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FRBの舵取りが堅調に進む中、関税リスクを注視(グールズビー シカゴ連銀総裁)
シカゴ連銀総裁のオースタン・グールズビー総裁を迎えてのYahoo Financeのインタビュー・コンテンツを紹介します。
1月の雇用統計によれば、失業率は4%まで低下し、賃金は予想以上の伸びを見せています。労働市場は全体として堅調に推移しており、非農業部門の雇用には一部で鈍化の兆しも見られるものの、グールズビー総裁は「ほぼ完全雇用に達している」と評価しています。
賃金上昇がインフレ率2%に見合い、生産性も良好であることから、インフレには着実に改善の兆しが見えているとしながら、その一方で、関税政策がもたらすサプライチェーン全体へのコスト上昇圧力の可能性については、慎重にその動向を注視しているとしています。
金利については、現状維持が続く見通しながら、政策リスクが解消されれば中立金利の引き下げも視野に入れているとしています。
また、財務長官スコット・ベッソン氏が述べた「長期金利を引き下げることが重要」という発言に対しては、長期金利は財務省の管轄事項であり、FRBは短期金利の調整に集中。長期金利については財政、市場動向や経済の自律的な調整に委ねるとの見解を示しました。さらに、ソブリン・ウェルス・ファンド(政府系投資ファンド)についても、これは財政政策に属するとする姿勢を示しています。 ご参考下さい。
1. インタビュー
[シーナ・スミス](Yahoo finance)
1月の雇用統計によると、労働市場は引き続き堅調で、失業率は4%に低下し、賃金は予想以上に上昇しました。2024年末の雇用増加も、最新の改訂によって以前の報告より強い結果となりました。
それでは、ジェニファー・ショーンバーガーさんにお話を伺いましょう。彼女はシカゴ連邦準備銀行のオースタン・グールズビー総裁と一緒にいます。よろしくお願いします。
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[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
ありがとうございます。オースタン総裁、本日はご参加いただきありがとうございます。お会いできて嬉しいです。
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[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
こちらこそ、お会いできて嬉しいです。
[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
まずは今朝発表された雇用統計についてのご見解をお伺いしたいと思います。特に私が注目したのは、失業率が4%に低下した点です。一方で、非農業部門の雇用者数は見た目の数字としては鈍化しましたが、賃金の伸びは予想を上回り、大幅な上方修正も見られました。このようなデータを踏まえて、現在の雇用市場をどのようにご覧になっていますか? また、今の水準で雇用の安定は続くとお考えですか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
どれも重要な質問ですね。ご存じの通り、私がこの番組に出演するたびに言っていることですが、1か月分のデータだけにあまり一喜一憂しないようにしましょう、とお伝えしています。特に1月は、前年分の改訂が多く行われるため、その点に注意が必要です。とはいえ、今回の報告は堅調だったと思います。予想に近い内容でしたし、失業率も少し低下しました。個別の指標にはいくつか疑問点もありますが、全体的な指標を総合すると、今はほぼ完全雇用に落ち着いてきたように感じます。6か月前の状況と比べても、当時は失業率がじわじわ上がり続け、悪化するのではと懸念していた中で、今はより良い状況にあると思います。
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[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
ほぼ完全雇用に落ち着いてきたとのことですが、トランプ大統領はカナダとメキシコに25%の関税を発表し、30日間の猶予を設けた後に一旦停止しました。しかし、中国に対しては10%の関税が実施され、それが今も継続しています。カナダとメキシコへの関税が再導入される可能性や中国への関税がさらに引き上げられるリスクを考えると、すでに中国に対する関税が影響している現状の中で、これらが今後の雇用市場の見通しにどのような影響を与えるとお考えですか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
少し不確実性が増している状況です。ご存じの通り、シカゴ連銀は第七地区を担当しており、ここ中西部はまさに自動車生産の中心地です。私はよく、我々は自動車生産のサウジアラビアだ、と言っていますが、先日もデトロイトで主要な自動車部品メーカーや大手自動車企業と話をしてきました。貿易戦争の激化がサプライチェーンに混乱をもたらす可能性については、非常に現実的な問題として捉えられており、彼らもその影響を懸念しています。ただ、先週のように議論があっても最終的には貿易に大きな障害をもたらさなかったようなケースが増えることを期待しています。
不確実性の影響を踏まえても、現在の雇用市場はほぼ完全雇用に安定しているように見えます。成長も堅調で、生産性の伸びも非常に良好ですし、賃金の上昇も2%のインフレ率と整合しています。最近のデータでは、インフレに関する良いニュースも続いており、2%の目標に向かう道筋が見えてきています。そのため、関税や地政学的なリスクなど政策面での大きな不確実性がなければ、現在の経済の進行方向には安心感があります。
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[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
いくつか追加で伺いたいことがあります。まず、今朝、インフレ期待(ミシガン大学期待インフレ率)が上昇しているというデータが出ましたが、これがインフレの見通しにどのような影響を与えるとお考えでしょうか? また、それによって金利への影響はどうなりますか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
インフレが上昇する可能性はありますが、ここで強調したいのは、今回動いているインフレ期待の指標は、消費者の短期的なインフレ期待を示す調査データだという点です。これは主に1年間の見通しに関するもので、私の考えに与える影響は長期的な期待ほど大きくはありません。私が注目しているのは、市場ベースの長期的なインフレ期待の指標です。もしその市場ベースの長期的なインフレ期待が上昇するようであれば、それには大きな重みを置きます。しかし、現時点ではそれらの指標は完全に目標にしっかりと固定されています。市場も長期的なインフレ期待が変わらないと見ており、私も2%の水準に戻ると確信しています。
[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
今週のスピーチで、インフレが上昇したり進展が停滞した場合、過熱が原因なのか関税が原因なのかを見極めるのはFRBにとって大きな課題になるとおっしゃいました。そして、この区別が、FRBがいつ、あるいは行動すべきかどうかを判断する上で極めて重要だ、ともおっしゃっていました。では、仮にインフレが関税によるものであれば、FRBは行動しないのでしょうか?
