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ネタバレなし『アラビアンナイト 三千年の願い』の感想

私がもし『アラビアンナイト 三千年の願い』の帯を書くことができるとしたら、、、

「イスタンブールのとあるホテルの一室にて、魔神の口から語られる、エキゾチックでグロテスクで、あまりにもゴージャスな『永久のエピソード』の数々。その連鎖によって描かれる”物語”を通じて、愛や物語について考える、大人のための108分」

でした。

ネタバレなしで、この繊細で不可解で、だけど共感が止まらない映画の魅力を書きたいと思います。

※あえてあらすじは省略します。あらすじが知りたい方は公式HPへ。

エピローグ:この映画を見ようと思ったきっかけ

まず、私がこの映画を見ようと思ったきっかけについて。

大したことはないんです。

ひとつめは、公開日が私の誕生日だったから。
ふたつめは、タイトルがすごく魅力的だったから。

かの有名なジョージ・ミラーが監督だということは、映画が始まる15分前に知りました。
良くも悪くもかなり新鮮な感情で見ることになったこの映画…

それでもとってもセンセーショナルな作品でした。

第一章:ビジュアルが最高

この映画を見るにあたって唯一知っていた前知識は、「マッドマックスと同じ監督の作品であること」。

『アラビアンナイト 三千年の願い』は構造的にかなり平坦な映画だったので、始めはこの事実に「???」と思っていました。が、作品の魅力を噛み続けながら、ジョージ・ミラーという人物について調べるにつれて『アラビアンナイト 三千年の願い』の美しさ、そしてジョージ・ミラーという監督の魅力を理解しつつあります。

恥ずかしながら「ジョージ・ミラー=マッドマックス」というイメージしかなかった私は、この監督の特徴を「ド派手なアクションとイカレた大クライマックス」だと思っていたのですが、今回の作品を通じて、この方の本質は「豪華絢爛なビジュアルと大胆な編集」だということに気づかせていただきました、、、。

紀元前に遡るシバとソロモンの恋、オスマン帝国時代のハーレム、そして魔人を愛のスパイラルへ貶めた数奇な才女。

「どれくらい史実に基づいているのか」を追究したくなってしまう歴史オタクな私もいますが、鑑賞中はとにかく「ジョージ・ミラーのセンセーショナルな世界観とビジュアリズム」に身をゆだねて、絵画を観るような気持ちで感性に身を委ねること。独創的な雰囲気と”金かかってそうな”映像を楽しむことをオススメします。

忌憚のないカットが彼の魅力だと知ってしまうと、劇中の唐突すぎる話の展開に触れるのはナンセンスな気がして、、、。以下、お蔵入りの本作品レビューです。

『すっっっごい手の込んだ繊細なケーキを一口食べるごとに (食べかけのまま) 皿下げられて困惑してたら、4.5皿食べたあと最後に出てきた紅茶の味が
優しすぎて、今日の出来事全てに恍惚とする』

第二章:「物語」という概念に対する迫り方へ共感の嵐


個人的にはこれが一番刺さったところでした。

「物語」を研究する文学者である主人公が力説する、「物語の力」。

おそらくこの映画全体の比重で言えば、監督が2番目くらいに伝えたかったのだろうなと思うメッセージです。

科学が神話をオーバーラップし、あらゆる現象を説明するようになった21世紀。
それでも私たちは、日々「説明できないこと」に直面し、不安を覚える。
どんなに説明できることが増えたとしても、全てを埋め合わせるためには物語を必要としてしまうのが人間の本質、という論に強く共感しました。

数世紀前と唯一違うとすれば、物語が「個人のもの」で良くなったこと。
数千年前から少しまで「共有されてしかるべき」だった物語は、今や良かれ悪かれ個人化されていると思うのです。

こうした変化が『正当化』と『俗化』を容易にし、「規律」や「神聖さ」を衰えさせているという私の自論はまた別の記事で、、、。

第三章:大人の「愛」にぐさり

個人的には、ジョージミラーがこの映画で一番伝えたかったことは「愛」だと思うのです。

この点については色々なことがネタバレに繋がってしまうので明言は避けますが、恋ではなくて愛、TakeではなくGiveとBeingについて熟考するきっかけを与えてくれる作品です。

エピローグ

大分長々と書いてしまいましたが、とにかく美しくて味わい深くて、見終わった後も(良い意味で)モヤモヤ考えてしまう作品でした。

スカッとしたい、あんまり何も考えずにオモロイ映画を観たいという方には向かないかもしれませんが、蠱惑的なビジュアルと、大人にしか知り得ない「愛」の意味へ静かに酔いしれたいひとにオススメな映画です。

ワンチャンあり、な異性と見に行くには向かないかも。

静かに、ひとりで、長々と噛みしめたい映画です。

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