢明だとも感じていた。
夫に愛されていたという実感は持ったことがない。直樹と付き合うようになってから強くそう感じている。そして、自分のお金は自分のものという人だ。付き合っている時から割り勘だったし、家族にも使わない。実際、給与明細も見たこともなく、生活費も貰えず、家のローンも私の給料から支払っている。足りない分は、夫口座の家族カードで支払うが、お前の管理が悪いだの、管理を俺にさせろだの、あげくに2万円で生活しろと言ってくる始末……。不倫がバレたら確実にあの手この手で大金を要求してくるのが目に見えている。
早くここから抜け出して、直樹と新しいスタートを切りたい。付き合ってから半年、直樹のことはいっさい伏せて夫に離婚を切り出した。
「離婚したい」
「いいよ」
どんな言い合いになるのかと、思っていたが余りにもあっけない。
付き合って五年、結婚して十五年。二十年一緒にいても、何を考えているのかわからず、何も話さない人だったが、こんな時まで何も聞いてこないなんて……。
「子供はどうするの?俺はどっちでもいいよ。どうせお前のところについていくだろうし」
一番は子供のことで揉めると思っていたが、父親とは思えないこの言葉にさらに幻滅と怒りがこみ上げる。子供は連れて行きたいと思っていたから、まあいい……。ここはプラスに考えて、話を進めた。
「子供は、もう十三歳と十一歳だから、ちゃんと納得してくれた上で私が二人共連れて行くつもり。姉妹を離したくないし」
離婚の話しは二秒で終わり、子供の話しも秒で終了。後は、ひたすらお金のことだけを気にする夫。
「今までどうも」と一言だけ……。もはや気持ち悪さしか感じない。
後日、「家族で契約しているクレジットカードを別々にしよう。これまでカードで支払いしてた分は精算するから払って」と、二ヶ月前まで遡り一円単位の明細書を渡された。
でも、やっと……やっとここから抜けられる。
これが一番の感情だった。夫のことは、一度も好きではなかったんだと思う。ただいるだけ……そういえば「不倫でもしてくれないかな。そうすれば波風がたって面白いのに。私もこの家から喜んで出ていける」って思っていたな。結婚をした初日は、まだ家が建ってなくて同居だったから「私を無くそう。私は感情を持ってはいけない」と思ったっけ……。そんなことをつらつらと思い出していた。
あっけない終わり方で、全く悔しくも悲しくもない。でも惨めさがこみ上げた。
ほどなく、子供にも離婚のことを告げた。
「別れないで」とも、「どうしたの?何があったの?」とも言わない。娘たちは怒りも泣きもしないでただ聞いていた。
私は「二人とも連れていきたいと思ってる。考えて欲しい」と子供たちに伝え、夫は「この女についていったら、家事だってやらされるぞ。そのうち食事も作らなくなる!こんな女についていったら大変だぞー。よく考えろー。パパは、どっちでもいいから」と、俺は何もしないし、何もやらないから、何も悪くないと、いつもの夫……。正論を言っているつもり?どんな思考でそんな言葉がでてくるのか、私には理解できない。
娘たちは、ここでも無言を貫いた。多感な時期に、辛い思いをさせてしまっているという懺悔の気持ちしかない。でも、もうここには居られない。死んでも居たくない。
直樹を知ってから、時間を無駄にしてきた自分、自分を無くしてここに居た自分に対して、猛烈な後悔と憤怒が押し寄せる。
どうしてわからなかったの?若い頃の私は何をしていたの?
私は、直樹にこれまでの自分の価値観を書き換えられた。もう、前の自分に戻ることはできない。進むしか道はないのだから。
そして、長く苦しむことになるどす黒い感情が芽生える。
『直樹と結婚した奥さんが羨ましい』
直樹の嫉妬が落ち着いたのに、今度は私に強烈な嫉妬が生まれた。
嫉妬をしたことのない二人が、初めて味わう嫉妬の感情は、最高難易度の『不倫』という形で現れた。
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