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[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
私が述べたのは、経済理論に基づくと、仮に一時的な関税でコストが上昇しても、それが継続的なものではなく、報復措置もなければ、それは一時的なインフレショックと見なされるべきだということです。ただし、この一時的という言葉は少し慎重に扱っています。中央銀行としては、一時的なショックに過剰に反応しないようにするのが基本です。しかし、大規模な関税が課された場合、どの部分のインフレが一時的で、どの部分が長期的に注視すべきものかを見極めるのが難しくなります。私としては、インフレが再加速しないことを願っていますが、もし政策の不確実性が増し、インフレが再び上昇し始めた場合、それは非常に厄介な状況となって視界が曇ってしまい、はっきりした方向性が見えにくくなるでしょう。
[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
中国への10%の関税がサプライチェーンのコストを引き上げることについて懸念されていますか? また、それがインフレ全体に与える影響について、今週のスピーチでも触れていましたが、どのように見込んでいますか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
正直言って心配はありますが、それは中央銀行家としての役目の一部です。「夜、何があなたを眠らせないのか?」と言う質問に対しては、そもそも夜に眠るつもりはないということです。あらゆるシナリオを考え抜くために起きているべきなのです。これから確認しなければいけないのは、これらの関税がどの商品に適用されるのか、どのくらいの期間続くのか、また中国に限定されるのか、10%だけなのかといった点です。
2018年の経験から言えるのは、中国への関税が全体的なインフレに大きな影響を与えなかったことです。そのため、今回も同じようなパターンをたどる可能性があります。状況が現状のままであれば、同じような影響になるかもしれません。しかし、以前のスピーチでお話ししたように、私たちにできることは「データに基づいて行動する犬」(data dog)として、産業の専門知識を駆使し、業界の人々に話を聞き、FRB内の知見を活用して、サプライチェーンの影響がどれほど大きいかを徹底的に調査することだと考えています。
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[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
不確実性はあるにせよ、現状、完全雇用にあり、経済も堅調だとおっしゃいました。この状況を踏まえると、今後の金利の動向はどのようにお考えでしょうか? しばらく据え置きということになりますか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
我々は、しばらく金利を据え置く可能性はありますが、今後12~18か月の間に政策面や地政学的リスク、コモディティ市場の不確実性が解消されれば、FF金利の長期的な安定水準は、現在の水準よりかなり低くなると考えています。ドットプロットを見ても、金利の中立水準が低下すると考える意見は幅広く一致しています。ただし、不確実性や曖昧さが増すほど、金利の引き下げ速度はゆっくりになると思います。それでも、2%のインフレ目標に戻る道を歩んでいるという見方には変わりありません。過去数か月はかなり堅調な数値が出ていますが、12か月のインフレの平均値だけが、まだ高い水準に停滞しているように感じられます。これは主にベース効果によるもので、昨年の第1四半期にインフレが一時的に上昇した影響です。最近の数値がこの調子で続けば、第1四半期を通じてインフレ率はかなり大きく低下すると見ています。インフレに関しては、その動きを注視しているところです。
[シーナ・スミス](Yahoo finance)
ちょっとお邪魔します。今年中に再び金利を引き下げる可能性は、まだ十分高いと聞こえますがいかがでしょうか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
私は、12~18か月の期間で考えると、中立金利の水準は今よりもかなり低い位置にあると見ています。今年の夏に、その差は数百ベーシスポイントだと述べました。その後、100ベーシスポイントの利下げを行い、良いスタートが切れたと思います。そして、意見の相違があったり、どこで止めるべきかを探っている段階では、ペースを緩めたり、一時的に停止したりしながら、中立金利を見極めていくのが自然だと考えています。ご存じのとおり、金融政策の効果は遅れて現れるため、1か月ですべてを調整することはできません。それでも、基本的な経済の動きに任せれば、自然な安定水準は今の金利水準よりも低いところにあると確信しています。ですから、慎重なスケジュールでそこに到達する必要があるのです。
[シーナ・スミス](Yahoo finance)
今週初めに財務長官のスコット・ベッセント氏から出たコメントについて、あなたのご意見を伺いたいです。彼は、FRBについてはあまり心配しておらず、トランプ政権もFRBにはそれほど注目していないと述べました。彼らはむしろ利回りを引き下げることに焦点を当てているとのことです。この発言を踏まえ、市場金利と政策の関係、そして必要とされるものについて、どのようにお考えですか?
