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Q3決算結果が好感されたオラクル:ミッションクリティカルなAI需要を取り込む個性あるクラウド戦略


 今回は、米国のオラクル(Oracle Corporation)についてです。
 4月に入ってからの米国株マーケットは、幾分バタバタしている状況ですが、オラクルという老舗の大手IT企業の株価は、チャート上、同社の史上最高値圏で上下を繰り返している状況にあります。そして、米株アナリストの評価も総じて推しの傾向が見受けられています。 
 このオラクル、3大メガクラウドプラットフォーマーの影に隠れがちな存在ですが、昨日(4/5)には、パランティア(PLTR : Palantir Technologies社)とのミッションクリティカルなAIソリューションの提供に係わるプレスリリースが発表されるなど、特徴ある独自の路線でクラウドマーケットを開拓しつつ、徐々にシェアを高めているように見受けられます。

 3月11日に行われたオラクルの直近決算となる2024年度Q3決算では、売上が市場予想132.86億ドルに対して、132.8億ドルとわずかに予想を下回りましたが、EPSについては、予想を2.41%上回る結果となりました。そして、2024年の通期業績予想がマーケットに好感され、決算直後から株価が上昇し、3月21日に過去最高値となる132.77ドルに到達しました。 その後、若干弱含みながらも、4月4日の終値ベースで124.19ドルで推移しています。
 とはいえ、直近のヒートマップ(下図)を見ると、オラクルの株価は、年初来で17.94%増と、かなり健闘していることが伺えます。

現地4月5日終値ベースでの年初来の騰落率ヒートマップ(オラクルは、MSFTの右上横)
(出典:FINVIZより)

 この株価の上昇傾向は、Q3決算の内容を受けて同社の事業成長への期待が高まったためですが、決算発表内容の中身を見ると、それら期待が高まった理由となる幾つかのテーマを確認することができます。後ほど、これら以下に示す内容について触れて行きたいと思います。
 
(1)同社のAIクラウドに対する強い成長期待
(2)データセンターのキャパシティ拡大のための膨大な投資
(3)ヘルスケア分野で生成AIアプリケーションの開発と市場展開
(4)NVIDIAのBlackwellをいち早くサービスインする計画
(5)モジュール型データセンターによるOpEx/CapEx削減

 このように今回は、オラクルの2024年度Q3決算を振り返りながら、マーケットの期待値を高めた要因について紹介をしていきたいと思います。




1. 企業概要

 オラクル(Oracle Corporation)は、1977年に設立され、米国テキサス州オースティンに本社を置くIT企業です。主な事業内容としては、データベースソフトウェア、企業や公的機関向けのアプリケーションソフトウェア、そしてクラウドサービスを提供しています。現在の時価総額は、3,400億ドルを超えており、2023年のFobes The Global 2000では、全世界で80位にランクされる老舗の巨大IT企業の1社です。
 オラクルの提供するプロダクトとサービスは多岐に及んでおり、創業期から同社の成長を支えてきたリレーショナルデータベースの「Oracle Database」をはじめ、数々のミドルウェアやERPソフトウェアやSCMソフトウェア、CRMソフトウェアやHCMソフトウェア等の企業向けアプリケーションをを提供しています。また、これらのアプリケーションを包含するSaaSやPaaS、IaaSといったクラウドサービスの提供に加え、自社で開発したハードウェアプロダクトを提供している企業です。

 同社は過去、業界全体のクラウド化の流れに若干乗り遅れ、特に既存顧客のIT資産のクラウド化に苦労をしていました。しかし、オンプレミス環境からクラウドへの移行をスムーズに行えるオラクル独自の技術フレームワークを開発し、また多数のクラウド関連企業を買収することで、最近では、クラウド市場において独自のプレゼンスを確立しつつあるようです。

