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[2/10]OpenAIが語る:DeepSeek不正調査、米中対立と防衛産業、Stargateでの役割
2月10日、パリで開催されている「AI Action Summit」の会場より、OpenAIのグローバル政策責任者であるクリス・レイン氏を迎えてのBloombergのインタビュー・コンテンツを紹介します。
渦中の企業として色々と話題の絶えないOpenAIですが、DeepSeekに対する不正調査のポイントやその進捗、Andurilに代表される防衛産業との提携話の件、巨額投資を伴うStargateプロジェクトなど、幾つかの主要トピックスに対する同社直近の状況を伺える内容となっています。ご参考下さい。
[主なサブテーマ]
民主主義的AIと権威主義的なAIの対立
DeepSeekとの競争と進行中の不正調査
AIのコストと価格設定
「Stargate」に投入される巨額資金とOpenAIの役割
政府および防衛産業との連携
1. インタビュー
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
まずはDeepSeekです。DeepSeekは、このイベントに参加する方々にとって非常に重要なテーマです。
OpenAIのグローバル政策責任者であるクリス・レイン氏にお話を伺います。
DeepSeekについてですが、どのようにその影響を評価されますか? 先ほど、Demis Hassabis氏にもインタビューしましたが、彼はこのモデルの構築方法、トレーニング、コスト、そして使用したチップの量についての主張が誇張されていると述べていました。
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[クリス・レイン](OpenAI)
私が思うに、ここで2つのことが同時に成り立つ可能性があります。1つ目は、彼らが非常に優れたモデルを開発したということです。これは、OpenAIが昨年9月に発表したモデルと競えるほどのものです。その後、私たちはさらに進化したモデルを発表していますが、それでも彼らのモデルは明らかに高い性能を持っています。2つ目に、Demis氏が言っていたこともまた事実である可能性があります。例えば、コストや技術の開発方法、特定のチップを使用したかどうかについての報道がありますが、初期に公表された情報は実際とは異なっていたかもしれません。
ただ、私がここで重要だと思うのは、仮に今述べたことがすべて事実だとしても、このモデルが非常に優れたものであり、競争力があるという点です。そして、ここでの最大のポイントは、2024年の夏からOpenAIが主張していることが改めて裏付けられたということです。それは、大規模なAIを構築できる国はアメリカと中国共産党の主導する中国の2つしかないという事実です。
これが意味するのは、現在、世界がどちらの方向に進むのかというグローバルな競争があるということです。それは、民主的な価値観に基づくAIインフラが主流となるのか、それとも権威主義的で独裁的なAIインフラが支配するのかという選択です。これこそが最も重要なポイントです。
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[トム・マッケンジー](Bloomberg)
その点については後ほど伺いますが、まずはお聞きしたいのが、OpenAI内で進められている調査についてです。DeepSeekが御社のモデルから蒸留した推論データを不適切に利用したのではないかという疑いについて、調査が行われていると聞いていますが、現時点で何か結論は出ていますか?
[クリス・レイン](OpenAI)
まだ調査は進行中ですが、既に公表している通り、そのような行為があった可能性を示す証拠は確認しています。まず、この「蒸留」という言葉ですが、普段の会話でよく使う言葉ではないので、少し説明します。蒸留にはいくつかの種類があります。一つの例えとして、図書館に行って本を借り、その本から得た知識を自身の研究や仕事に役立てる、というものがあります。これは問題ありませんし、AIの分野でも日常的に行われていることです。
しかし、もう一つのやり方があります。それは、図書館に行き、本を借りた後、それを自分の本だと偽り、表紙を変えて配布するような行為です。これが複製にあたるものであり、私たちが懸念しているのはまさにこの点です。現時点でそのような複製行為の証拠がいくつか確認されており、より詳しい理解を得るために調査を続けています。また、この件については政府関係者とも話し合っており、今後さらに情報が得られ次第、随時共有していく予定です。
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
OpenAIに対する批評家たちからは、OpenAIがモデルの訓練に使用したデータについて完全には透明性を担保していない、という意見がありますが、その点についての反論はありますか?
[クリス・レイン](OpenAI)
そうですね。健康に良いカロリーと悪いカロリーがあるように、良い蒸留と問題のある蒸留があるということです。
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
顧客から、現時点でのモデルの価格設定について、納得がいかないという声が上がってはいませんか?
[クリス・レイン](OpenAI)
こう説明したいと思います。OpenAIは2022年の11月に初めて登場しましたよね。そして、わずか2カ月で1億人のユーザーを獲得しました。現在では3億人を超えており、非常に力強い成長を続けています。私たちは、利用目的に応じて異なる価格帯でモデルを提供するよう努めています。技術の進化が非常に速い分野なので、その都度状況に応じて価格設定の見直しを行うことが常に必要だと考えています。
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
価格はこれから下がるのでしょうか?