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[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
私も財務長官の話のほとんどに賛同しました。彼が言っていたのは、長期金利を下げることを目指しており、そのために生産性の向上、規制緩和、そしてアメリカの成長率を持続的に高めることに注力するということでした。これは、短期金利がどうあるべきかについてFRBと議論するものではありません。ご存じのとおり、長期金利は企業の投資判断や住宅ローンなどに最も影響を与えるものですが、これは市場の多くの要因に左右されます。たとえば、予想される長期のインフレ率、国債の発行量、短期金利の利下げペースが緩やかか急速か、生産性の成長、そして世界の経済状況などが影響します。こうした要因が長期金利を動かしています。
FRBの使命は、長期金利を設定することではありません。我々の役目はFF金利や短期金利に関するものであり、雇用の最大化と物価の安定を目指すことに集中しています。財政政策は、経済の基礎的な条件として受け入れ、それが常に変化することを前提としています。私たちはその変化を分析し、シナリオを検討しながら短期金利を決めています。長期金利の動きは予測や経済評価の一部ですが、我々のターゲットではありません。むしろ、それは財務省のターゲットのようです。
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[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
オースタン、今おっしゃったことを踏まえると、中立金利までどのくらいの距離がありますか? 今年中に政策変更がなければ、金利はもっと低い水準で終えるとお考えのようですが、その時点で中立金利に達しているのでしょうか、それともまだ時間がかかるのでしょうか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
中立金利に到達するには、もう少し時間がかかると思います。ドットプロットの長期的な安定水準を参考にすると、その水準には多少の意見の違いがありますが、今の金利よりもかなり低いことには変わりありません。ほとんどのドットが示しているのは、特に大きな変化がなければ、1~2年の間で中立金利に戻っていくという見通しです。そのスピードを左右するのは、経済状況の変化です。
インフレについては、2%に戻る道を歩んでいると考えています。そして、インフレが下がれば、それに応じて金利を引き下げることが可能になります。これが私の基本的な見方です。ただ、真の中立金利がどこにあるかについてはまだ不確実性があります。金融政策は効果が遅れて現れるため、ペースを落として慎重に中立水準を探りながら進んでいくのが適切だと考えており、それ自体に何か問題があることではありません。
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[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
最後に、米国のソブリン・ウェルス・ファンド(政府系投資ファンド)の提案についてのご意見を伺いたいです。また、もし設立されれば、FRBがその中で役割を果たす可能性はあるでしょうか?
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
FRBがソブリン・ウェルス・ファンドで役割を果たすことはないと思います。これは、典型的な財政政策の決定事項だと言えるでしょう。議会と大統領が判断するべきことです。ご存じのように、FRBのバランスシートには投資対象に関する法律の制限があり、我々は常に安全性を最優先にしています。FOMCが出した声明でも示されているとおり、バランスシートを国債のみに移行することを目指しており、住宅ローン担保証券(MBS)さえも含まない方向です。そのため、FRBがソブリン・ウェルス・ファンドの資産運用者になるのは自然な流れとは考えにくいです。
[ジェニファー・ショーンバーガー](Yahoo finance)
本日はたくさんの貴重なお話をありがとうございました。お会いできて感謝しています。またお話しできるのを楽しみにしています。
[オースタン・グールズビー](シカゴ連銀行総裁)
こちらこそ、お会いできるのはいつも楽しいです。
2. オリジナル・コンテンツ
オリジナル・コンテンツは、以下リンクからご覧になれます。
尚、本投稿の内容は、参考訳です。また、意訳や省略、情報を補足したコンテンツを含んでいます。
Yahoo Financeより
(Original Published date : 2025/02/08 EST)
[出演]
シカゴ連邦準備銀行
オースタン・グールズビー
総裁
Yahoo finance
ジェニファー・ショーンバーガー(Jennifer Schonberger)
シーナ・スミス(Seana Smith)
<御礼>
最後までお読み頂きまして誠に有難うございます。
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だうじょん
<免責事項>
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