 下表は、2024年2月5日にStatista社が発表した2023年第4四半期のIaaSとPaaSを対象としたクラウドインフラストラクチャ市場の市場シェア情報です(元ソースは、Synergy Research Group)。全体のクラウドインフラストラクチャ支出は、前年同期比で120億ドル増の737億ドルに達し、通年で2700億ドルが市場に投じられています。このデータからは、3大メガクラウドが市場の66%を占め、残りをその他が分け合うという構図が見て取れますが、この中にオラクルが居ることが確認できます。わずか2%のシェアですが、かつてクラウド化に遅れを取っていた同社が、ここに来てプレゼンスを高めていることがこのデータからも分かります。

(出典:StatistaおよびSynergy Research Group)



2. 2024年度Q3決算の振り返り

(1)主要指標について

 さて、Q3決算の振り返りですが、売上高は前年同期比で7.11%増の132.80億ドルに達し、純利益も26.63%増の24億ドルに拡大しました。売上高は、市場予想を僅かに下回りましたが、調整後のEPSは1.41ドル(非GAAP)で、市場予想の1.38ドルを上回る結果となりました。

 続いて2024年Q4のガイダンスについてです。全体の売上で4%から6%の成長を見込んでいます。特に、Cerner(※)を除く売上に関しては6%から8%の成長を予想しています。また、クラウドの売上に関しては、Q4に増設されるクラウドのキャパシティの増加を背景に、Cernerを除いた場合で22%から24%の成長が見込まれています。また、EPSに関しては、基本税率を19%と想定した上で、2%減から横ばいとなる、1.62ドルから1.66ドルを見込んでいるとの説明がありました。

(※)Cerner
Cernerは、オラクルが2021年に買収した医療情報技術を専門とするアメリカのCerner社を指します。この買収による事業統合が現在も進行中であるため、決算報告においては投資家への説明のため、わざわざCernerの勘定を区分して説明しているものと思われます。現在、Cernerは同社のヘルスケア関連のソリューションとサービスである「Oracle Health」の一部に組み入れられています。このOracle Healthは、医療機関や研究機関が使用する電子健康記録(EHR)、患者管理システム、データ分析ツールなど、データ管理と分析をサポートするテクノロジーを提供するクラウドサービスとなっています。

(2)2024年度Q3決算 : 実績

 Q3決算のハイライトは、クラウドサービスおよびライセンスサポートの売上合計が11%増の100億ドルとなったこと。そしてバックオーダーとなるRPO(残存履行義務)が前年同期比29%増の800億ドルとなり、この履行義務を追いかけるかたちながら、データセンターの増設のために、2024年度に75億ドル、2025年度に100億ドルの巨額の設備投資を計画し、高まるオラクルへのAIとクラウドの需要取り込みのための成長戦略を描いていることが明らかになったことです。
 
 売上は前年同期比7%増の132.8億ドルを達成しました。特に、Cernerを除く成長率は9%となり、クラウドビジネスの伸長が顕著に現れています。クラウドビジネスの合計売上は、24%増の51億ドルに達し、うちIaaSが49%増の18億ドル、SaaSが14%増の33億ドルとなり、また、うちSaaSとIaaSを除くCernerのクラウド売上は26%増の44億ドルとなっています。 この四半期は、クラウドの売上が、従来のライセンスサポートの売上を上回った初めての四半期となり、多くの既存ユーザーを抱えるオラクルのビジネスのクラウド化が着実に進んでいることが示された形になっています。
 
 また、オラクルに対する需要の全体感については、オラクルが提供する第二世代のAIインフラに対する需要が、同社の供給を大幅に上回って推移しています。Q3に締結されたクラウドインフラストラクチャの大型新規契約により、RPO(残存履行義務)の総額は前年同期比29%増の800億ドル以上に増加し、同社の過去最高を記録しています。オラクルは、既存のデータセンターの拡張やクラウドデータセンターの建設を急速に進めていますが、顧客からの需要は引き続き高く、この大型契約を含む高い需要の傾向は将来に渡って続く見込みとしています。尚、800億ドルの残存履行義務については、その43%がQ4で売上として計上される予定とのことです。

その他、Q3決算の主要な指標は以下の通りです。

Q3決算の主要な指標は以下の通りです。

  • 総売上は132.8億ドル(前年同期比7%増)

  • RPO(残存履行義務)は、800 億ドル(同29%増)

