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5歳とお金と小さなレッスン

今年もおじいちゃんとおばあちゃんから、お年玉をいただいた。

ポチ袋を開けた瞬間、息子の顔はパッと明るくなって、まるで世界の秘密を見つけたみたいに大きな声で言った。

「やった!僕のお金だ!」

その声には喜びが詰まっていて、聞いている私の心までくすぐったくなる。ああ、この子も少しずつ、お金というものの意味を理解し始めているんだなと思った。

ある夜、いつものように絵本を読み終えて、私たちは布団の中で巻末のシリーズ本の紹介を眺めていた。ページいっぱいに広がるカラフルな表紙を見つめながら、息子がぽつりと言った。

「これと、これと、これと、これと、この絵本がほしい!」

その勢いがあまりにもまっすぐで、私の胸を少しだけ温かくしてくれた。でも同時に、こんな提案をしたくなった。

「これと、これと、これと、これと、この絵本を買うなら、おばあちゃんからもらったお年玉全部と交換したら買えるよ」

その瞬間、息子はちょっとだけ眉を寄せた。いつもはすぐに返事をするのに、今回は違った。何かを計算するように黙り込む。その姿があまりにも真剣で、少し笑いそうになったけど我慢した。

「うーん、じゃあ、これとこれだけにする」

少し間をおいて、そう言った。

私はさらに提案を重ねてみる。

「これとこれなら、おばあちゃんからもらったお年玉3枚と交換したら買えるよ」

息子はまた黙り込む。絵本のイラストをじっと見つめながら、小さな手が布団の上を行ったり来たりしていた。そして、次に出てきた言葉は、予想外のものだった。

「じゃあ、ママ買って」

その瞬間、私は心の中で少し吹き出してしまった。この子にとって、自分のお金は有限で惜しいもの。でも、私のお金にはその限界がないと思っているらしい。その考え方に苦笑しながらも、まだ5歳なんだもんね、と自分に言い聞かせた。

息子がこのやり取りで何を学んだのかはわからないけど、私にはちゃんと見えた。

この子は、何かを手に入れるためには、何かを手放さなきゃいけないことを少し知ったみたい。そして、手放すのは自分じゃなくて、私だったらいいんだと思ったみたい。

どこか愛おしくて、ちょっとだけ悔しいけど、それが今の5歳の息子なんだ。

私は、その小さな背中にそっと布団をかけながら、絵本のシリーズ全部買う日はまだ先でいいな、と思った。

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