[クリス・レイン](OpenAI)
興味深い点の1つが、特に推論技術を使うことでシステム効率が改善され、コストが下がっていることです。昨夜、もしくは今朝早くかもしれませんが、私たちのCEOであるサム・アルトマンがブログを公開しました。その中でAIに関する3つの観察点について述べています。1つ目は、フロンティア・モデルの構築に計算リソースを投じれば投じるほど、そのパフォーマンスは飛躍的に向上するものの、同時に必要なコンピュート量やインフラへの投資もどんどん増えていくという点です。
2つ目は、この1年間で大きく効率が向上し、トークン1つあたりのコストが約150%削減されたことです。ここでいうトークンとは、計算リソースの単位のようなものと考えてください。ただし、コストが下がるにつれて利用者が増えるため、結果的に再びコンピュートに負荷がかかります。これを車に例えると、車の価格が下がればより多くの人が車を運転するようになりますが、それによってエネルギーや道路の需要が増えるのと似ています。
そして3つ目ですが、経済的な生産性が非常に速いペースで増加している、という点です。この3つがサムの観察から見えてきたポイントです。
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[トム・マッケンジー](Bloomberg)
初期段階で1000億ドルもの資金を「Stargate」に投入するとのことですが、その資金はどこから確保するのでしょうか?イーロン・マスク氏は、そんな資金はないだろう、と言っていますし、サティア・ナデラ氏も、我々は800億ドルで十分だ、と述べています。1000億ドルはどこから来るのでしょうか?
[クリス・レイン](OpenAI)
まず最初にお伝えしたいのは、私たちには素晴らしいパートナーがいるということです。ソフトバンクは、政府系ファンドや年金基金などから巨額の資金をシンジケート形式で調達してきた実績があります。その資金の多くがOpenAIに流れています。そして次に、Oracleがいます。Oracleは実際にこのインフラを構築しています。そして、今後すぐに1000億ドルの資金が投入される予定になっています。
すでにテキサス州アビリーンには施設があり、Oracleのチームが素晴らしい仕事をしてくれています。是非実際に見に来てください。
そして、OpenAIが関与する2つのポイントがあります。これを理解することが、この経済モデルを把握する上で重要です。まず、私たちが提供するのは知的財産(IP)です。計算能力を燃料のように考えてみてください。レギュラー、ミディアム、そしてプレミアムの燃料がありますよね。プレミアム燃料は最も高価ですが、その分高性能です。同様に、プレミアム・コンピュートは世界で最も高性能な計算能力であり、それには私たちのIPが欠かせません。チップ設計、データセンター構築、クラスタの構成など、すべてに私たちのIPが関わっています。
さらに、私たちはそのコンピュートの購入者でもあります。一定量のコンピュートを購入する契約を結ぶことで、この経済モデル全体が成り立つ仕組みになっています。
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
クリスさんはクリントン政権時代にホワイトハウスで働いていましたが、トランプ政権がAI規制を緩和していることについて、正しいとお考えですか?
[クリス・レイン](OpenAI)
トランプ政権が焦点を当てているのは、非常に明確な1点だと思います。それは、民主的なAIと権威主義的なAIとの競争でどちらが勝つのか、ということです。少なくとも私が見聞きしている限り、彼らは毎日そのことを念頭に置いて行動しています。そういった意味で、革新に積極的に取り組む必要があることを理解していると思います。
比較優位という観点で考えると、最終的にはとてもシンプルな結論に行き着きます。それは、誰が計算能力へのアクセスを持つか、ということです。では、その計算能力であるコンピュートを構成する要素は何でしょうか? それは、データ、エネルギー、半導体チップ、そして人材です。中国が持っているものを見てみましょう。まずデータですが、彼らには膨大なデータがあります。国家によって管理されたデータです。そしてエネルギーですが、昨年だけで10基の原子力施設が稼働を開始し、今年もさらに10基が稼働予定です。
チップに関しては、私たちのほうが技術的に優れていますが、中国も莫大な資金を投じています。そして人材ですが、ここは非常に興味深いポイントです。確かに中国には優れた人材がいます。しかし、我々の資本主義経済のシステムにおいては、開発者やビルダー、起業家といった人々が持つ創造性が解き放たれ、困難な課題を解決するためのツールや技術が次々と生まれるのです。これこそが、私たちの優位性であると考えています。
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
それがAnduril社との提携に関係しているのでしょうか? GoogleもAIの方針を見直し、防衛や軍事技術の開発を完全には除外しない方向に調整しています。Anduril社と提携したことで、どこまでその関係を広げていくのでしょうか? AI技術を武器システムにどれくらい組み込む準備があるのですか?
[クリス・レイン](OpenAI)
そうですね。また先日、米国の安全保障に関して重要な役割を果たしている国立研究所との提携も発表しました。ロスアラモス研究所などの施設は、国家安全保障の広範なエコシステムの中で非常に大きな存在です。
私たちにとって、政府とのイノベーションにおけるパートナーシップを築くことは重要です。民主的なAIが優位に立つことが非常に重要だと考えており、そのために政府が最高レベルの技術にアクセスできるようにする必要があります。もちろん、私たちの価値観や原則に従って進めていきますが、最終的には、AIをすべての人にとって有益なものにするというミッションと一致しています。そのためには、AIが民主的な価値観に基づいて構築されることが必要だと信じています。
[トム・マッケンジー](Bloomberg)
クリス・レインさん、ありがとうございました。OpenAIのグローバル政策責任者でした。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご視聴になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Bloombergより
(Original Published date : 2025/02/10 EST)
[出演]
OpenAI
クリス・レイン(Chris Lehane)
Chief Global Affairs Officer
Bloomberg
トム・マッケンジー(Tom Mackenzie)
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だうじょん
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