  • クラウドサービスおよびライセンスサポートの売上は、100億ドル(同12%増/米ドルベース)

  • クラウド売上(IaaSとSaaS) 51億ドル(同24%増)

  • クラウドインフラストラクチャ(IaaS)売上 18 億ドル(同49%増)

  • クラウドアプリケーション(SaaS)の売上は33億ドル(同14%増)

  • FusionクラウドERP(SaaS)の売上は8億ドル(同18%増)

  • NetSuiteクラウドERP(SaaS)の売上 8億ドル(同21増/米ドルベース)

  • GAAPベースの営業利益は38億ドルで、営業利益率は28%。

  • 非GAAP基準の営業利益は58億ドル(同12%増)で、営業利益率は44%

  • GAAP基準の純利益は24億ドル

  • 非GAAPベースの純利益は40億ドル(同18%増)

  • GAAPベースのEPS 0.85ドル

  • 非GAAPベースのEPS 1.41ドル

  • 過去12ヶ月間の営業キャッシュフローは182億ドル

  • フリーキャッシュフローは123億ドルであった。

  • 四半期配当については、発行済み普通株式1株につき0.40ドル

  • 総額4.5億ドルとなる400万株の自社株買いを実施

(3)主要業績の推移

 Q3決算の結果を受けての四半期ごとの主な業績について見てみます。下表を見ると大きな変動は特になく、業績は比較的安定している様子が見受けられます。売上には季節性が見受けられ、各年度の第4四半期にわずかにスパイクする傾向があります。したがって、Q3決算での経営陣の発言からもQ4の業績は強含みとなって、通期ではFY2023の業績をしっかりと超えて来るという見方が強いです。
 その他、売上総利益は増加傾向ながらも増加率は横ばい。そして、EBITDAも成長傾向は見受けられますが、売上の成長率に比べると穏やかな伸びにとどまり、純利益については、若干の変動はありながらも、FY2023のQ4に大幅に増加した後、それ以降もある程度の高水準を維持していることが分かります。 

オラクルの四半期ごとの売上と利益(クリックで拡大)

 EPSについては、前年同期比で上昇しています。PERは、下降傾向にあり、現在株価が高値圏に位置しているにもかかわらず、前年度末と比較して割安感を見せています。 さらに今後12か月のPER(NTM)は、21.0倍~22.6倍にまで下がっている状況にあります。

オラクルのEPSとPBR(クリックで拡大)

(4)オラクルの収益セグメント

 Q3の決算発表会では、主にクラウドビジネスに関する話題が中心でした。しかしオラクルは、昨今のクラウドネイティブな企業とは異なり、従来型ITのビジネスモデルを持つ歴史ある老舗の大手IT企業です。
 下表は、Q3決算を踏まえた損益計算書ですが、売上収益対象となるセグメントが4つに分かれているのが分かります。「クラウドサービスおよびライセンスサポート」、「クラウドライセンスおよびオンプレミスライセンス」、「ハードウェア」、そして「サービス」の4つです。特に、「クラウドサービスおよびライセンスサポート」と「クラウドライセンスおよびオンプレミスライセンス」の区別は一見して理解しづらいかもしれませんので、これらの違いについては、別途最後に補足させて頂きます。
 尚、下表では、Q3の前年同期比と年初からQ3までの9ヶ月間の前年比を見ると、「クラウドサービスおよびライセンスサポート」がオラクルの業績を牽引しているのが分かります。そして、決算発表で取り上げられた多くの内容が、この「クラウドサービスおよびライセンスサポート」セグメントに関連していたことがわかります。

2024年度Q3 損益計算書(出典:オラクル、クリックで拡大)

 


3. オラクルへの市場期待

 本投稿の冒頭に挙げたオラクルの事業成長への期待を高めて株高に導いた決算発表内容について、以下触れていきたいと思います。

(1)同社のAIクラウドに対する強い成長期待

 49%の成長率を記録したIaaSの成長ドライバは、OCI(Oracle Cloud Infrastructure)です。このOCIは、同社の提供する統合パブリッククラウドサービスであり、IaaS及びPaaSを含む50以上のサービスを提供しています。企業の既存システムをクラウドにスムーズに移行できるように設計されており、特にオラクルデータベースなどのオラクル製品のオンプレミス環境からのクラウド移行において、小規模な仮想マシンから高性能なベアメタルサーバーまで、幅広い選択肢を用意しており、オラクルの既存顧客にとっては非常に魅力的なクラウドサービスとなっています。
 Q3決算では、このOCIが急速に成長していることがアピールされています。800 億ドルのRPO(残存履行義務)のバックログが示す通り、オラクルのデータセンターのキャパシティを超えた顧客需要が発生し、40を超える新規顧客のAIプロジェクトをカットオーバーできない状況にも関わらず、パイプラインの成長がさらに加速していると報告されています。これに対しては、既存データセンターの拡張や新規データセンターの立上げを急ピッチで進めており、供給制約の緩和と同時に売上成長の加速が期待されており、将来の成長に強い見込みを描いています。 加えてオラクルは、大規模言語モデルのトレーニング用インフラの拡張のみならず、生成AIを活用する業界固有のアプリケーションの再設計にも取組んでいる模様です。

(2)データセンターのキャパシティ拡大のための膨大な投資

 オラクルは現在、AIおよびクラウドサービスの需要増加に対応するため、既存データセンターの拡張と新たなデータセンター建設に向けて大規模な投資を行っています。その投資額は、2024年度に75億ドル、2025年度には、データセンター投資を含む総額100億ドルの資本投入を予定しているとしています。データセンターのキャパシティを拡大することが大幅なトップラインの成長につながるとし、既存データセンターの拡張を通じて68の新たな顧客向けリージョンを立ち上げ、全米の20カ所で進行中のデータセンター建設プロジェクトと共に、さらに多くのリージョンを追加していく予定です。またこれら新たに追加されるリージョンには、公共事業用、個別の企業専用、国家安全保障向け、EU向けリージョンなどが含まれます。
 オラクルが構築するデータセンターには、全長560~600メートルの広大なスペースを持つAI専用の大規模データセンターが含まれる一方で、モジュラー型設計を採用し、小規模なデータセンターから巨大なデータセンターまで、同一の設計で非常にスケーラブルなアーキテクチャを実現しています。

(3)ヘルスケア分野で生成AIアプリケーションの開発と市場展開

 医療・ヘルスケア分野は、オラクルが特に戦略的に力を入れている領域です。同社は、医療機関や研究機関が直面する複雑なデータ管理の課題を解決するための製品やサービスを「Oracle Health」として提供しており、これにはEHRシステムや患者の管理システム、その他のデータ分析ツールなどが含まれます。
 そして、医療・ヘルスケア分野の生成AIの活用にも積極的に取り組んでおり、Q3決算報告では、生成AIを活用して開発した新たなアプリケーション「Ambulatory Clinic Cloud Application Suite」に触れて紹介しています。このアプリケーションは、Apexアプリケーションジェネレーターと自律型データベースを使用して外来クリニックシステムを再設計しなおしたもので、医師と患者の対話から処方箋や医師の指示、メモの自動生成、そしてEHRの更新までを自動化する音声インターフェース機能「クリニカルデジタルアシスタント」が含まれています。

※Oracle Apexアプリケーションジェネレーターは、データ中心のアプリケーションを迅速に開発するためのロー・コード統合開発環境(IDE)です。

(4)NVIDIAのBlackwellをいち早くサービスイン

 オラクルは、NVIDIAとのパートナーシップを強化しました。これは、NVIDIAが2024年に新たに市場投入するBlackwellアーキテクチャのGB200/B200をAWS、マイクロソフト、Googleのビッグ3に並んでNVIDIAがオラクルにいち早く供給することを約束するものです。
オラクルは、これらBlackwellプロダクトを「OCI Supercluster」や「OCI Compute」に搭載することを計画しており、「OCI Supercluster」では、新たな「OCI Compute」ベアメタル・インスタンスで、NVIDIA GB200 Grace Blackwell SuperchipとNVIDIA Blackwell B200 Tensor コア GPUの両方を採用する予定です。OCI上に構成されるこれらのNVIDIA DGX Cloudクラスタには、最大20,000個を超えるGB200アクセラレータが搭載される見込みで、これによって、OCIの顧客が自社の独自データを利用して、検索拡張生成(RAG)をNVIDIA NeMo RetrieverなどのNVIDIA NIMおよびCUDA-Xマイクロサービスを利用して、様々なアプリケーション開発を効率的に行うことが可能となります。

(5)モジュール型データセンターによるOpEx/CapEx削減

 オラクルは、データセンターの構築から運用に至るまでのプロセスの自動化を強力に進めています。オラクルの第二世代のデータセンターでは、そのアーキテクチャにモジュラー・アプローチを採用し、同じモジュールを組み換えることで、非常に小さなデータセンターから巨大なデータセンターまでスケールアウトが可能となっています。また、データセンターの立上げや運用も自律的に行うことができ、運用に必要なスタッフを最小限に抑えることでOpEXを大幅に削減し、データセンターの市場投入時間も大幅に短縮できるとしています。
 これらの自動化は、オラクルが開発した「Autonomous Linux」や「Oracle Autonomous Database」などのプロダクトが持つ高度な自動化技術によって支えられています。Oracle Autonomous Linuxは、クラウド環境に最適化されたオラクルのLinuxOSで、自動調整機能を通じて、管理作業の手間を大幅に削減することが可能です。また、Oracle Autonomous Databaseは、オラクルのクラウドデータベースサービスの1つで、データベース管理において多くの人的介入が必要であった従来のデータベースの管理とは異なり、機械学習を活用して、パッチ適用やセキュリティ管理、バックアップやアップデートといった日常的管理作業を自動で行うことができ、従来の多くの人的介入を必要とするデータベース管理から一歩進んだものとなっています。

(6)その他(その他の主だった動向)

 オラクルは、マルチクラウド、クラウドのリブランディング、専用リージョン、そしてソブリンクラウドという四つの主要な領域で、そのサービスと提携を拡張しています。
 
① マルチクラウドオファリング
 マルチクラウドオファリングは、オラクルのクラウドサービスが他社のAzureパブリッククラウドで利用可能となるサービスです。これにより、企業はOCIとAzureの両クラウド環境で基幹システムを含む重要なアプリケーションを運用できるようになり、顧客は自社のニーズに最適なクラウドリソースを選択して効率的かつ効果的に基幹業務システムを構築・運用できるようになります。
 
② Alloyによるクラウドのリブランディング
 Alloyは、オラクルのパートナー企業が、OCI上のクラウドリソースを利用して、自身のクラウドサービスを提供できるようにするプラットフォームサービスです。つまり、パートナー自身のブランドで、パートナーがカスタマイズしたクラウドサービスを顧客に提供することが可能となります。このようなパートナーエコシステムを通じて、オラクルはクラウドサービスの市場リーチを拡大し、特定の市場やニーズに合わせたサービスの提供を目指しています。
 
③ 専用リージョン
 世界中で顧客の専用リージョンに対する関心が高まっています。専用リージョンとは、特定の企業向けにオラクルのパブリッククラウドリージョンを専用で提供する仕組みで、これにより企業は自社のデータセンター内でオラクルのクラウドサービスを全て利用できるようになります。このシステムにより、顧客はデータやアプリケーションを自分で完全に管理しながら、パブリッククラウドのメリットであるアクセシビリティやスケーラビリティを享受できます。専用リージョンは特に、厳しい規制要件を持つ企業やレイテンシに敏感なアプリケーションを使用する企業に適しています。Q3決算発表の中で、具体的な事例として、野村総合研究所が導入した東京証券取引所のシステムおよびその運用が紹介されていました。
 
④ Oracle Sovereign Cloudについて
 ソブリンクラウド(Sovereign Cloud)は、「経済安全保障政策」の観点から経済面での国益を確保することを目指し、データやシステム、そしてシステム運用の際の利用者側の主権を重視する背景から生まれました。このニーズに応えるために、利用者がその主権を確保できるような仕組みを提供するクラウドサービスがソブリンクラウドです。そして、このソブリンクラウド市場で先行しているのがオラクルであり、他社との差別化要素としてオラクル自身も市場に強くアピールしているソリューション領域になっています。
 オラクルは、「Oracle Sovereign Cloud」として、政府や産業界の規制、コンプライアンス、セキュリティ基準に対応するクラウド環境、選択された地域での専用線接続によるインターネットから隔離されたクラウド環境、アクセス制御や現地スタッフによるサポートなど、様々なオプションで構成される政府機関や企業のためのクラウドソリューションを提供しています。オラクルとパランティア社(Palantir Technologies社)との提携も、政府公共系組織や金融、エネルギー企業などのクリティカルなAIアプリケーションを搭載・展開するクラウドとして、Oracle Sovereign Cloudが最適な選択であるという判断に基づいています。また、NVIDIAとの関係では、NVIDIAが提唱する「Sovereign AI(ソブリンAI)」とも歩調を合わせており、これがBlackwellの早期確保につながった可能性があります。

Oracle Sovereign Cloudの概要図
(出典:オラクルの情報を二次加工、クリックで拡大)



4. オラクルの事業セグメントの概要

 前掲、2.-(4)で触れたオラクルの収益セグメントについて、簡潔にその概要を紹介したいと思います。

① クラウドサービスおよびライセンスサポート
 このセグメントには、オラクルのSaaS群とOCIが含まれ、オラクルのクラウドビジネスの主力サービスといえます。SaaSについては、Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning (ERP)、Supply Chain and Manufacturing Management (SCM)、Human Capital Management (HCM)の他、NetSuite Applications Suite、Oracle Cerner healthcare、Oracle Advertisingなどの企業の基幹系システムやコアシステムが含まれます。また、OCIについては、コンピュート、ストレージ、ネットワークのIaaS機能、そして、Oracle Autonomous Databaseやアプリケーション開発環境などのPaaS機能をサービス提供するクラウドプラットフォームとしてのサービスを提供しています。尚、ライセンスサポートについては、顧客が購入したこれらSaaS、IaaS、PaaSに対するサポートサービスです。
 
② クラウドライセンスおよびオンプレミスライセンス
 このセグメントは、オラクルのアプリケーション・スィートを対象とするライセンス販売ビジネスです。具体的には、Oracle E-Business Suite、PeopleSoft、JD Edwards、Siebelなどを対象とし、クラウドまたはオンプレミスで利用する際のライセンスを販売しています。また、このセグメントには、Oracle Infrastructure Technologies ライセンスとして、Oracle DatabaseやMySQL、Javaやソフトウェア開発のためのミドルウェアやツールを対象とするライセンスの販売ビジネスも含まれています。
 
③ ハードウェア
 このセグメントには、オラクル特有の少し尖ったハードウェアの販売が含まれます。Oracle Exadata Database Machineと呼ばれる高速なデータベースおよびデータ分析を可能とするハードウェアとソフトウェアの統合システムであったり、2010年に買収したSun MicrosystemsのSparcサーバーの流れを汲むエンタープライズ向けのサーバー製品が中心になりますが、その他、企業向けのストレージ製品やPOS端末やヘルスケア業界向けのハードウェアも含まれます。
 
④ サービス
 このセグメントは、顧客企業やパートナー企業を支援するコンサルティング・サービスやアドバンスド・カスタマー・サービスとしての有償サービスを含んでいます。


以上です。


御礼

 最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。 

だうじょん


免責事項

 本執筆内容は、執筆者個人の備忘録を情報提供のみを目的として公開するものであり、いかなる金融商品や個別株への投資勧誘や投資手法を推奨するものではありません。また、本執筆によって提供される情報は、個々の読者の方々にとって適切であるとは限らず、またその真実性、完全性、正確性、いかなる特定の目的への適時性について保証されるものではありません。 投資を行う際は、株式への投資は大きなリスクを伴うものであることをご認識の上、読者の皆様ご自身の判断と責任で投資なされるようお願い申し上げます。


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